#24 裏の顔
今回はかなりダークな話です。
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
俺は現在森の中をがむしゃらに逃げ回っている。一人の少女と共に。
「お兄ちゃんが悪いんだよ!!」
「そんなこと俺が知るかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声は木霊となり山中に響き渡った。
何故、俺達がこんなことになったのか。出発して歩き始めて45分。山道に入って5分のところだった。
「お兄ちゃん・・・今あいつら眠っているから。魔獣だけど、手を出したり静かにしていれば群れで暮らす人畜無害な連中だから」
「お、おう」
俺は由利菜が指をさした方向を見ると明らか人畜有害そうな、それはもう露骨にグロく、牙と舌を出し、よだれグジョグジョで眠っている狼みたいな。まるで狂犬病にかかった犬のようだ。
「とりあえず静かにここを抜けよう。気をつけてねお兄ちゃん」
由利菜がそう言った時だった。
“むぎゅ”・・・・何この感覚・・・・恐る恐る俺は足元を見る・・・・それは明らかに毛の生えた尻尾・・・・尻尾の持ち主は・・・・
「・・・・・」
「・・・・・」
俺と由利菜は青ざめた顔で目を合わせる。
「ハハハハハ」
「ハハハハハ」
「・・・・・逃げるぞ!!」
「待って!!速いよ」
というわけだ。理解できたか?
「どうするのさ。一体ならともかく七体だよ。あんなの相手じゃ敵わないよ。それに私魔導士見習いだし・・・」
「でも、このままじゃ追いつめられてジリ貧だぞ。」
「じゃあお兄ちゃんが何とかしてよ!!兵士なんでしょ?それにお兄ちゃんなんだから」
どういう理屈だそれ?まあ、この場合・・・確かに・・・しかし、なまっている俺にこんな化け物7体を相手にしろとは・・・鬼畜ゲーすぎる。
「キャアァ!!」
「由利菜!!」
俺は急いで由利菜の方に駆け寄る。
「木の根っこで引っかけたみたい。・・・もう大丈夫。早く逃げよ」
由利菜がそう言った時だった。逃げる?そんなこと時すでに遅し。俺達はやつらに囲まれたのだった。
「シャァアアアアアア!!」
一斉に俺達に襲い掛かってくる狂犬病の犬ども。何かないか何かないか・・・・俺の頭の中で様々な英語のワードが出てくる。攻撃的な言葉・・・・・
「Charged particle gun(荷電粒子砲)」
“パシューーーーン”
なんでこんなマニアックな言葉が出てきたか俺には解らない。とりあえず英語で荷電粒子砲なんてマニアックな言葉を俺が言うと俺達を覆うようにして襲ってきた狂犬病の犬どもは俺が放射した荷電粒子によってあとかたもなく消え去っていた。
「・・・い、今の・・・・な、なに?」
由利菜は俺の魔法を見て茫然としている。無理もない。俺の身体が緑色に発行したと思いきや、突然体中から白い光線が放射されたのだから。
「今のは家電粒子砲と言って」
「漢字違うよ」
良く解ったな。
「ああ、頭ふらふらして漢字間違えた。荷電粒子砲って言って・・・め、めまいが・・・」
そう言った途端俺の意識は飛んで行った。
♦
「う、う~ん」
「あ、起きた」
目が覚めると俺は横たわっていた。真上に由利菜の顔。時刻はもう既に夜だろう。木々の隙間から見えるうっすら明るく光る月と星空、暗闇がそれを証明していた。
「なんかすっごく体がだるいんだけど・・・」
「あれだけ強力な理解不能な魔法を使えば誰だってそうなるって。お兄ちゃんかなり寿命縮んだでしょ?」
「残念だが俺は失い人なんでね。オートで魔法粒子を吸収しているから大丈夫だ」
「大丈夫ならぶっ倒れることなんかないって。体内に蓄積されている以上の魔法粒子を使う魔法を使ったからよ。まだ寝ていなさい」
「・・・心配掛けてすまないな。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう」
「うん」
その時の彼女の顔はいつものまだ子供が抜けていない顔ではなく大人びた、きれいな笑顔だった。
「う~ん。良く寝た」
木々の木漏れ日がまぶしく、慣れていない目には少し苦痛だった。目が覚め、横を見れば幼い顔に戻っていた由利菜の寝顔があった。
「お、お兄ちゃん・・・何で死んじゃったの・・・」
「・・・」
別に俺が直接関係しているわけではないが、俺の親友が大和皇国内戦を起こした張本人なため、少しばかりか胸の奥がいたんだ。
「安心しろ・・・・お兄ちゃんはいる」
俺は由利菜の手をそっとさすった。その瞬間彼女の顔は不気味な笑みを俺に向けてきた。
「そうだね。お兄ちゃんはいつも由利菜のこと見守っていてくれるもんね。大丈夫。きっと私はできる。首謀者の高須泰宜を殺すことも・・・」
「!!!!!!!」
なんだ・・・・俺の聞き間違いか?そんなはずはない。こんなにはっきり言っているのに聞き間違えるはずはない。俺は背中が凍るような寒気に襲われ、とっさに由利菜から手を離した。こんな娘が・・・そんなこと出来るはずがない。なんなんだ?今の一言は・・・
