#35 ロンツァート侯爵家の四男坊
「う~さぶっ・・・・何か売れそうなのないかな?」
もう南プシェムィシル村にも雪が舞う月になったようだ。新年も明けてもう1カ月近くたつ。こんな寒い中エアリィは久しぶりにC-2輸送機(自宅)に来ている。目的は勿論・・・古代兵器売却。横で俺は“はぁ・・・”という重いため息をつきながら半ば呆れている。何を言ってもこいつには駄目だと。
「で、何か用事とかないのか?」
「「へっ?」」
イリーナとエアリィは二人揃って俺に疑問詞を伝える。
「だって今日俺達久しぶりの休みなんだ。この頃エアリィとあまり会っていなかったし。何か用事でもあればサービスさせていただきますが?」
「!!」
エアリィの目は輝いていた。その目を見た瞬間の龍斗の心境は“俺やっぱ休みの日変えてもらおう”と。
「じゃあさ、前言った約束覚えてる?よね」
そう来ると思ったぜ。だが断る!!とは言えずに、むしろ俺の心は“そ、そんな目で俺を見ないでくれ!!”
「うん」
「じゃあさ、付き合ってよ。」
仕方がない。色々な条件付きだして食いさがらせよう。
「付き会うのは別にいいんだけどさ、俺は古代兵器を見分けることはできても、何処にあるかまでは分からん。古代兵器レーダーなどつけていないしな。」
「大丈夫。プシェムィシル地区の領主ロンツァート侯爵の城にある使い方の解らない無用の長物と呼ばれるものがあるのよ。スルトであるあんたが古代兵器と証明して売れば半分、いや、4分の一、いや、10分の一は最低限手に入る。うん。きっと手に入る」
「・・・えーと、突っ込みたいことが山々で何処から突っ込めばいいのやら・・・」
俺は何を言えばいいか迷っていた。たとえば何処に古代兵器という証拠がある?とか、誰だよロンツァート侯爵って?何それ?おいしいの?とか、その城はどこにあるんだよ!!とか、貴族が10分の一もくれるか?とかなどなど。俺がそれの一つを言おうとした瞬間だった。
「ハイスットプ!!反論禁止!!さぁ、行くわよ。」
だろうな。こいつに何を言っても無駄だと、今頃知ったわけではない。
「スマン、イリーナ。ついてきてくれ」
「はぁ・・・・しかたないわ。ついて行くわよ」
「そうこなくっちゃ!!」
俺とイリーナはエアリィに半ば強引に古代兵器探しに付き合わされるのであった。
出発して30分。今俺達は南プシェムィシル村中央部に来ている。村の中央部は俺達の休みとは全く関係なくにぎやかだった。
「そこのスルトのソルジャーさん。任務には欠かせない装備買ってかないかい?」
「装備ねぇ・・・」
俺は少し目を光らせていた。大尉階級の任務はそこそこ報酬が良く、俺は結構金に余裕があった。この際何か買っておこうと。ついでに今の俺の装備は左の腰に高須からもらった10式戦車の複合装甲でできた日本刀と下半身は破れたカーゴパンツの代わりに支給された鎧。腰にはこれまた高須からもらった9mm拳銃。左手にはG-shock。上半身には肩と腕に鎧を。胴はこれも高須からもらった防弾防刃チョッキに肩から89式小銃を懸けている。あ、これも勿論高須からもらったものだ。これにて俺の装備説明終了~
で、話は元に戻る。今俺はあるものを見ている。それは手袋だ。さすがにこれからもっと寒くなるであろう。こんな寒さでは手が動かなくなってくるだろう。だから俺は手袋を見ていた。
「リュートさん。いい目をしていますね。この手袋は何処かの魔術師がかけた魔法の手袋だそうです。詳しい話によるとどんな刃物で切っても破けることがないとか・・・」
「ふーん。防刃手袋ね」
ちょうどそんなものが欲しかったんだ。
「いくら?」
「ちょっと高いですぜ?ざっと5Ag!!」
「うっ・・・・」
日本円にして12万5千円。ちょっと高いな。という訳で俺は自分の財布の中身と相談することにした。ここしばらくずっとギルドの大尉階級の任務をこなしていたせいか大尉階級の任務はそこそこ報酬が良く、俺の財布は潤っており、15Ag入っていた。
「その話乗ったぜ!!」
“チャリーン”目の前の武具屋の懐が潤う音が聞こえた気がした。
「怪しい物買って・・・」
イリーナが俺の後ろでなんか怒っている。高い買い物しすぎたか?
