#22 本当の気持ち
東京の軍港でポートランド皇国海軍新鋭装甲艦ローレライの修理兼改修工事を五稜郭から見ている二人の人間がいる。一人は大和皇国の皇帝高須泰宜。もう一人はポートランド皇国次期皇帝アルバート・ポートランド。
「全力を挙げてローレライを再建造しているが試運転等なしでも最低1ヶ月半を要するが、いいだろうか?」
「こちらとて、迷惑をかけた側ですからこれ以上望むことはありません。」
「そうか。では1ヶ月半大和皇国でごゆっくりと」
「ということだ。1ヶ月半は大和皇国に滞在することになった。外出許可はもらっている。五稜郭にこもるもよし。外出して気分転換するもよし。夜まではほぼ自由行動だ」
「イリーナ、自由行動だってさ。気分転換にどこか行こうよ。」
「あ、わたしはいいよ。そういう気分じゃないし」
(・・・まだあいつのこと根に持ってんのか)
「だめだめ、気分とか関係なし。ちょっと私についてきなさい」
エアリィは強引にイリーナの手を掴み外へ出る。
「ちょ、ちょっとエアリィ」
「な~に?」
(目、目が・・・・踊ってる)
逆らうのは危険だと判断したイリーナはしぶしぶエアリィについて行った。
――――――夜 天照治療院
「いてっ!!」
「おとなしくしてなさい!!」
「はい・・・」
俺は今上半身を妹と同じ名前で瓜二つの少女に見せている。いや、そう言う趣味じゃないんだ。ジークフリートとの戦いの後助けられて3日間眠り続けた末意識を取り戻した俺は、それから一週間たったが、本当は傷がものすごくひどく、他にも所々骨折していたらしい。あまり痛みを感じなかったのは、由利菜ちゃんが魔法で一時的に痛みを消したからだ。第一次ジークフリート戦の時のエアリィの治癒魔法みたいなのだ。
「でも、すごい傷だね。火傷に、骨折に、胸からおなかにかけては肉が裂けてるし・・・何したらそうなるの?」
「・・・・まあ、色々とあったんだ。色々と・・・」
俺・・・何か忘れている気がする・・・・
「色々とね・・・まあ、あえて聞かないけど・・・じゃあ一つ聞いていい?」
「ん?」
「いつまでここにいてくれる?」
そうだ。思い出した・・・・あいつらのこと忘れてた・・・
「とりあえず・・・怪我が治ったら、東京へ行く」
「そっか・・・・じゃあ・・・・あの・・・・・・・・・・んでいい?」
声を小さくしてもじもじする由利菜ちゃん。名前一緒で顔もそっくりだが性格だけはさすがに違ったな。
「ごめん。」
「そうだよね。だめだよね」
え?いや、そう意味じゃなくて…
「声が小さくて聞こえなかったって意味なんだけど。もう一度言ってくれ」
「だから・・・その・・・私のおにいちゃん半年前に内戦で死んじゃったってお父さんから聞いたでしょ?・・・で、お兄ちゃんと龍君そっくりなんだよ。だから・・・・」
ついでに龍君というのは俺のことだ。
「だから?」
「せめて・・・ここにいる間だけお兄ちゃんって呼んでもいい?」
なにをー!!むしろ俺からお願いしたいくらいだ!!・・・・いや、別に・・・先程言ったとおりそう言う趣味じゃないんだ。俺にも妹がいたから・・・名残惜しいみたいな・・・って意味違うね。
「OK!!むしろ俺からお願いする」
「やったー!!じゃあ今日から龍君は私のお兄ちゃんだよ。ずーと!!」
「うんうん・・・・ずっと!?」
「うん。ずぅぅぅぅっと!!」
「あの~それは無理があるかなぁ~はははは・・・・」
「ダ、ダメ?」
そんな目で俺を見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・でも、ちょっと懐かしいかも・・・
「最初に言ったじゃん。俺がここにいる間だけというよりも・・・」
もう本当のこと言っちゃえ~
「大和皇国にいる間だけ」
「???それどういう意味?」
「俺は元々大和皇国の人間じゃなくて、オーレリシア大陸って言う大陸のポートランド皇国から来た親善大使。いわば、大和皇国と同盟を結びにお願いしに来た人。だから、怪我が治ったら東京へ行って、本国に帰るの」
