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スルト  作者: オーレリア解放同盟
第一章 大和皇国編
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#14 大和皇国

“ザアザア”と雨の降る中、森林にポツンとたたずむ即席のテント内では、将校と思われる人物が数人の人間を周りで囲ませ、特殊な機械に向かって語りかけている。特殊な機械からは緑色の光が発せられている。

「こ、こちら東オーレリシア帝国軍コレリア半島侵攻軍第24中隊隊長・・・もう既に我が部隊の70%全滅・・・・敵はオーレリシア神話の伝説の生物・・・・フェンリルを操っているもよう。支給援軍を・・」


「援軍?・・・・援軍など無用だ!!」


「ひっ!!」

コレリア半島侵攻軍第24中隊の中隊長が突然の声で後ろに振り返ると、そこにはフェンリルと彼らが呼び恐れる鉄でできた箱。その上に立つ緑色の迷彩服を着てヘルメットをかぶっている男。彼は歩いて中隊長に近付いた。

「所詮援軍を送ろうとも我が軍には勝てぬ。」


「き、貴様は何者だ?」


「我が名は元日本国陸上自衛隊1等陸尉高須泰宜!!神聖なる我が大和皇国に侵略する薄汚いものたちよ、裁きを受けよ!!・・・・加藤2尉、奴らに向けて放て」


「そんなことしたら一尉の耳が・・・」


「放て!!」

“ドガアアアアアァァァァンン”

フェンリルと呼ばれる鉄の箱、地球の日本という国では10式戦車と呼ばれる戦闘車両から放たれた火の弾は帝国軍コレリア半島侵攻軍第24中隊長とその側近のちかくにあたり大爆発を起こした。ほとんどの人間が死に絶えた中、中隊長だけが虫の息で生きていた。

「い、命だけは御助けを・・・・ギャァアアアアアア!!」

“グシャ”・・・そこからは鈍い音が聞こえた。高須と名乗る男は足元の頭を踏み潰して、緑色の光を発している機械に向けて言った。

「我は神聖大和皇国現皇帝高須泰宜。我が神聖なる領土を汚すものたちよ・・・・我々は本気だ。我が国の平和と秩序を乱す者は容赦しない。侵攻してきた部隊が全滅するのが一つ目の制裁だ!!」





――――――帝国軍飛行艇-コレリア半島侵攻軍司令部- 

「どうする?マクシミリアン・・・俺達が全滅するのが一つ目の制裁だそうだ。」

金髪で肩に帝国の国旗が描かれている白衣を着ているマクシミリアンと呼ばれるコレリア半島侵攻軍の司令官の近くには4人の人間がいた。今話しかけたオールバックでがたいMAXのいかにも戦士という風帽の人間が一人目。ギルバード・イェーガー少将。

「イェーガーか。かまわぬ。父上からの命令だ。」


「我々は飛行艇にいるのじゃぞ。蛮族の地上での攻撃力は高いが、我々は上から直接指示を出せる立場にある。武力では向こうが勝っていたとしても戦略は我々の方が有利に動ける。それにここで逃げだしたとなれば皇帝陛下に申し訳が立たん」

今、一人語りをしたのはブルクハルト・バルクホルン中将。見た感じ上に立つ男というよりは、トップの横にいる参謀でいかにも軍人という風格の人間である。

「おいおいバルクホルン中将。敵さんが空中兵器を持っていないと誰が決めた?それにここで逃げだすのも手の一つだぞ。わざと撤退させ敵を奥深くまで潜り込ませ補給路が絶ったところで攻撃を仕掛ける。その戦法での補給路がなくなって過去俺に負けたのはどこの中佐さんだったか?いや、今は中将だったけな」


「くっ・・・貴様は過去のことを。あの時の私と一緒にするでない」


「おいおい、あれからもう4年たっているんだぜ?まだ遺恨を持っているのか?」

イェーガー少将は手を胸の前で組んで微笑みながら話している。まるで帰ってくる答えが知っているかのように・・・

「そんなものを持つほど帝国軍人はそこまで狭い男ではない。貴様はどうなのだ?」

ブルクハルト中将は下縁フレームのメガネの位置を人差し指で上にあげる、よくドラマや映画などでお偉いさん達がよくやるフォームを取った。

「俺か?俺は祖国再興をマクシミリアンに懸けている。そんなんじゃなけりゃ俺はここにいないぜ?」


「そんな話はどうでもいいだろう。今の状況とは無関係な話だ。今なすべきことはただ単に撤退か、戦略的撤退か、それとも上から見下ろして地の利を生かして駒を進めるか・・・それだけだ」

うまい具合に話をまとめたのはフェリックス・ニコラエヴィチ・ステッセリ少将。顔はそんな拭けてはおらず、まだ三十代前半のエリートコースを歩んだ軍人である。

「たとえどうなろうとも私は殿下に着いていきます・・・そして、殿下を守ります・・・」

そして空気を読めなかった最後の一人がリディア・ブレス大佐。帝国内では珍しい女性軍人であり、ぱっと見年齢も20代前半。

「貴様らは何を急いでおる。すべてを決めるのはこのマクシミリアン・フォン・ヘルフ・アレクサンドロヴィチだ。そのことは何一つ変わらぬ。我がコレリア半島侵攻軍は・・・」

