#10 特殊試験-後編-
――――ウィーンペスト ポートランド城 皇女室
ポートランド城はポートランド皇国の首都ウィーンペストの中央にある大きな城でポートランド皇国の政治・軍事・経済の中心点である。
「久しぶりです姫様。」
イリーナの目の前で座っているのはポートランド皇国第二皇位継承者兼第一皇女であるローラ・ポートランドである。年齢は15歳。
「こちらこそ久しぶりね、イリーナ。この前は大変だったでしょう。南プシェムィシル村でのバルバロッサ海賊団人質事件。あのとき人質を助けたのはあのスルトが助けたと聞いたのですが、本当?」
「はい。本当です。彼には私もルーシア征教過激派の討伐の任務をギルドから受けていまして、しかし、彼らは手強く失い人である私も苦戦を強いられました。本当なら私は負けていたでしょう。そこに不可思議な格好をした青年が助けに来てくれました。名前をリュート・クキと言います。そして、バルバロッサ海賊団人質事件でも奴らの海賊船を沈めるほどの力を有し、一度ならず二度まで私を助けてくれました。現在住む家のない彼をお礼と言うことで私と一緒に暮らしています」
「そう。・・・ルーシア征教の過激派がそこまで強くなっているのね・・・いまだに魔法を思い出せませんの?かつて、ポートランド皇国の300年間の同盟国キエフ=ソフィア王国屈指の魔導士、そして、キエフ=ソフィア王国第二王位継承者兼第一王女、イリーナ・ソフィア」
「やめてください姫様。失い人になる前・・・11歳までは私と姫様は幼馴染でよき友でしたが、今では位が違いすぎます。記憶もまだあいまいでそこまで思い出せませんし、それに・・・・・・・」
“キエフ=ソフィア王国は東オーレリシア帝国に滅ぼされましたから・・・・”
「生き残ったのは私だけです」
「そうだったわね・・・つらい話を思い出させてごめんなさい。」
「いえ、それよりも私に緊急の話と言うのは?」
「その事でしたね。東オーレリシア帝国はオーレリシア大陸とアシーリス大陸を股にかけている世界最大の帝国。アシーリス大陸で帝国に次ぐ領土の大きさを持つ国はどこかご存じ?」
「たしか・・・セールス・トルキスタン王朝だったかと・・・」
「まあ、さすがに知らない人はいないでしょうね。唯一のムスペル人国家で強大な王国なのだから。」
「その国がどうしたのですか?」
イリーナはローラに聞く。彼女がこのような話をするのは珍しいからである。ローラはだいたいイリーナと話すときはイリーナの記憶が戻るように過去の話を良くするからである。
「東オーレリシア帝国に滅ぼされたのよ」
「・・・・ま、まさか・・・でもそんな話は聞いたことが・・・」
「今はまだ情報規制をかけているから知っている人はごくわずかよ。そして、スカンディナヴィア連合王国は帝国に服従したわ」
「つまり・・・ポートランド皇国は・・・」
イリーナは脳内のオーレリシア大陸の地図を確認する。ポートランド皇国の東に帝国。北にスカンディナヴィア・・・
「ポートランド皇国は東と西、そして北まで包囲されたわ」
「西?なにゆえ西オーレリシア諸国連邦機構がポートランド皇国の敵に?」
「スカンディナヴィア連合王国は元々連邦側の国家でそこに帝国側が介入したような形になっているわ。連合王国だけあって複数の王国がスカンディナヴィア半島の統合という目的が一致したためそれ以外は一枚岩ではなく帝国派と連邦派などがいるの。そのためスカンディナヴィア連合王国を仲介とし連邦と帝国とに軍事同盟ができたとすれば・・・」
「・・・しかし、何故それを私に?」
いくらイリーナがかつての同盟国の皇女であろうとこのようなことを言うために呼んだとすれば不思議に思うはず。
「そのリュートさんのことです。まだ顔は見たことありませんがスルトはオーレリシア大陸だけならず、アーフカリア大陸のプトレマイオス共和国でも懸賞金がかけられるほど。その額は最低額でも100Au。ポートランド皇国の国家予算の一万分の一に、もしくは、平民の平均年収の10万倍に相当するわ。各国の狙いは周辺国との軍事力の差を広げること。もしポートランド皇国にスルトがいると知れ渡ったら・・・」
イリーナは背筋が凍った。まさか・・・そんなことが・・・彼女はそう思っている。しかし現実的に見て可能性が高い。
「各国の目的が一致してポートランド皇国包囲網が完成する。南からサルデーニャ帝国や、プトレマイ王共和国まで参戦したら・・・」
「ポートランド皇国は荒廃するわ。それに彼の運命も翻弄される・・・」
「つまり・・・彼を表舞台に立たせるなという警鐘ですか?」
