#17 高須泰宜
「無駄な抵抗はやめて武装解除せよ。投降しないなら攻撃を止むまし」
AH-64D アパッチ・ロングボウから放たれた言葉は率直にいえば降伏勧告。
「うわさ通りの戦力だな。これだけの兵器を持っているとは。しかし、僕もこれでも魔術師のはしくれで、皇族の者として何度も外交をしてきた。こんなに無礼な国家に出逢ったことがない。」
まあ、確かにいきなりの電撃訪問も悪いが、艦隊ではなく単艦で航海している軍艦に出会ってそうそういきなりの降伏勧告は無いだろう。
「アルバート皇子・・・気持ちは解りますがやめておきましょう。敵を作りに来たわけではありません。それに、あの飛行物体・・・俺の世界ではAH-64D アパッチ・ロングボウという名前のヘリコプターという兵器の一つです。速度はローレライの最高速度20ノットの約10倍。197kt。勝ち目はありません。とりあえず白旗を振って言うことを聞いておきましょう」
「そうしよう。海兵のみんな。白旗を振ってくれ」
アルバート皇子は素直に俺の提案を受け入れ海兵に指示を出していく。
「大鷹3尉・・・白旗を振っています。どうしますか?」
「とりあえず“東京”へ連れて行こう」
大鷹と呼ばれるヘリコプターのパイロットは拡声器に手を当てまた何かを言うようなしぐさをした。
「私に着いてこい」
「着いてこいって・・・この艦20ノットまでしか出なくてどうやって巡航速度140ノットのヘリについていけばいいんだ?」
俺は物理的に不可能なため一人で混迷していた。
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―――――大和皇国首都東京
一時間ぐらいかかってついた港は、兵士の話によると大和皇国の首都“東京”の港らしい。港には野次馬の人たちや、大和皇国の兵士達が集まっていた。肌の色は俺と同じくみんな黄色だった。そして、首都の名前が日本と全く同じというのは偶然なのか、それとも誰かの意図的なことなのか解らないが大和皇国に対しての興味は増していった。そして、俺達は代表団(親善大使の俺を入れて6人)として、大和皇国皇帝陛下のいる五稜郭へと招き入れられた(というよりもどちらかというと強制連行に近い)。
「こ、ここが五稜郭・・・」
実物の五稜郭は見たことがあるが、この世界での五稜郭は別物・・・外壁がすべてコンクリートで覆われており、所々に大砲や銃眼等が見受けられた。
“カツカツ”アルバート皇子は外壁を手でたたいている。
「ウィーンペストの周りを囲む城壁とは違う物質だ・・・なんだろう?」
「コンクリートと呼ばれるものだと思います。言われるがままに彼らについていきましょう」
「そうね」
と、なるがままに俺達は大和皇国の兵士に従い五稜郭へと入っていった。
―――――五稜郭
畳の上に座らされた俺達は“皇帝陛下”と呼ばれる男を待っていた。
「ねえリュート・・・この国の皇帝ってどんな人?」
「いくら俺がスルトといえども・・・そこまでは解らん。」
小声でそんなことを話していた。そんな時だった。アルバート皇子が口を挟んできたのは。
「どうやらあの人のようだよ。皇帝陛下は」
「貴様ら!!皇帝陛下のお成りだぞ。頭を下げい」
「はっ!!」
俺達は一斉に頭を上げ、俺は頭を上げて皇帝陛下を見た時はビックリだった。
「お、おまえは・・・・高須泰宜!!」
「九鬼龍斗・・・・・・だよな?」
俺の顔が変わっているとでも言いたいのか?まあ、妥当な線だろうな
「勿論だ」
「若くなったのか?・・・というより顔が変わったというか・・・」
「まあ、そんなところだ。見た目は変わったが、中身は変わってない」
「え・・・・なんなのリュート?」
「一体どういうことなのリュート」
「どういうことだいリュート君?」
「リュートさん・・・・あなたこんな異国まで知れ渡っているとは・・・顔がよく効いていますね」
「スルト!!貴様密約でも交わしたな?」
「お前たち・・・・どんな被害妄想立ててるんだ!!」
「はっはっはっ。お前の仲間達は個性豊かな連中だな。」
「その個性豊かな一人だったけどなお前は」
「そうだな。我が同期の桜よ。」
「ああ。まあとりあえず・・・・」
♦
「久しぶりの感動の再開に乾杯」
俺は今高須と二人っきりで別室で話している。それは親善大使のみでということもあるだろうが、久しぶりの再会で水入らずの会話をしたかったからが本音だろう。
「お前と最後に会ったのがいつだったか?」
「2015年の秋ぐらいだったか?お前が派遣される強襲揚陸艦の搭乗する大隊の大隊長補佐役ってのを聞いてな。派遣された艦すべてが撃沈されたってのを聞いて、撃沈されたのは撃たれる前に撃つが出来ないから、日本国内では憲法第9条撤廃をして、北朝鮮との開戦派の連中が一斉に増え、国内での反北朝鮮デモ。そのせいか知らんが、航空自衛隊にF-35が配備されるようになって俺がそれに乗ってスクランブル発進して領空侵犯したロシア軍機を追っかけている途中に、ここに来たという訳さ」
