#8 特殊試験-前編-
「たしか、特殊試験って・・・・って・・いない!!」
エアリィは思い出したことをスルトである龍斗に言おうと思ったが、時すでに遅し。奴の姿は見えなかった。
「全くあのスルトは本当に馬鹿なんだから。特殊試験は―――――」
――――――南プシェムィシル村中央部
村の中央部は村長さんの家に、村立図書館、警軍駐屯地、ギルド公社南プシェムィシル村支部、総菜屋、雑貨屋などと賑わっている。そして俺の目的地のギルド公社は目の前だ。
「こんにちは。あっ、スルトのリュートさんではないですか。こんにちは。今日は何の予定で?」
ギルドの受付係で看板娘?らしいアイリスさんは俺に聞いてきた。・・・今日が模擬試験っての知ってるよね?
「もしかして、もう模擬試験終わっちゃったんですか?早いですね。いきなり階級が大尉ですよ」
「???・・・模擬試験の会場ってここじゃないの?」
「はい?・・・それは普通の人の場合です。あなたは特別待遇での特殊試験なので此処ではありません」
俺はそのセリフに唖然とした。・・・じゃあ試験会場ってどこだよ?そんなことを考えて頭を抱えていたら見たことのある容姿を見つけた。
「もう、だからあたしが待てって言ったのにあんたが勝手に行くから。これだから素人は・・・」
後ろからふと声が聞こえたため振り返ると先程のにゃんにゃんさんだった。
「にゃんにゃんさんか・・・知っていたなら先に言ってくれよ」
「私の名前はにゃんにゃんじゃなくてエアリィ!!それと何度も呼んだわよ。あんたが勝手に一人で行ったのが悪いじゃない。もう少し金になる話を知りたかったのに!!」
「あら?エアリィちゃんじゃない。どうしたの?・・・もしかして、リュートさんと知り合い?・・・そっか。獣人族から見れば神様だもんね」
「アイリス・・・あたしはスルト様は神様だと思っていたのに本物はこれだったからがっかりしたよ。なんかけち臭いし、私の値段500Auで高いって言うんだよ!!」
ちょいと、君の言っていることは一方的兼思い違い過ぎると思うのは俺だけだろうか・・・?
がっかりだというのも気に食わないが、人それぞれなので、まあ許すとしよう。
「あたりまえだ。一般人に古代兵器の情報を教えるか・・・それよりも、アイリスさん。特殊試験会場ってどこですか?」
俺はとっとと用事を済ませたいため、エアリィをほうっておいて、質問した。
「えーとですね、特殊試験会場はギルド公社本部です。場所は此処から北西のところにある首都のウィーンペストにあります」
ちょっ・・・いきなりそんなこと言われても俺、この世界の地理・地形に詳しくないんだ。
「えーとですね、俺この国の首都がどこにあるかも何も知らないんですよ・・・」
「そうでした。じゃあ地図を渡しますね」
そう言ったアイリスさんからもらったのは2枚の地図だった。一枚はヨーロッパと所々似ているオーレリシア大陸の地図。もう一枚はポートランド皇国の地図。どうやら南プシェムィシル村は東オーレリシア帝国とプトレマイオス共和国との国境付近にあるようだ。首都までの一番の近道は海を渡って直線で進むことだ。
「この海渡れます?」
「残念ながらギルド公社海運部門のこの村での定期便は朝と夕方、夜の3便しかないんです。次の便を待っていただくには、あと半日ほどかかります」
ギルド公社って民間軍事会社的なの以外にもそんなことまでやっていたのか・・・
「そうですか・・・」
「なら歩いたほうが早いわよ」
今まで閉じていたエアリィの口が再び開いた。
「あたしはね、よくウィーンペストに行ったりしてるから近道を知っているんだよ。案内してあげる」
「本当か?」
「うん。嘘はつかないよ。だけど・・・」
「なんか情報よこせだろ。解ってるよ。そのおちは・・・」
「ちがいますよ~。ウィーンペストに着いたら言うわ」
「・・・まあ危険じゃないなら案内してもらうかな」
「そうこなくっちゃ。じゃあねアイリス。イリーナには悪いけどこのスルト借りていくよ」
「借りてくって俺は物か!!」
「あたしにとっては重要なお宝源なのよ。まあ着いてきなさい!!」
「はいはい」
「それと、この村では一昨日の件で理解されていますが、他の地域ではスルト、もしくは、かの最終戦争のスルトの末裔ムスペル人は迫害対象なので気を付けてください。あなたと同じ黒い髪を持つ人が殺される事件も珍しくありませんので」
アイリスさんは、行く前に俺に忠告してきた。成程。俺と同じ髪の色を持つ人もいるんだな。こうして俺はウィーンペストまで猫耳に尻尾の生えた獣人族の少女エアリィと共にウィーンペストまで行くのだった。
♦
太陽?か解らないが日が真ん中を過ぎた頃。まあ、いわゆる正午を過ぎた頃だ。時間がわからず、俺の左手につけてある時計を確認すると正午ではなく、3時。
実際徒歩ではなくて、アーノルド大佐から聞いた周辺の魔法粒子を使ってエネルギーを生み出す魔導機関を使った魔導機関車に途中乗ってここまで来たのが事実である。かかった時間8時間。
「ここがウィーンペストよ」
「ここが・・・ポートランド皇国首都・・・ウィーンペストか・・・」
「とはいってもまだ外だけどね」
俺達はまだ正確にはウィーンペストには着いていない。その手前である。ウィーンペストは中央に大きな城が建てられており、その中にポートランド皇国皇室と政治を担当する中央議会、皇国軍本部が置かれ、中央議会には財務局、外務局等の機関が存在する。そしてウィーンペストは城塞都市であり城壁に囲まれている。そして今、俺達は関所に立っている。
「おい、ちょっと待て貴様!!」
関所に立っている兵士は俺を呼んだのだろうか?
