#32 来世で幸せになってくれ
「親父さん!!親父さん!!」
「ダメだ・・・・死んでるぞ。しかも死んでからかなりたっている。ざっと見積もって1週間」
高須は由利菜の父親の白衣や周りに飛び散っている血に触れてかたまっていることを確認する。
「そんな・・・・なんで・・・・?」
俺は無性に泣きたかった。理由は解らない。
「おい、リュート・・・・こんな物があったぞ」
高須は血に染まった紙を俺に渡す。
「遺書?・・・・・」
“もし龍斗君がこれを見てくれていると俺はうれしい。もし君がこれを読んでいるということは君は助かったんだね。良かった。あの子の根はとてもいい子なんだ。ものすごく家族を大事にする子で、お兄ちゃんべったりの。修二が亡くなった時は壊れるくらいおかしくなったんだ。だけど、それでもあそこまで立ちあがって。君にはものすごく迷惑をかけたと思う。だけど、それでも、由利菜をよろしく頼む。俺は、戦争に行く修二を止めることもできなかった、復讐に燃える由利菜も止めることができなかったどうしようもないダメ親父だったけど、それでも俺は地獄でお前達を見ている”
「龍斗。ここに9mm拳銃が。多分これで自殺したのだろう」
なぜここに9mm拳銃があったか解らない。でも想像はできた。俺の懐に入っていた9mm拳銃を取ったのだろう。
「ごめんな。ごめんな、親父さん。あんたの願い事かなえることすらできなかった。由利菜は死んじまったよ。まだ、あの時なら止めることができたかもしれないのに・・・・」
「龍斗・・・」
「うわあああああああ!!」
天照治療院には龍斗の泣き声が響き渡っていた。
♦
「ただいま・・・・」
「おかえ・・・り・・・・リュート?」
ものすごくやつれた顔をしていたリュートにベットに横になっていたイリーナはかける声もなかった。
「あ・・・の・・・」
“ポン”
無理やり声をかけようとしたイリーナはふと肩の置かれた手によって阻止された。
「・・・・」
無言で首を横に振る高須はそっとしておいてやってくれと、言葉なしでもイリーナに伝わったようだ。
「・・・・・・・」
――――――夜
「悪い・・・・飯いらねぇ」
「無理して食べることもない。気がすんだら食べに来い」
「ああ。そうさせてもらう」
俺は食堂までは来たものの飯がすべて不味く、食べる気にすらならなかったから、病室に戻って休むことにした。
俺、なんでこの国に来たんだろう・・・・
俺が来なければ彼女も・・・・親父さんも・・・・死ななくて済んだのに。
俺が来たから、何があったか知らないけど高須が首謀者だと知れ渡った。
俺がローレライの中であのまま死んでいれば良かったのか?
俺・・・・どうすればいいんだ?
誰か・・・・答えをくれよ。
「・・・・・此処は何処だ?」
目が覚めて気が付いたら、辺り一面真っ暗闇な世界。だれもいない。いや、むしろ今はこの世界の方が俺にはいい。今は一人の方が気が楽だ。
“ドン”
俺は取りあえず何処が天井で、どこが床だかわからない暗い世界に一人腰をかける。
「ふぅ・・・・俺にとってはこういう世界の方がお気に入りなのか?」
「だったら私と来る?」
聞いた事のある声だった。数年前に“お兄ちゃん”と聞いたのが最後だった。
「由利菜か・・・・」
ふと後ろを向く。そこにいた由利菜は死んだ時のままの由利菜。不思議と由利菜がいることに疑問が持たなかった。なぜ生きているのかということに・・・
「ねぇ、お兄ちゃんだけずるいよ。一人でのこのこと生き残って・・・私のこと助けないで見捨てて・・・」
「そうだよ・・・・」
もう一人の由利菜の声も聞こえた。
「私の復讐を邪魔して・・・・どうせならあんたも連れて行ってあげる。」
俺に近付いてくる二人の由利菜。俺が殺したのか・・・・
「く、来るな!!」
「どうして?お兄ちゃんが悪いんじゃん。死にかけてもすぐ生き残る、」
「この死にぞこない」
「由利菜を頼んだぞ」
ふと現れる親父さん。しかし、俺はその言葉にこたえる言葉が口から出てこない。
「・・・・・・・」
「どうしてそんな顔するんだ?・・・・もしかして、由利菜は・・・・」
「・・・・・・」
「君の所為だ!!由利菜が死んだのは!!」
「お兄ちゃんの所為だ!!私が助からなかったのは!!」
「私は復讐もできないで死んだ。あの時あんたさえ止めていなければ、私の復讐は成功していたし、何より私は死なずに済んだ!!あんたの所為だ!!」
「や、やめろ。みんなして、みんなして・・・俺の所為にするなぁ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
・・・・・・・夢か・・・・体中に噴き出ている汗によってべた付く寝間着が気持ち悪い。
“むぎゅ”
なんだ?この感覚・・・・真っ暗で何が何だか分からない。
「リュート・・・・ものすごくうなされていたよ。何があったか私は解らないけど、何でもかんでも一人で抱え込まないで。リュートは一人じゃないよ。私も、エアリィも、エーリッヒさんも・・・タカスさんも。それに、ポートランド皇国まで付いているんだから」
イリーナか。俺、こんなイリーナ初めて見た。今まで14の小娘だとしか思っていなかったが(俺の本当の年齢は27だからな。どうしても子供にしか見えない)こんなにやさしく大人びた、強いて言うならば小さい時に感じた母のような、そんな感じに浸っていた。だが・・・
“ムニュ”
「・・・・エアリィの言うとおり・・・頼りがいの無い胸だな」
「・・・・・リュート・・・・あんたって人は・・・」
俺を抱いたままイリーナは震えながら、そして暗い中でも顔が引きつっていると解る位顔がひきつっていた。
「ん?」
“ガツン”“パリーン”
「うるさい!!胸が小さいこと気にしているのに!!ひどいよ。・・・・・まったく、心配した私が馬鹿だった!!」
近くにあった何かで俺は強打された。しかも、殴った音が“ガツン”でその後の効果音が“パリーン”て、何で俺を殴ったんだ?
「もう知らない!!」
“バサン”とベットの布団を懸けてふて寝するイリーナ。
「いてててて、・・・・・・悪かったって」
「・・・・許さない」
「ごめんって」
「・・・・・やだ」
まずいな・・・・完全に怒ってる
何か言うことは・・・・
「・・・・・・それと・・・・・ありがとう」
「!!」
「俺、この国に来て誰も救えなかったから一人で何か抱え込んで・・・でも、俺にはたくさんの味方がいたんだって。思い出したよ。心配掛けて悪かったな。それじゃあ、おやすみ」
「・・・・おやすみ・・・バカ」
「ん?」
「なんでもない!!」
―――――――早朝
「親父さん・・・・由利菜と共に眠ってくれ。そして、また来世で家族になってその時は修二さんと共に・・・・・・」
「・・・・う~ん。良く寝た。・・・・あれ?リュートは?」
目を覚ましてすぐ隣のベッドを確認するがリュートの姿が見えない。
”バタン”と扉を開ける音が聞こえたためその方向を向くイリーナ。
「リュート?」
「ああ。野暮用でちょいとね」
「ふーん。何の用事?」
「そうだな。・・・・強いて言うならば罪滅ぼし?かな」
「へぇ。」
「もっと簡単にいえばお墓参りかな?」
「あの子の?」
「その子が眠っているあの家族の墓かな?手を合わせてお花をささげて・・・そして、願った。」
“来世で幸せになってくれ”