「簡単にいえばそのようなものね。あなたに家として提供したあの洞窟。あなたは帝国とキエフ=ソフィア王国との間で起こったロストフ半島戦争でのキエフ=ソフィア王国側に唯一と言っていいほどの大勝利を与えた。強力な魔法で。帝国側では王国の血筋を持つ物を全員処刑した。あなた以外。帝国は今でもあなたを探している。だから見つかりにくいあの洞窟を選んだのよ」
「・・・・解っています」
イリーナがそう言った時だった。窓の方からさしてくる赤い光。それに続いて鳴り響く爆音。そして、イリーナは顔の左半分、ローラは顔の右半分が窓の隙間からこぼれ出る光によって赤くなった。
「何事?」
「ローラ!!ギルド公社傭兵部門本部の方だ。」
そう聞こえた時突然と扉がバンという音を立てて開き、そこからはローラの兄であり第一皇位継承者であるアルバート・ポートランドが入ってきた。
「お、お兄様・・・帰っていらしたのね。何事かしら?」
「ギルド公社からの話によれば特殊試験において召喚石が何者かによって封印石とすり替えられ、封印石に封印されていたアンフェスバエナが復活したとかだそうだ」
「ア、アンフェス・・バ・・エ・・・ナ・・・まさか・・そんな・・・」
「数千年前、東オーレリシア帝国を窮地に追い込んだ伝説の龍・・・それを封印したのはルーシア征教の教祖だったはず・・・」
「それで、闘技者は?」
「南プシェムィシル村出身の新米ソルジャーで、名前はリュートという聞きなれない名前だったはず」
イリーナは絶句した・・・
「そんな・・・・」
「とりあえず二人とも地下壕へ逃げるぞ」
「解ったわ。行きましょう」
「・・・あ、はい」
――――――ギルド公社傭兵部門本部 闘技場
闘技場は現在アンフェスバエナによってめちゃくちゃにされている。客席など崩壊状態。残っているのはフィールドだけ。まあ建物がフィールド上にはないから崩壊しようがまずないが・・・
「・・・・・いてててて。それにしても、この複合装甲すごいなあ。RPG-7とかIEDとかですぐドカンするのに、これだけの炎も防ぐとは・・・・もしかしたらこいつらもMET浴びて強化されているとか?」
まあ、あながち間違いではなさそうだが、実際のところは良く解っていない。
「ちょっとあんた大丈夫?怪我は?」
心配そうに寄ってきてくれたのは獣人族のエアリィだった。
「にゃんにゃんか・・・心配してくれたのか」
「あたりまえよ。・・・でも勘違いしないでね。別にあんたが心配じゃなくてあんたの頭が必要だからだけのこと。いい?」
「はいはい・・・おい、にゃんにゃん!!後ろ!!」
俺が返事をしている時エアリィの後ろでアンフェスバエナが火を噴いた。
「ごちゃごちゃと・・・・・うるさいわよ!!」
そう言ってエアリィは手を後ろにかざし
「The space there must become my Shield!!」
「!!」
リュートは驚いた。エアリィが英語を言った途端後ろにかざしたエアリィの手を中心にして半径5Mぐらいの円形のシールドができ、火を防いでいる。
「ザ スペース ゼアー マスト ビカム マイ シールド・・・・・その空間は私の盾となれ・・・どういうことだ?今のは何だ?」
俺はエアリィに問う
「何って呪文よ。魔法使うならあれくらいは知っとかなきゃ。さて、こちらも攻撃に移りますか」
そう言ってエアリィは足を大きく広げて、地面に手をつき言った。
「My becoming it ..mother.. earth. Lend me power, and expel the wicked one in the presence!!」
その瞬間エアリィを囲むように緑色に光り、アンフェスバエナのからだは地面から生え出した土で体中を固定されて、もがいている。
「我が母なる大地よ・・・その存在で邪悪なる物を駆逐せよ・・・・か。この世界の者は意味を知っているのか?・・・・まあいい・・・やってみる価値はある。」
俺は深呼吸をして瞳を閉じてつぶやいた。
「It is assumed it is alar in my back and I can fly over the sky.(私の背中に翼があると仮定して、私は空を飛べる)」
・・・・なんだこの力は!!体中に力があふれる。俺のからだ周辺は白い光に包まれ光が消え去った後、俺の背中には白い翼が生えていた。
「せ、精霊化魔法!!なんでスルトが知ってるの!!」
「これで空を飛べるか?」
俺はやってみた。意外にも翼が自由に動き、普通に飛びまわれた。俺の反撃が開始だ。奴の攻撃がうるさくてグレネードが撃てなかったが、今度はあてる。
「これをこうして・・・」