「う、う~ん・・・お、お兄ちゃん。元気になった?」
「あ、ああ・・・」
かなり年下の子供なのに俺はものすごく恐ろしかった。口調もぎこちなく、少し足が震えていた。
「そ、そろそろ、歩き、は、始めるか・・・」
寝言だから、気にすることはない。自分の心にそう言い聞かせていた。だが、俺の心拍数は上がっていく一方だった。・・・なぜ、首謀者が高須泰宜だと言い切った?なぜ、こんな漁村の治療院の娘が首謀者の名前を知っている?いや、現皇帝が高須泰宜だからか?その前に今、この場所でのことを考えよう。
「お兄ちゃん口調変だよ」
「そ、そうか?ははは、ははは、はは」
「そっか。お腹すいたんだね。ご飯にしよう」
「う、うん」
――――――天照治療院
「く、くそ!!」
机を両手でどんどん叩いているおっさんがいる。まぎれもなく由利菜の父親である。
「なぜ俺は!!由利菜を止められなかったんだ!!・・・・かつて旧皇帝派だった正規軍に入って従軍した修二を止められなかったから、その負い目で由利菜も止めなかったのか?」
由利菜の父親は頭を抱えて机に伏せている。独り言をぶつぶつとつぶやきながら
「龍斗君を助けた時にあの男さえ来なければ・・・・・・」
“コンコン”家の扉をたたく音が聞こえる。全くしゃら五月蠅い。こんな朝から・・・
「はい。仙崎ですが」
彼はだるそうに扉をあける。
「そちらに傷だらけの少年はいませんか?」
「いるが・・・何ようだ?」
「取りあえず、その少年のことを知る者だが」
「・・・・入りたまえ」
「はい、お茶です」
由利菜は黒い制服をまとった男にお茶を出した。
「ありがたい。・・・・(なんだこのくそ苦い飲み物は?お茶と言ったからてっきり紅茶だと思ったが・・・)」
「どうしました?」
「君は・・・天照由利菜・・・・大和皇国の魔導士でかつて最強と言われた・・・・旧皇帝派の魔導士で内戦終結と共に姿を消した。」
「!!」
「貴様!!何が目的でここに来たんだ」
目の前に座っていた父親は机をたたいて男を睨む。
「まあまあ、落ち着いて。もしかしたらあなた方の手伝いをできるかもしれないので・・・」
「手伝い?」
「おっと、自己紹介が遅れてましたな。私こういうモノです」
男は何かが書かれた小さい紙をを俺に渡してきた。
「東オーレリシア帝国陸軍国家戦略情報部部隊隊長ヴィクトル・チェブリコフ・・・」
「東オーレリシア帝国とは現皇帝の大和皇国とこの前戦争したばかりの国ですよ」
「・・・・で、手伝いとは?」
「現皇帝・・・つまり旧皇帝派を一掃した人間・・・誰か知っていますか?」
「そんな奴知らん」
「そうですか・・・そう言えば由利菜さん。あなたのお兄さん・・・内戦の際現皇帝派の軍に殺されていますね」
「な、なんでそのこと知っているの?」
「そこは置いておいて、現皇帝は“高須泰宜”と呼ばれる男。そして、そこにいる少年。彼はその男と大親友なんですよ。」
「!!」
由利菜の目は殺気に満ち溢れ、その眼差しは龍斗に向いていた。
「ただし、皇帝を殺したければ彼を殺してはいけません。彼と親しくなり、そして、彼の怪我が治れば彼は東京へ行くでしょう。その際、高須泰宜の懐に入れます。あなたのような魔導士なら、皇帝を殺すほどの実力はあるでしょう。殺された兄の復讐をしたいなら・・・ですけど。それとこれをとりあえず渡しておきます。」
そう言って渡してきたのは黒い何かだった。
「小さいでしょう。コンパクトになった銃です。このトリガーを引くだけで、弾が出てきます。もし彼を殺したいのならこれで。兄の仇を取りたいのなら彼をうまく使って、懐に入り込むことです。では、私の要件はこれで。では」
男はそう言うと家を出ていった。
「お父さん・・・」
「もう終わったことなんだ。こんなことに手を染めてはいかん。由利菜なら解ってくれるだろ?」
「そうだね。お父さん」
「ゆ、由利菜」
俺は由利菜の言葉に安堵した。しかし、それは次の一言ですべてが覆される。
「もう終わったことなんだ。だからもう一度始めないと・・・復讐しなきゃ・・・。このお兄ちゃんを使って・・・姿かたちそっくりだけど・・・私の仇・・・の親友。」
「いかん。それだけは絶対にいかん」
「止めるの?お父さんは私の邪魔をするの?・・・・私から大切なものを奪っていったあいつらに復讐するの。止めるのならお父さんでも容赦しないよ」
「ゆ、由利菜・・・」
「そうときまればこのお兄ちゃんの怪我を早く治さないと」
「な、なんでこんなことに・・・す、すまない龍斗君。君は・・・関係ないのに」
彼は目についた黒い筒を手に持った。
「せめて、こうすれば、俺の背中が楽になる。修二・・・せめて・・・天国で由利菜を見守っていてやってくれ・・・こんなどうしようもない父親で悪かった・・・」
男は少しためらい、間をあけて言った。
「せめてもの償いだ・・・俺は地獄で見上げているから」
“バーン”天照治療院は銃声が鳴り響いた。そこには男の死体と飛び散る血痕。そして、9mm拳銃が落ちていた。