#21 龍斗、死す?
「龍斗!!どこだ?いたら返事しろ!!」
「リュート!!どこにいるの?」
「リュート君。どこだ?」
PM10:30――――――高須が今手にしているG-Shockの液晶はその文字を表示していた。ポートランド皇国海軍新鋭装甲艦“ローレライ”が東京の軍港の湾内で、大和皇国のアパッチによる総攻撃を受けた末大破着底してから3時間以上が既に過ぎていた。大破着底したローレライは船体は辛うじて残っているものの、艦橋はヘルファイアミサイルの攻撃により形を失っており、砲塔はロケット弾攻撃による弾薬庫への引火によって二次災害が起こりひどい有様である。そんななか消火活動を終えた大和皇国軍は使節団と皇帝である高須と共にある人物を探していた。
「一尉」
「どうだ?龍斗はいたのか?」
「敵の捕虜による話ではそんな人間が船内に入った話は聞いていない。と」
「そうか・・・・では船内にいないのかもしれない・・・・」
「どういうことですか?」
「あいつがもし艦橋内でジークフリートと戦い続けていたら、艦橋はヘルファイアミサイルによって攻撃されたから、吹っ飛ばされて海に投げ出されたか、もしくは最悪なパターン」
エアリィは唇をかみしめ、下を見ながら震えた声で言った。
「・・・・艦橋が形を失ったということは龍斗自身も?」
勿論返答は質問したエアリィも、イリーナも周りのみんなは解っていた。
「そう、失った・・・・つまり死んだ・・・」
でも、わかっていても、彼女は信じたかったのだろう。
「う、嘘よ。リュートは死なない。いつもトラブルに巻き込まれるというか自ら首を突っ込んでいくけど、それでもいつも解決して、いつも貸一つだぞって言って帰って来るもん」
「・・・・まあ、彼女の言うとおりあいつの葬式の準備をするのは速すぎるからな。まして、“死”は最悪な場合だ。もしかしたら脱出できたけど、俺達がどこにいるのか解らずにさまよっている、もしくは海に投げ出され、引潮にでも引っ張られ漂流しているか・・・・まあどちらにせよ捜索をしておかないとな」
高須はそう言うと右耳のインカムに手を当てた。勿論、他の部隊の隊員に捜索を指示するためだ。
「こちら高須。海軍省水上保安部の方に無線を回してくれ」
「了解・・・・―――――こちら、海軍省水上保安部受付担当です。高須一尉何か御用件でも?」
「ローレライから半径5km以内に人が漂流していないか捜索してくれ。なお、この件についての深追いは禁止する「了解」プツッ――――――いま、ローレライから半径5kmに捜索願を出した。とりあえずここにいてもなんだ。五稜郭に戻ろう」
♦
「母さん!!どこ?・・・・由利菜は?」
俺は崩れた建物の中から二人の人物を探している
2012年―――――
俺が防衛大学4年生で卒業馬路かの時だった。そう、俺たち家族・・・いや東海地方や首都圏一帯を襲った悲劇・・・・2011年の東北の地震の復興が終えないまま起きた東海地震は日本の経済をどん底まで陥れたのだ。この時、日本政府は自衛隊の人数が足りなく救援活動が人手不足なため海外に頼り切っていた。軍事費削減に続いて自衛隊員削減なんてことをしたからだ。俺は帰郷する途中だった。だがその途中に悲劇が起き、家に着いた時は実家が全壊だった。
「由利菜!!」
倒壊した建物の隙間から出ている手は紛れもなく俺の妹由利菜の手だった。
「由利菜!!由利菜!!」
「お、お兄ちゃん?」
「良かった・・・・母さん?母さんは?」
「多分建物の下・・・だ・・よ・・・」
それから由利菜の声は続かなかった。だがそれに気付かず俺は急いでかたずけられるだけの瓦礫をどかした。母さんを見つけるため。
「母さん・・・・母さん・・・・」
「かあさん!!」
俺が目を覚ましたのは、古い小屋だった。
「・・・・まぶしい・・・・」
隙間からこぼれてくる日の光がまぶしく、それでもなぜか久しぶりで懐かしくも感じた。理由は解らない。
「なんでこんな夢を見たのかも・・・」
理由は解らない。夢というのは記憶を整理するために見るというのを聞いたことがあるが、もう5年も前の話だ。最近のようで、もう大分昔の気がする。両親、妹、家族みんないなくなって最初はさびしくも感じたが、もうそんなことには慣れてしまった。慣れとは恐ろしいものだ・・・そんなことを考えていたらふと、声が聞こえた。
「あら?目が覚めたのかしら」
その声に振り向くと、きれいなスレンダーの少女が出迎えてくれた。
「君は?」
「私はこの村の治癒魔法で治療院をしている天照由利菜。よろしくね」
由利菜!!似ている・・・・名前は似ているというか一緒だけど何が似ているかと言えば顔がそっくりだった。
「俺は九鬼龍斗だ」
「君ね、近くの海岸に打ち上げられているところを私のお父さんが助けたのよ。」
「そうか・・・」
俺は上半身裸で包帯ぐるぐる巻きの自分の身体を見る。そっか・・・・ジークフリートとの戦闘で・・・俺負けて・・・運良く?ヘルファイアミサイル飛んできて、吹っ飛ばされて・・・・そこからどうなったんだっけ?