俺はH&K HK416に取り付けられているM320 グレネードランチャーを弄って40mm躑弾を挿入した。
「喰らえ!!」
俺は引き金を引いて奴の目玉向けて発射させた。その弾は弧を描きながら、奴の頭には直撃した。まあ俺陸自じゃないから。空自だから。本職じゃないっての。頭に当たっただけでも上出来だろ。まあ、そんな言い訳はどうでもよくて、弾は難なく爆発、銃弾とは違いグレネードはアンフェスバエナには相当な効果があったらしい。顔面の皮が一枚べろりと向けて雄たけびを上げている。
「なんで銃弾は効かないんだ?」
「奴は焔に効くのよ。火を出すくせに。それに比べて物理的な攻撃の効果は皆無よ。解った?」
「ああ」
俺はそう返事し、アンフェスバエナに銃口を向ける。しかし、アンフェスバエナが向いている方向は俺ではなく、アンフェスバエナを大地を利用して動きを止めているにゃんにゃんの方向だった。そして
「グヲオオオオオオオオ!!」
「・・・・って・・・ちょっと・・・」
アンフェスバエナは雄叫びを上げて口から火を噴いた。そしてエアリィは思った。私の人生これで終わり?だったらとっととあのスルトを捕まえて、東オーレリシア帝国に亡命して、売り飛ばせばよかったと。イリーナには悪いけど。そんなこと考えて20秒・・・
「・・・・あれ?」
「案内御苦労様。これで貸はチャラだぜ。“エアリィ”」
「・・・・あんた・・今・・・エアリィって・・・名前で・・・」
エアリィは口を大きく広げて喜んでいる。
「弱点は火だな?」
「うん」
「行きますか・・・Burn up the wicked one by the prison flame, and become an ash!!(獄焔で邪悪なる者を焼き尽くせ、そして、灰となれ!!)」
俺が言った途端にアンフェスバエナのからだは焔に包まれ、もがき苦しんでいる。
「グヲオオオオオオオオ!!」
真黒になった燃えカスはその場で風にあおられ散って行った。
「・・・あんたすごいね・・・・あれだけの強力な火系魔法見たことないよ。どこで魔法を習ったの?」
「それよりも、エアリィはどうしてそんなに簡単に魔法が使えるんだ?生命力と引き換えにするんだろ?」
「ノンノン。あたし達獣人族はあんた達のおかげで進化したの。いわばMETを浴びて進化した。言ってる意味お解り?つまりあんたほどじゃないけど、獣人族は周辺のMETは若干吸収できるの。まあ吸収した以上の量を使えばあんただろうと誰だろうと生命力を使うだろうけど・・・」
「そうか。・・・・まあ、これで一件落着だな。エアリィ」
「あたしもこれで一件落着であんたと打ち上げやりたいところだけど・・・・・・それどころじゃないね」
「アンフェスバエナを“処理”したのは貴様らか?」
黒い鎧を着た兵士たちが俺達は次々に囲む。持っている武器は剣にボウガン。マスケット銃。俺達に何の用だ?
「・・・・処理したのは俺だと言えば何になる」
「城まで連行させてもらう」
「拒否権は?」
「無いに等しい」
「へぇ。むしろお前らの方が拒否権がないだろう?」
「はっ?」
俺は小銃から銃剣を取り外し、俺達に対して命令をした兵士にすぐさま駆け寄り首にあてる。
「アンフェスバエナを処理した俺達に、貴様らがかなうとでも?・・・この銃剣は貴様らの剣は勿論、お前らのきている鎧など紙のごとく切れるぞ。これでも俺達に拒否権はないと?」
「くっ(速すぎだ・・・目が追いつかなかった・・・)」
「りゅううううううううとおおおおおおおお!!」
突然聞いたことのある声が聞こえたため振り向いたら
「何やってんの!!」
「ぐおおおおおお」
横っ腹をイリーナに蹴り飛ばされた。
「まったく・・・エアリィを危険な目にあわせておいての、正規軍兵士に堂々とケンカ売って・・・この人たちは正規軍の中でも選ばれた首都を守る近衛師団の中でもさらに絞られた特殊部隊[特殊作戦情報部]なのよ。戸籍の無いリュートの権限で何とかなると思ってるの!!」
イリーナは横っ腹を蹴り飛ばしておいての、倒れている俺を踏みつけた。命の恩人である俺を踏みつける姿は女王様とお呼びとかでもいうような雰囲気であった。女王様とかいう顔してないくせに。むしろまだ子供だろ!!顔も身長も体系もいろいろと・・・・ぱっと見Aだろうが!!
「わかったから、踏むな!!」
特殊作戦情報部の兵士は俺達の姿を見て唖然し呆れ、目を丸くしている。
「・・・びっくりしたが・・・これがアンフェスバエナを倒したスルト・・・・案外間抜けな奴だ」
俺は特殊部隊兵士に間抜けという烙印を押されてしまった・・・・
「上の文章訂正しろ~~~~~~!!」