「ん?」
「お前だお前!!フードをかぶってるお前だ。そのフードを外せ」
「何故外さないといけない?」
(ちょっとあんた!!何言ってんの!!)
エアリィは小声で俺に言う。何か問題でもあるのだろうか?むしろ、外した方が問題が起こる気が・・・みんな「スルトだ!!逃げろ!!」とか言って、みんなパニックになるぞ。
「早く外せ!!さもないとスパイ容疑で捕らえるぞ!!」
「警軍ではないのに捕まえられるのか?」
(スパイ容疑とかは正規軍の範囲だから警軍は手出しできないのよ!!)
(そうだったのか!!)
「ならこれを見ろ」
俺はそう言って一枚の紙と手帳を出す。
「ん?・・・・ギルド手帳か・・・新米か。こっちは・・・大尉階級での特別待遇で特殊試験のためギルド公社傭兵部門本部闘技場での戦闘試験。・・・・成程。なぜ顔を見せられないんだ?」
「・・・・見せたら混乱が起こる。多分市民はヒステリックになって逃げ惑うだろう」
「どういうことだ?」
関所の兵士は俺の顔を覗き込もうとするが俺は顔をそらした。
「・・・俺がスルトだから」
「!!」
「解ったならとっとと通してくれ」
俺は頭の回転が鈍い兵士に腹が立ったため、無理やり通ろうとした。
「あ、ああ。通せ」
「それじゃあ~」
エアリィは関所の兵士に手を振っていた。
―――――ウィーンペスト
「まったく・・・一時はどうなるかとひやひやしたよ」
「別に・・・俺の力を行使すれば兵士が250人来たとしても勝てる」
「・・・ったくどこにそんな自信があるんだか・・・これが本当にスルト様なのか心配になってきたよ。」
ただ単に5.56mm弾30発のマガジンが6つ。9mmパラベルム弾が60発。手榴弾が5発とグレネード弾が数発あるから250人と見積もっただけであるが・・・
「俺は君達獣人族が崇拝しているスルトとは違う。異世界から来たというのは同じだが・・・それよりも、ギルド公社の闘技場まで案内してくれ」
「わかったわよ。全く。それと、行く前に言った言葉覚えている?」
「ああ。着いたら言うって」
「うん。・・・暇な日でいいんだけど古代兵器探し手伝ってくんない?」
俺はどんな請求をしてくると思ったら、“古代兵器探し”だと!?
「なんでだ?」
「ただの民間人に古代兵器なんて解らないわ。スルトであるあなたなら解るでしょ?」
(これで古代兵器ザックザクで政府に研究材料で売りまくった私は大金持ち!!)