「泣いてる」
「へ?」
「君泣いているよ。何か悲しいことでもあったの?」
「いや、特にないが・・・」
俺は気になったので自分の顔の頬に触れた。確かに、少し湿っているのを感じた。そして、新たに流れてくる涙も感じた。
「・・・なんでだろうな・・・・それよりも、治療してくれたのは君か?」
俺は意図的に話をそらす。まあ一様聞いておきたかったことではあるが・・・
「うん。これでも治療院の先生なんだよ。まだ見習いレベルでお父さんには届かないけど・・・」
「そうか・・・ありがとう。それともう一つ聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」
「な~に?」
「ここはどこ?」
「ここは・・・大和皇国ってのは解るわよね?」
「まあさすがにそれは解るけど・・・ここに来る前は東京にいたから・・・東京からどれくらいのところ?」
「と、東京!!・・・・もしかして君お金持ち?」
「いや、お金持ちではないが・・・・」
「東京での生活はよほど豪華な生活を・・・」
「・・・・そんなにいい生活はしていないが・・・」
すさまじいほどの勘違いをしているな。俺は大和皇国に来てまだ・・・・
「俺は助けられて何日たった?」
多分長くて一日やそこらだと見た!!
「今日で3日目ぐらいだよ」
まじで!!
「君、お父さんが助けてからずっと寝てたもの」
「・・・そうか・・・・で、どれくらい離れている?」
「う~んと・・・だいたい・・・50里くらい?」
「え~と50里・・・1里・・約4km位だったから・・200km!!そんなに?」
「うん」
「まずいな・・・」
何がまずいかって?このまんま行くと俺は殉死扱いされて・・
「早く帰らないと!!」
と速攻で立ち上がるが・・・
「痛っ!!」
前進に回る痛みと、身体の重さ・・・そして立ちくらみ・・・結構やばい状況だ
「だめだよ。まだ動いちゃ。君にもいろいろ事情があるのかもしれないけど、怪我を治してからだよ。」
・・・ごもっともです。何も言い返せない
「そうだな。じゃあ挨拶ぐらいさせてくれ。君のお父さんはどこにいる?」
「こっちだよ」
彼女はそう言うと俺の手を引っ張って走り出した。
「ちょっと・・・いてててて、俺怪我人だって」
彼女の耳には届いていないようだ。見も知らぬ俺の意識が戻ったのがそんなにうれしいのか?
「お父さん!!起きたよ」
「ん?由利菜か。おお、君起きたか。怪我の具合はどうだね?」
「おかげさまで。所々痛むところはありますが生活には多分支障はないかと。色々とありがとうございます」
「うむ。君の名前は?」
「九鬼龍斗です」
「龍斗君はどんな仕事をしていた?」
「・・・・いちおう、兵士ですが・・・」
「やはりそうか。体つきと傷でそんな感じがしたけど。しかし、大和皇国の内戦は終結したはず。それに大和皇国の兵士の服ではないし」
「・・・」
まずいな・・・・もしポートランド皇国が敵国という印象が付いていたら・・・俺はどうなる?真実を言うべきか?
「言えないなら言わなければいい。君にも事情があるのだから。まあなんだ。怪我が治るまでここにいなさい。その方が娘もいいし」
「ちょ、ちょっとお父さん。なななな、何言ってるのよ!!」
由利菜は耳まで真っ赤になって呂律がうまく回っていなかった。
「本当のことを言ったまでだろう。3日間ずっとお前は龍斗君の面倒を見ていたじゃないか」
「お、お父さんの馬鹿」
「俺の馬鹿は今更じゃないぞ~」
年頃の女の子なんだから、この親父さんはデリカシーがたりないよ。まあ、そこは置いておいて、
「俺がいるといいってどういうことですか?」
「ああ。由利菜には2つ上の兄がいてな。14歳の時軍隊に入るって言って、軍に入ったんじゃ。だが、半年前の内戦で、政府軍の兵士として戦って、最後の東京決戦で戦死したんじゃ。ほれ、そこに写真があるじゃろ。」
そこには親父さんと由利菜とお兄さんの3人が写っていた。
「由利菜の隣にいるのが兄の修二だ。お前さんにそっくりだろう。たぶん、修二の面影と龍斗君の面影を重ねているのだろうな。まあなんだ。ここにいる間だけでも、遊んでやってくれ」
・・・・そっか。形は違えで兄弟を失っているんだな。しかも、俺の親友が仇・・・か。
「わかりました。・・・俺にもあれぐらいの妹がいたんですけどね・・・なんか妹を思い出します」
「そうか。なら年下相手の遊び方も解るじゃろ。遊んでやってくれんか?」
「勿論いいですよ。」
――――――大和皇国東京 軍港
「国家のため死を迷わずに戦い、散った者に対し敬礼!!」
“パァン”と数名の兵士が空砲を上げる。それと同時に周りの兵士その他もろもろが敬礼をする。
「龍斗・・・お前の死体は上がらなかったが、この墓標で勘弁してくれ。」
高須がそう言い終えた後、使節団の人々が手を合わせる。
「すまないリュート君。君はポートランド皇国とは無関係なはずなのに・・・こんなことにつき会わせてしまって。僕が言うのも君にとっては不服かもしれないが、来世で幸せになってくれ」
「私ローラ・ポートランドからもご冥福お祈りします」
「お前とは皮肉な仲だったが、ポートランド皇国のためよく戦ってくれた。感謝する。」
「あんた・・・あたしとの約束破ったわね・・・って思ってるけど、内心結構ショックなんだよ。出来ることなら信じたくないけどね。安らかに眠りなさい」
しかし、一人だけいなかった。イリーナの姿がなかったのだ。
「あの金髪碧眼の娘は?」
「イリーナはショックで立ち直れないみたい。(悲しいのはあんただけじゃないのよ)」
「そうか。だが、それも人生のうちだ。いつか立ち直るだろう」
「最後に全員で敬礼!!」
高須の一言により周りの人々は全員一斉に敬礼をする。もうすでに、彼らの中で九鬼龍斗は死んだことになっていたのだ。