続きを言おうとしたが言えなかった。なぜなら、地球で言う通信機にあたる物が“プツ―プツ―”と鳴ったからだ。

「ちっ、こちらコレリア半島侵攻軍司令官マクシミリアン・フォン・ヘルフ・アレクサンドロヴィチだ。要件は?」

マクシミリアンは舌打ちをして、気に食わぬ顔のまま通信機にあたる物を取った。

「私だ。マクシミリアン。久しぶりだな」


「ち、父上!!」


「お前達は今、謎の兵器・・・・いや、古代兵器とでも言うべきか・・・それを操る蛮族との戦闘中だったと聞いた」


「はい。その通りです父上。しかし、我が軍は必ずや・・・」


「もういい!!・・・コレリア半島はくれてやれ。それよりも急遽軍隊を増強しなくてはならん時が来たのだ。ここで失うわけにはいかん。」


「となりますと・・・」


「ポートランド皇国、サルデーニャ帝国、プトレマイオス共和国との戦争だ」


「サルデーニャ帝国や、プトレマイオス共和国はともかく、ポートランド皇国とは・・・・厄介なことになりました」


「そこで、その蛮族と停戦を結んでほしい。停戦条約を結んだら戻ってきてくれ」


「はい。必ずや、期待通りの結果をお待ちください。」


「うむ。期待しておるぞ」


「はっ!!」


「では切るぞ」

“プツ”

「くそおおおぉぉぉ」

“ドン”と机をたたく音が飛行艇内では鳴り響いた。

「で、殿下・・・・ご機嫌を損なわずに・・・」


「仕方がない・・・・父上の命令だ。あの蛮族の指揮官とでも面会でもするとしよう・・・・操縦士!!先程こちらに向かって叫んだ蛮族の指揮官の位置解るか?」

マクシミリアンと他4人のフロアよりも一つ下のフロアにいる操縦士にマクシミリアンは話しかける。

「はい。MET送還機を使って逆探知すれば位置の把握が可能です。しかし、彼が私たちに話しかけたMET送還機の場所になりますけど・・・」

マクシミリアンは納得がいかない様子でイライラを表面に出していたがそれ以外に良い方法がないと思ったため、

「ならばそれを速く行え。それと飛行艇内部の兵士に連絡しろ。白旗を振り続けろと」


「了解です。」







「1尉・・・・あれ・・・」

10式戦車操縦士の加藤2尉は上官である高須1尉を呼んだ。

「あれは・・・・飛行船?にしちゃ大きいな。横も広いから飛行艇か?」


「外に出ている兵士が白旗振っています」

他の戦闘車両からの無線機から飛行艇の観察結果が聞こえた。

「攻撃止め。しかし、警戒だけは怠るな」

高須がそう命令を下した時だった。

「大和皇国軍指揮官に告ぐ。これ以上むやみな戦いはやめようではないか。我が軍も貴軍、双方とも相当な死者が出ている。これでは死者が出る一方で、何の意味を持たない。とりあえず話し合いでもしないか?」

飛行艇の方から拡声器と思われる物を使って大きくしたマクシミリアンの声が戦場に広がった。

「双方とも?笑わせてくれますね隊長」

10式戦車の砲手である藤田1曹は車内で話を聞いて笑っていた。しかし、扉を開けて外に出ていて上の飛行艇を見上げていた高須は違った。

「癇に障る停戦交渉の前哨だが話には乗ってやるか・・・・加藤。拡声器ないか?」


「はいです。」


「ありがたい。・・・・我が神聖なる領土を不当にも汚し、侵略した貴軍の指揮官に告ぐ。我が軍は死者などほとんど皆無であるが、貴軍を滅ぼすという無駄な労力をしたくない。お互い戦争を続けることに意味がないため、貴軍がコレリア半島から撤退するというならば、停戦という形を取ろう。後5分以内に返事がない場合、貴軍の司令部である飛行艇を落とす」

高須はとても皮肉に交渉を続けた。





―――――飛行艇

マクシミリアンは机に両手を置いてプルプルさせていた。つまり怒っているという意味である。

「はっはっはっ・・・・これは一本取られたな。どうするマクシミリアン?皇帝陛下の命令を破って攻撃して返り討ちを喰らって帰るか・・・・屈辱的撤退をするか?ここで撤退しても皇帝陛下は怒らないぞ?」


