#28 決着
「はあああああ!!」
「くっ!!」
燃え広がり辺り一面黒煙が立ち上っている五稜郭の空では五稜郭に集合するかのように流れてくるMET。そして、激しくぶつかり合う二つの粒子。METは本来緑色なはずなのだが、二人に集まっているMETの色は違った。まるで裏表のよう。漆黒の粒子をまとった由利菜。白銀の粒子をまとったイリーナ。
「しつこい男も嫌いだけど、あんたみたいにしつこい女も嫌いよ!!」
「お生憎様・・・こちらもしつこい女は嫌い。特にあなたみたいな人!!」
「ぐううう!!」
「くっ!!」
両者ともに引けを取らず、幾度となく衝突している。そして、衝突した時の被害は下の物だけでなく、包囲している正規軍にも来ていた。
「なかなかやるじゃない」
「そのセリフそのまんま返すわ」
♦
“ブロブロブロブロブロブロブロブロブロブロ“
「くっ!!ヘリの制御が利きづらい!!」
「大鷹3尉!!どちらを止めれば・・・」
「先程の話によると黒い粒子の女の方は龍斗先輩や高須1尉を殺そうとしていから・・・・・全隊員に告ぐ。全力を持って白銀の女を支援せよ!!」
「了解」
「各機解散!!散らばるんだ。彼女達の攻撃の被害を喰らうぞ」
「ではどうやって攻撃を?IRミサイルでは識別してくれません」
熱を感知して目標物に当たるミサイルが彼女たちにあたるはずがない。大鷹3尉はそれぐらいわかっていたが、未だに困惑していた。そして、結果的に出たのが、無茶を言う内容だった。
「目視確認で機関砲とロケット弾攻撃を。」
「無茶ですよ。あの高速で動いている物体を目視攻撃しろと?」
「当たらなくてもいい。避けさせて無駄な動きをさせるだけでも十分だ。それだけでも彼女の支援になる。わかったか?」
「りょ、了解」
AH-64D アパッチ・ロングボウは標準装備の30mm機関砲で、UH-60Jは扉を開けM134ミニガンを漆黒の翼で漆黒の粒子をまとう少女、天照由利菜に標準を合わせる。
“ドゥドゥドゥドゥドゥ”
とたった一人の少女に向けて非人道的な攻撃が繰り返される。これが生身の人間なら蜂の巣どころかカスだけになるだろう。しかし、彼女達は例外だった。
「ちっ!!」
後ろからの攻撃を察したらしく、避ける。その時のすきをイリーナは見逃さなかった。
「後ろがガラ空きだよ!!」
「ちっ・・・これでもくらってて!!」
右手を後ろに持ってきて由利菜はたくさんの火の玉を落としていく。しかし、さきほどの戦闘の通りイリーナには全く火が利かない。口で言わずとももちろんイリーナは無傷だった。
「ずいぶんと火がちっちゃくなっちゃったね・・・どうしたの?」
そして、由利菜が放った焔は先程と比べるとかなり小さくなっていた。
「たくさんばらまいたから・・・・小さくなった・・・だけ・・・よ」
なんだ?何かがおかしい。さっき・・・この女がおかしくなってからだ。強力な魔法を使おうとしても3段階ぐらい弱いのになる。無理に力を使っても、何にも強力にならない・・・・どういうこと?それに息も上がってきた・・・・
「ずいぶんと息が上がっているわね。どうしたの?目の前の障害である私を倒さないの?それともあなたの覚悟ってこのレベル?」
「くそっ!!・・・・・私の覚悟をなめるなぁ!!」
「別になめてなんかいないわ。むしろここまで復讐に手を染められるあなたの覚悟・・・褒めてもいいぐらい。でも、褒めてあげるけど、手は抜かないよ!!」
再び衝突した白銀の槍と漆黒の剣。先程までは五分五分だったはずが、もう既に漆黒の剣・・・由利菜が力負けしている。
「なぜだ・・・・・なぜ・・・私が・・・」
その光景を見て、救急車を待っていた4人の一人アルバート皇子は口を挟んだ。
「そうか・・・・」
「何がそうかなんだ?」
「魔法粒子がイリーナに向けて集まってきている。ずっと向こうからも・・・・つまり彼女“ヴァルキューレ”は周辺どころか遥か彼方の魔法粒子までをほとんどを自分に吸収させる格別の人間だったんだ」
「というとお兄様・・・イリーナ・・・いえ、ソフィア家は・・・」
「もしかしたら、オーディンの末裔かも知れない・・・・スルトであるリュート君とオーディンの末裔であるイリーナ。二人が出会ったのも何か運命的な物を感じるよ」
「すいません!!道の損傷が激しく遅れました」
アルバート皇子の解説が終わるのと同時に救急車が来た。
「ようやく来たか。龍斗を後ろに乗せろ。・・・・・早くするんだ。野外手術システムのあるところまで」
「了解」
救急車は漆黒の翼と白銀の翼の激戦地の真下を走って行った。
♦
「なぜ私が・・・こんな・・・奴に・・・力負けを・・・」
由利菜はただ重力に任せて落ちて行った。
「今がチャンスだ!!一斉攻撃」
空中で構えているヘリ部隊、下で構えている機甲部隊、歩兵部隊は一斉に由利菜めがけて攻撃を仕掛ける。いくつもの弾丸、砲弾が空、地から次々と由利菜に向けて放射される。
「・・・だが・・・・負けるわけにはいかない!!」
再び翼を広げ空へ舞い上がる由利菜に容赦なく襲ってきた弾頭は由利菜の魔法によって吹き飛ばされた。
(これが最後だ・・・・私にはもう体力が残っていない・・・なら、せめて、この五稜郭まとめて吹き飛ばしてやる!!)
五稜郭に思いっきり突っ込む由利菜。
「何をする気なの?・・・・ま、まさか?五稜郭を吹き飛ばすつもり?そんなことしたらあそこにいるみんなに被害が・・・」
そんなこと考えている暇はない。そう考えたイリーナは白銀のやりの先にMETを集める。
「もう・・・・こんなことやめて・・・」
“シュウウン”
と真直ぐに白い光が五稜郭へ突入する由利菜の背中を貫いた。
「かはあぁぁぁぁ!!」
落ちていく身体と意識の中、由利菜は思う。
そっか・・・・私負けたのか・・・・ごめんね、お兄ちゃん。私できなかったよ。お兄ちゃんの仇とれなかったよ。でも、うれしいんだよ。・・・なんでって?・・・それは
“もうすぐお兄ちゃんに会えるから”