「怪しいものではない。これは紛れもなく本物だ」
「どうしてそんなことが言えるのよ
エアリィも便乗して俺に言ってくる
「ふふふ、君達には解らないが確固たる証拠があるのだよ」
「なによ、自分だけ偉そーに」
「ふっ・・・」
君たちでは一生解らないさ。いや、多分俺のいた世界でもマニアックな人間しかわからないだろう。この手袋の中についていたタグ。メーカーがアーマージャパン。商品名がArmor-sp。この手袋は10年以上前の防刃手袋だが30J以上耐えれる当時では高性能な防刃手袋。かつてThe Best Houseで紹介されて堂々の1位を取った手袋だ。しかし、こんなこと言っても解る筈がない。そんなことを脳内で考えていた時だった。
“ザワザワ”と突然周りがうるさくなる。なんだろうと思えば急に村人たちは道を開け始め獣人族の少女達は一斉に隠れ始める。
「な、何の行事かしら?」
「さあな。この村出身者ないんで」
「とりあえずわたしも・・・」
3人とも道の端に寄って行く人ごみに押され一番後ろまで下げられてしまった。
「いったい何なのよ?」
「ロンツァート家四男坊が帰ってきたそうだ」
不意に聞こえた声に後ろを振り向くとそれはギルドで見なれた顔をしている人だった。
「アーノルド大佐・・・」
「それと君・・・えーとエアリィと言ったな。すぐに隠れたほうがいい。ロンツァート家末っ子のネイハムは」
時すでに遅し。プシェムィシル地区の領主の末っ子ネイハム・ロンツァートは彼女を放っておかなかった。
「こ、これは・・・・私のベストマッチなネコちゃんだ!!」
「遅かったか・・・」
「どういうこと?」
エアリィは変なメガネをかけたデブな貴族の坊ちゃんに目をつけられてしまった。
「彼女を捕らえよ」
「はっ!!」
デブメガネを護衛していた騎士たちは一斉にして俺達を包囲する。
(アーノルド大佐・・・これはどういうことなのでしょうか)
(彼は人間には興味のない・・・代わりに獣人が大好きなんだ)
(だから獣人族の女の子達は隠れて行ったのか)
「もしかしてロンツァート家の人ですか?」
エアリィは人ごみを押しのけてデブメガネの方へ走って行った。俺はその時嫌な予感がしていたんだ。
「うむ、そうだが・・・」
成程。彼に取り言ってもらえれば城には簡単に入れそうね。使える。
「あたしぃ~一度ロンツァート家の城へ行ってみたかったんですぅ~」
「はっ?」
俺は今見た映像が間違いないか目をこすり再び脳内再生をする。
うん。きっと間違いだ。そうに違いない。間違いに・・・
「だからぁ~もう!!ロンツァート家のお城に~行きたかったんですぅ~♪」
間違いじゃなかったぁ!!
「あ、あの、エ、エアリィが・・・」
「キャラが、変わった・・・」
俺とイリーナはいつもこのような人間に対しては強気なエアリィを知っているのでこのキャラ変に驚き唖然としている。
「???」
ネイハム本人もかなり困惑しているようだ。頭の真上からクエスチョンマークがたくさん出ている、ように見える。
「ダ、ダメ?」
腰を左右に振りながら尻尾をピンとたたせ、くねくねした動きを見せる。勿論俺達はそんな姿見ていられなかった。なぜって?こっちが見ていられなかったんだ。恥ずかしすぎて。
お笑い芸人の両親は子供がテレビに出ている時こんな思いをするのだろう・・・
「そ、そうか、そうか。それはいいことだ。よし来るがよい」
「で、でもその前に・・・ひとついいですかぁ?」
な、なんとも色っぽいというかかわいらしいというか・・・金のためなら何でもするのか?
「うむ、いってみぃ、いってみぃ」
超ご機嫌だな!!
「あそこの二人もみたいって言うので見学させていただいていでしょうか」
俺達に二次災害!!まきぞいはゴメンだぜ。
「ちっ・・・人間には興味ないが、仕方がない。ついてきたまえ」
「あ、ありがとうご・ざ・い・ま・す!!(なぜに俺がこんなことしなきゃあかんのだ!!)」
しかし仕方がないと言えば仕方がないのである。この国は共和国でなければ民主国家でもない。いわば皇帝陛下による独裁国家であり貴族中心の国家であるから、皇族の下に貴族。その下に平民。またその下にムスペル人。獣人族はとりあえず平民であるが・・・
もし平民が貴族に逆らったら・・・殺されても文句は言えない。だ、そうだ。
成程。それなら他の獣人族の少女たちが一斉に隠れたのも解らない事もない。きっと事例があるのだろう。一回捕まって二度と帰れなかったとか・・・・
(うまくいった!!)
(エアリィ。本当に大丈夫なの?)
イリーナはテンション向上中のエアリィを心配している。俺達は今ロンツァート侯爵家所有の馬車。ロンツァート侯爵家末っ子の四男坊ネイハムの所有物である馬車と言った方が正確的であるが、その馬車内にいる。
(大丈夫大丈夫。古代兵器だけかっぱらってさっさと帰るわよ)
(そんなむちゃくちゃな)
(そのためにあんたを呼んだのでしょう。いざとなったら何とかしてよね)
(・・・もしそんなことしたら俺死刑だぞ・・・)
俺とイリーナは憂鬱になりながらもエアリィに連れられプシェムィシル領主ロンツァート侯爵家の城へと行くのであった・・・