「成程。俺達は別に撃沈されたわけではない。きれいなオーロラが出ていたんだ。深い霧で何も見えないのにもかかわらずオーロラだけは。そして、霧が晴れたらあきづき型護衛艦2隻以外とは連絡が取れず、ここに漂着した。ここでは、日本と同じく天皇がいて、その天皇の権力を使い圧政をしていた皇帝と呼ばれる男がいて、民衆の意見を聞いて俺は大和皇国に独立国を作り、大和皇国の皇帝を倒したわけだ。その戦いで大隊長が死んで、まあ現在進行形指揮官は俺ということになる。」
「護衛艦の艦長はどうなった?」
「なぜか解らないが一部の幹部や隊員達がこの世界に来た時消えていてな。一番階級が高かったのが大隊長で次が俺。そんなところだ。まあ、なにせよ、おなじ防衛大の同期の桜であるお前と再会できたのは俺とて心強くうれしいあまりだ。・・・それで、本題は?」
高校、大学と7年間の間一緒に過ごしてきただけはある。俺に対しての洞察力半端ねえ。
「ふ、お前には隠しても無駄か。まあ、隠すつもりなどさらさらなかったけどな。お前東オーレリシア帝国って言う国を知っているか?」
「・・・・あの国のことか。この前俺達の領土であるコレリア半島を侵攻した国。」
「そう。そして、俺は今その隣国であるポートランド皇国と呼ばれる国に住んでいる。この世界はシャンバラというそうだが、この世界のオーレリシア大陸での俺たちみたいな異世界から来たものはスルトと呼ばれている。スルトとは一万年前俺が今住んでいるオーレリシア大陸に侵攻して半年で占領し、破壊と強奪を繰り替えした悪魔と言われている。」
「そのスルトがどうした?」
「そのスルトは一万年前の技術力・・・いや、今でも考えられない技術力を持ち強力な軍事兵器を大量に所有していた。それを裏付けるのが“古代兵器”だ。オーレリシア大陸全土に古代兵器が眠っており、それが劣化せずに、未だに使える状態であると。そして、各国は他国との軍事力の差を広げるために古代兵器の研究を日々熱心に続けており、しかし、それでも解析不能。唯一の手がかりであるのがスルトである俺なんだ。だが、ポートランド皇国にそのスルトがいるということがオーレリシア大陸中で広がってしまい、ポートランド皇国率いる反帝国同盟と帝国率いるポートランド皇国包囲網の対立構造がオーレリシア大陸で出来上がってしまった。帝国に圧力をかけ均衡という平和を作り上げるためにはどうしても大和皇国の力が必要なんだ」
解ってくれたか?・・・・反応なし・・・・ちょ、ええええええ?
「・・・・・ズズズ・・・・うむ、酒はうまい」
おい待て!!返答がおかしいぞ
「成程。言いたいことは解った。で、具体的に俺に何をしろと?帝国との停戦条約は結んであることになっている。まあ形式上どころかなんにもしていな口だけの条約だが。」
「別に侵攻しなくてもいい。同盟という言葉が欲しいんだ。」
「要するに反帝国同盟に加われと・・・大和皇国はアシーリス大陸の南のムガル連邦という国と同盟を組んでいる。反帝国同盟に加わるのはいいが一応ムガル連邦にもその話をしなければ」
「話をつけられたら?」
「もちろんOKだ」
そう。まさにこの瞬間。いわゆる歴史が動いた的な感じで握手を交わすシーンになるはずだった。
“バタン”と、いきなり扉を開ける音が聞こえた。
「開ける時はノックぐらいしたまえ!!」
扉をいきなり開けて入ってきたのは大和皇国の兵士の中でもエリートと思われる兵士だった。
「す、すみません。いや、それどころではありません皇太子妃様が・・・」
「皇太子妃様に何があったのだ!!」
防衛大の同期の俺でも見たことがない形相をした高須に俺はびっくりした。そんなに重要な人物なのか?
「陛下・・・こちらへ」
兵士は俺を避けるようにして高須を呼んで耳元で小声で話している。何のことだろう。
「うむ・・・・龍斗。俺はお前を疑うつもりはない。我々を攻撃をするために単艦でここに来たとは思わない。ちゃんと同盟を結びたくてここまで遠い道のりを着たと思っている」
何をいきなり?それよりも顔が変だ。ひきつっている。
「ああ。そうだが」
「なら、なぜポートランド海軍の軍艦が我が国民に対し艦砲射撃を行い、都市、民間人、兵士に対し攻撃し、興味本意で乗艦した皇太子妃様を人質にしたのだ!!」
何の話だそれ!!
「そんな話俺は知らないぞ!!」
「たわけ!!貴様と一緒にいた5人も同じことを言った。だが現実に攻撃されたんだ!!貴様らが皇太子妃殿を人質に取っているため我が軍では包囲するのみで戦車やヘリなどを使うことは困難。下手に撃って船が沈むとなればと考えると・・・」
ごもっともなことを側近の兵士は言った。こんなこと言われればいくら知らないと言っても言い訳のしようがない。しばらくして高須は俺の方へと近づいて、俺の耳元で小声でささやいた。
「俺はお前がそのためにやってきたのではないと信じている。何かあったに違いない。だから、お前も俺を信じろ」
「ああ」
話が終わってすぐに高須は立ち上がり、入ってきた兵士に対し言った。
「おい、貴様」
「はっ!!」
「残りの5人はどうなっている?」
「はっ!!とりあえず重要参考人として捕らえて監獄にぶち込んであります」
「こいつも同じ所に入れろ。ただ、重要参考人に対しては丁重に扱え。これは命令だ」
「はっ!!必ず。・・・ついてこい」
俺は言われるがままに彼について行った。俺達に何が起こっているのか、これから何が起こるのかさえ何も知らずに・・・・