#30 アカツキの大地で・・・
「いてててて・・・・・あ~もう!!イリーナのバカー!!まつたく、戦うならこちらに巻き込まないように戦ってよね!!」
真っ逆さまに倒れている救急車の車内で強打してぶっ倒れて、起きた途端文句を数十秒のうちに連発するのはエアリィ。
「仕方ない。彼女が戦わなければ五稜郭の寝室で僕達は黒こげ状態だ」
「そうね。イリーナに感謝しなくちゃ」
アルバート皇子とローラ皇女は口をそろえてイリーナを称える。たしかに、彼女のやったことは使節団を守り、大和皇国皇帝高須泰宜の命を救ったのだからたたえられて当然と言えば当然である。代わりに失ったものは五稜郭。
「だけど、五稜郭がぼろぼろ・・・・・」
「まあ、そこは仕方がない。建物ごとき、もう一度作り上げればそれでいい。命は生み出すことはできるけど死んだ命を蘇らせることはできないからな。俺は彼女と龍斗に感謝しよう」
「そこは同意できる」
「ところでさ、少し疑問に思っているんだけど・・・・あたしたち、何か忘れてない?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
高須とエアリィの間で変わった間が創造される
「「あ」」
何かを思い出したように二人の息がぴったり合う。
「龍斗!!」
「くそっ・・・・此処は何処だ?」
焼け広がる大地・・・・燃え広がる建物・・・・空へたてのぼる煙。たった二人でここまでのことができるのかと疑いたくなる光景だった。もっと正確的にいえば二人の攻撃により引火した弾薬・ガソリン類が爆発してここまで被害が拡散した。
「けほ、けほ・・・・取りあえずあいつらに会わないと・・・・」
俺は崩れ去った建物の中を探索する。
「くぅう・・・・痛みが戻って・・・」
歩くたびに足から身体へと伝わる振動が俺の腹の痛みを増幅させる。日本で軍人だっところよりも致命傷の怪我が多いってどんだけ日本は平和だったんだと、俺はシャンバラへ来てつくづく思う。平和っていいな・・・
「!!」
そんなあからさま平和ボケ日本人らしきことを考えていると・・・・いや、平和ボケの日本人はむしろ平和が当たり前だから考えないか・・・・。って、そんなことはどうでもいい。目の前に見たことのある少女。体中傷だらけでぼろぼろ。服が破けていて、セクシーだが、そんなことは気にしない。
「イ、イリーナ?」
かなりやつれていて目をつぶったまま動かない少女を俺は抱き上げる。
「おい、どうした?おい、イリーナ!!」
「・・・・・・」
だめだ、返事がない。ただの屍のよう・・・・・ではない。
「よいしょっと」
俺はぼろぼろのイリーナを背負い、高須達と合流するためほぼ全壊の五稜郭を歩き続ける。
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・・待ってろよ。イリーナ。お前が俺達を助けたように俺もお前を助けてやるからな。」
何十分歩いたのだろう。なんせ五稜郭は広い。半径20kmで円形の城壁に囲まれ、地球の技術を投入したこの世界ではオーバーテクノロジーの軍事要塞。いくら歩いてもあいつらには会えない。それどころか魔法の効き目が切れたようで痛みが完全に復活し止血も効果切れて再び出血し腹は朱の色に戻っていた。
「まずいな・・・・イリーナを背負ったままじゃ・・・・余計に血が・・・・・」
「うううううう」
後ろから聞こえてくるイリーナの唸り声。よほど苦しいのだろう。何があったか俺には解らないが、よっぽど力を使ったのだろう。
「大丈夫だ。あいつらに会えれば、きっと何とかしてくれるさ」
「おーい!!リュート!!」
「どこだ?いたら返事しろ!!」
「いなくても返事してくれ!!」
「お兄様・・・いなかったら返事はできませんが・・・・」
高須、エアリィ、アルバート皇子、ローラ皇女4人は必至で龍斗を探している。
「そういえば・・・・物静かになったわね」
エアリィはあることに気づいた。
「・・・・・METの流れが消えた・・・・」
みんな一斉に空を見上げる。先程までまるでオーロラのように空に流れていたMETはいつの間にか消えてなくなっていた。物静かになったと同時に。
“ゴトン”
物静かな時に聞こえた物音は周囲の人間を後ろに振り向かせるには十分すぎた。4人は一斉に物音がした方向を向く。
「・・・・誰?」
エアリィは焔と広がっていく煙、暁色に染まっていく大地に立っている人物がさ熱気のせいで最初は誰だか分らなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「リュ、リュート!!」
エアリィはリュートとわかった瞬間に急いで龍斗の方へ向かう。
「エアリィか・・・良かった」
「抱っこしてるのってもしかして?」
「ああ。イリーナを、イリーナを助けてやってくれ」
“バタン”
龍斗はそう言うとイリーナを抱えたまま倒れてしまった。その時イリーナの体に染み込んで来る血を見て気付いたのであった。
「もしかして、リュートその傷で・・・・?」
傷口から再び出血していることに・・・
「お前達何をしている!!急いで龍斗に治癒魔法をかけろ!!あれだけ長いこと俺達を探していたなら、出血していた時間も短くはない。」
「わ、わかったわ」
3人は一斉に龍斗の傷口に手を当て“Heal”と唱える。
「くそっ・・・・何か移動できる物は・・・・ここからだと遠すぎる!!」
高須は周りを見て探していた。しかし周りはあたり一面荒廃していて五稜郭の半分は廃墟だった。あきらめかけた時、ある機械音が聞こえる。“ブロブロブロブロブロブロブロ”と。
「ユ、UH-60!!」
高須はUH-60Jを見つけるとすぐさまに拳銃を上に向けて発砲する。
「た、高須1尉!!ご無事でしたか!!」
拳銃の音はうるさいヘリのエンジン音があってもパイロットには聞こえたようだ。
「その声は大鷹3尉。再開を祝いたいところだが、そんな暇はない。すぐさま野外手術システムのところまで送ってくれ!!」
「了解。おい、パイロット!!下までおろせ!!」
「はっ!!」
「龍斗・・・・死ぬなよ・・・」
“ブロブロブロブロブロ”
UH-60Jは再び飛んで行った。