っく・・・許せ、由利菜。それが定めなのだ。運命なのだ。俺にはまだポートランド皇国に行って同盟の証明書を皇帝陛下に見せつけるという仕事が残っているんだ。実際そんな仕事ないけどね。
「・・・・どうしても?」
「だ~め」
「じゃあ、ポートなんとかって国に帰るまでの間一緒にいるのは?」
もうそんな目で俺を見ないでくれ・・・俺が罪人に感じる・・・
「・・・仕方がない。それならいいでしょう」
「やった!!」
ふぅ~やっと解放された。俺は肩をなでおろし包帯ぐるぐる巻きの身体にジークフリートによってぼろぼろにされた防弾チョッキを着る。ついでにこれは人質解放作戦前に高須から支給された物だ。今はこれ以外着る物がない。
「・・・・話変わるけど、あとどれくらいで怪我治るんだ?」
由利菜は顎に手を当てて首をかしげている。しばらくの間無言で俺を見ていた。
「そうだね・・・・3週間ぐらいかな?」
「ジークフリート戦から1カ月か・・・」
さすがにあれだけ攻撃を受けたからローレライの修理にも時間がかかるだろう。高須といえども使い方も知らない奴にあきづき型護衛艦を渡すわけもない。例え渡したとしても、使い方を覚えるだけで1カ月はかかるだろう。なら大丈夫か・・・・・・なんか眠くなって・・・
「あれ・・・寝ちゃったよ。・・・・・お休みお兄ちゃん」
俺にはその声は全く聞こえなかった。
――――――――五稜郭
「いや~珍しい物たくさん買っちゃった。これなら、たくさん大儲けできるぞ」
エアリィは両手いっぱいに荷物を持っている。そして、その隣にはいやいやながらしぶしぶ付き合っているイリーナの姿。
「まったく・・・エアリィは気楽でいいよ・・・」
「ん?なんか言った?」
「なんでもないよ」
「全くあんたらしくもない。ほら、これでも食べて」
そう言ってエアリィはイリーナに何かが刺さった串を渡す。
「な、なにこれ・・・?」
「焼き鳥って言う食べ物らしい。ポートランド皇国では見たことがないし、いいにおいがしたから買っちゃった・・・」
「ちょっと待って・・・この匂い・・・・」
そう言うとイリーナは焼き鳥の先っちょの肉を口に入れる。
「やっぱり」
「何がやっぱり?」
「懐かしいって言うと変だけど・・・これリュートが前に作ってくれたんだ。」
「あいつ料理作れるんだ」
「うん。最低限エアリィよりもうまいよ」
「言ったなこいつ!!・・・・・・・・その方がいいよ」
「えっ?」
「あのスルトのことを忘れるなとは言わないけど、あいつも暗いイリーナのこと望んでないよ。あんたが・・・あいつのこと好きだってことは解っているけどさ」
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと、な、な、なんで、わ、わ、私が、リュートのこと好きだなんて・・こ、これっぽちも」
「隠さなくていいよ。あんたにとっては記憶がないから初の家族みたいの人でしょ?それに、あいつと話している時のあんた、顔が違っていたわ。なんか嬉しそう」
イリーナはもぞもぞし、してを見てうつむいたままエアリィに対し小声で言った。
「・・・・・・誰にも言わない?」
それに対する返答はたったの二文字だった。
「うん」
「私もよくわからないけど・・・なんて言ったらいいか解らないけど・・・多分特別な存在というのは確かなんだと思う。この気持ちが好きなのかは分からないけど、結構理屈っぽくて、皮肉なこと言うけど、自分が命の恩人だとかで出しゃばらないし、気を使ってくれてるし・・・」
実は内心俺が命の恩人なんだぞとか言ってますが・・・・
「まあ、ただ単にあんたが子供だからかもしれないけどね」
「むっ!!エアリィだって早生まれなだけで私と生まれた年は変わらないじゃない」
「精神年齢だよ」
「むぅ~」
イリーナは口に空気を含んでふくらましている。たぶんエアリィが言っている子供というのにこの行動も入っているのだろう。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
「うん」
彼女らがこれだけ心配しているのにもかかわらず当の九鬼龍斗はまだ15にも満たない少女と仲良く遊んでいるのであった・・・