・・・・・・・・・
「お前の思考・・・ダダ漏れだぞ・・・せめて心の中だけにしとけ。・・・まあ暇な時には手伝ってやるよ。ただし・・・一人で行くな。使い方を知らないお前達が使って死んだらどうする?元も子もないぞ。まあ、なんでそんなにお金がほしいかは聞かないけど・・・」
この世界は俺達の世界と違い兵器の劣化がないため、もし、一万年前の手榴弾が残っていて手榴弾系を弄って死亡なんてケースもありうる。
「はーい。・・・やったね!!・・・じゃあついてきて」
ここで俺が信用できるのはこいつしかいないためちょっと心配ではあるがついて行った。
(そう言えばイリーナもウィーンペストに用があると・・・・なんだろう)
――――ウィーンペスト中央部 ギルド公社傭兵部門本部
「ここか・・・・」
大きな塔に奥の方に大中小の闘技場が置かれていた。
「とりあえず、入りましょう」
「ああ」
とりあえず、俺達はギルド公社傭兵部門本部の塔に入った。
――――受付
「あの~すいません。ギルド公社南プシェムィシル支部で一昨日ギルドメンバーに加入し、ここの闘技場で大尉階級での特殊試験を受けさせてもらうということで来たのですが・・・」
俺は受付のお姉さんに話す。ギルドの受付で働いている人きれいな女性ばっかりだな・・・
「ちょっと待っててください。・・・・・・・・ありました。一昨日の南プシェムィシル村バルバロッサ海賊団人質事件ですね。解りました。あなたは中闘技場で召喚石によるスレイプニルと戦ってもらいます」
召喚石?スレイプニル?意味の解らない単語ばっかり言うなよ。おれ、この世界の住人になったばかりなんだから・・・
「ねえ、にゃんにゃん?」
意味が解らなかったのでついてきた、と言うよりも案内係のエアリィに聞くことにした。
「召喚石ってなに?それとスレイプニルって何?」
「・・・・はぁ、あんたってホント何も知らないねえ」
うるせえ。とっとと教えろ。
「召喚石ってのは高純度のMETが結晶化して出来た石がモンスターの生態をコピーし記憶して出来た物。ある事をするとその召喚石のMETを使って記憶したモンスターを作りだす。召喚石には使用回数があるわ。で、スレイプニルは古代最終戦争でオーディンが反乱の際に乗ったとされる8本足の軍馬のことよ。・・・もしかして、スレイプニルの討伐・・・?」
「ああ」
「・・・どんまい。まあ頑張りなさい。あたしは中闘技場の客席で高みの現物をしてるわ」
「ちょっおま、どういう意味だよ。どんまいって・・・」
そんな会話していると、
「だれだ、スレイプニルト戦う奴って?」
「あいつじゃないのか?フードかぶって獣人族と一緒にいるやつ」
「そんな強そうには見えないが・・・・」
(おい、どうする、変な騒ぎになってきたぞ。もし俺がスルトってばれたら・・・・)
龍斗とエアリィは考える。
龍斗視点
「おいっ、顔を見せてみろ」
「それは企業秘密です・・・ははははは」
バサッとフードを取られて・・・・
「黒髪、茶眼、黄色肌・・・ス、スルト!!」
「スルトだ!!」
「この悪魔め!!死ねェェェ!!」
「うわあああああああ」
エアリィ視点
やられている間にどさくさにまぎれて、気絶したあいつを回収。
↓
東オーレリシア帝国へレッツゴー
↓
売りさばく。そして500Auゲット!!
・
・
・
(まじかよ・・・・死亡フラグ・・・)(やったね・・・億万長者エンド!!)
「おい、スレイプニルと戦うのはお前か?」
(死亡フラグ来た!!)(億万長者エンド来た!!)
「は、はい。そうですが・・・」
まずいな・・・人と話すときは顔を見せろ、礼儀だ。とか言ってきそう。むしろ俺軍人だったから俺だったら多分言っている。
「お前さん・・・人と話す時ぐらいはフードを外そうぜ。それが礼儀じゃないのか?」
(ほら来た!!回避できねえよ。この前ぐらいに5人とか何とかなるが、戦いなれているギルドメンバーのソルジャー20人規模・・・無理だ・・・)(順調に行ってください。そうすれば500Auはあたしの物)
「フードを外すことはできない・・・」
「外すことができないと?礼儀知らずにもほどがあるのでは!!」
(取られるわけにはいかない)
「はぁ!!」
俺は見も知らずのギルドメンバーの手を薙ぎ払った。その瞬間、あたり一面の空気が冷めた。
「俺のフードに触るな!!」
「き、貴様!!」
「やってしまえ!!」
(まずい!!)(予定通り!!あたしの勝ちだ!!500Auは渡さない!!)
「く、くそ!!」
奴らは俺に剣をふるってきた。すかさず俺は低姿勢になり複合装甲で剣を受け止めた。
「・・・・俺に近寄るなああああああああ!!」
俺は盾を上に振り上げ、H&K HK416の銃庄で周りの連中を薙ぎ払う。
「うおおおおおおお!!」
「ぐわあああああああ!!」
「ぐふっ!!」
「貴様!!」
それでもまだ十人前後生き残っているようだ。
「・・・おい、まだやるのか?」
「うっ・・・ちっ・・引き上げるぞ」
「ああ」
「ふぅ」
(回避完了)(なんでこーなるの!!)
「・・・ギルドのソルジャーってこんな物なのか?」
正直そんなに強くなかった。むしろ海賊どもの方が強かった・・・・
俺はそう悟った・・・