「くそぉ!!・・・・イェーガーは黙ってろ!!」


「おいおい・・・まあ、お望み通り俺はこれ以上口には出さんが・・・」


「お気に召されず・・・それにしてもあのタカスという人物・・・殿下に対してのあの口のききよう・・・無礼にもほどがある!!」


「しかし、ここは撤退をすべきでは?」


「それは俺も賛成だ。撤退すべきですマクシミリアン様」


「くっ・・・仕方がない」



“撤退”・・・・帝国軍がプトレマイオス共和国と、ムガル連邦という国以外のアシーリス大陸を占領としようとした作戦は、コレリア半島を先に占拠していた大和皇国との戦闘が始まってから52時間後に作戦終了。帝国軍の死者1万2000名。対する大和皇国軍死者0、負傷者48名。帝国の屈辱的敗北であった。

――オーレリシア大陸中央部ポートランド皇国首都ウィーンペスト ポートランド城――

「という結果らしいんだ。セールス・トルキスタン王朝の側近のムスペル人の話では・・・」

ポートランド城内部の客室で警軍のジン・エンフィールドは俺達に報告書を見せている。俺達というのは、俺、イリーナ、皇帝陛下、ローラ皇女、アルバート皇子、後入るか知らないが、扉の前で警備をしているエーリッヒ。

「成程。それで、帝国の兵士はそのフェンリルだかを操っていたから相手をスルトと・・・」


「それだけではないらしいんだ。捕虜になった兵士からは、髪の毛の色はムスペル人だが肌に色があると言っていた。解りやすく言えば白以外の色をしていたということだが・・・」


「成程。この報告書を見て、皇帝陛下は俺に大和皇国と呼ばれる国と同盟を結べと?」


「まあそうなる。悪いとは思っておる。だがしかし、そうして帝国に圧力をかける以外方法がない。無理やり勢力の均衡状態を作らなければある意味で平和は続かない。それは解るか?」

冷戦・・・・第二次世界大戦後アメリカ合衆国を盟主とする資本主義陣営、いわゆる西側諸国と、ソビエト連邦を盟主とする共産主義、いわゆる東側諸国の間で起こった世界を二分した対立構造。ある軍事評論家は言っている。世界の平和と秩序が最も保たれるのは冷戦構造だと。それと全く同じような状況になりつつあるということか・・・

「はい。・・・以前、俺の故郷・・・地球と呼ばれる星で全く同じようなことが起きました。それを冷戦と呼びます。」


「れいせん?」


「冷たい戦争と書いて冷戦です。二つの異なった思想を持った者が同じ思想を持った者を集めて、両陣営のいがみ合いの対立構造のことを言います。直接大きな戦争は無く、にらみ合いを続けるだけなので冷たい戦争です。」


「その結末は?」


「互いに軍事費を積み込み、国民の生活は苦しくなり、どちらかが倒れるまで軍事費を増やし続けます。片方が崩れたため冷戦は収まりましたが、それと同じ構造をこの世界でも再現するとなると・・・」

俺が続きを言おうとしたら、続きはエンフィールドが言ってくれた。

「国民生活は制限されますね」


「うむ。言いたいことは解った。・・・・しかし、逆を取らせてもらえばその構造を作らなければ、均衡状態になるほどの勢力を作らなければ我々はやられてしまう。現在帝国と連邦に連合の3勢力が手を結んだ以上オーレリシア大陸での覇権は確実に帝国側にある。これを打開するためにプトレマイオス共和国を引きこんだ。」


「しかし、それだけでは足りないってことは百も承知。俺としてもこの平和は失いたくありませんから・・・」


「じゃあ?」


「勿論引き受けましょう。しかし」


「しかし?」


「海を普通に渡って行くとなると、連邦の制海権のある海を通ることになります。そこは?」


「そこは安心せい。プトレマイオス共和国の保有しているアーフカリア大陸とアリーシア大陸の境目にある運河を使って渡れば、近道であるし、帝国や連邦の監視もない。どうだ?」


「なるほど、ここに運河があったんですね。・・・・では船の方は?」


「つい数日前進水した最新の軍艦を用意しよう。」


「乗組員の方は?」


「今訓練している海兵たちがいる。彼らを行かせよう。」


「では父上!!僕も行かせていただきます。」


「お兄様が行くなら私も!!」


「なぜだ?条約を結ぶ親善大使はリュート君だが?」


「オーレリシア大陸以外にもまだ見ぬ所へ行ってみたいのです。」


「そうか。ならば行くがよい。日程とかに注文はあるか?」


「特にありません。・・・イリーナはどうする?」


「わたしは、えーと、その・・・・・リュートが行くからついていく・・・・」

イリーナは少しもじもじしながら自分の意見を述べた。そのしぐさを俺はちょっと可愛く思ってしまった。

「おいおい、お前の好奇心とかは無いのか?別の世界を見てみたいとか?」


「ちょっとあるかも・・・えへへ」


「えへへじゃねえよ。では皇帝陛下。日程はいつごろで?」


「早ければ明日までに支度ができる。それでよいか?ワシとて、早ければ早い方がよい。」


「ではそうしてください。お願いします。」

俺は敬礼をして、客室を出た。そして、イリーナと、警軍のジン・エンフィールドと共に南プシェムィシル村へ帰った。


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