09
「もう夜だね」
「はい、だけどこれが私達にとっては自然な感じがします、寧ろお昼に集まれている方が違和感があるかもしれません」
「今日は部活もない状態だから僕が遅くまで連れ出していることになってご両親と僕の精神的にはあんまりよくないけどね」
「そういうのはいりません」
つ、冷たいな、昼と夜の気温差ぐらいは冷たい。
なにか言おうものならその全てにちくりと刺されそうだったから砂でも見ておくことにした、このなんらかの対象を見続けてそれでいて飽きない能力は時間を経過させるためには必要な能力だった。
とかなんとか現実逃避をしている場合ではない、だってここはこの前四人で集まった場所だからだ。
つまりそれなりに距離があるわけで、それでいて夏なのに夜だということはそろそろ動き出さないと本当に遅い時間になってしまう。
「明日も部活動はないのでずっとこのままです」
「うん、それでもいいけどとにかくここからは帰ろう、家に着くのが二十一時とかになっちゃうよ」
「約束ですからちゃんと泊まってくださいね」
「わ、わかったからいこう」
ほ、やっと帰れる。
水着を着ていたときですらこんなテンションだったから今日は異常に疲れた。
泊まるのは泊まるけど長く付き合える自信はない。
「朝の時点で両親には直接言ってあるんだから気にしすぎなんですよ」
確かに僕も話をしてから出てきたけどここまで長くなるとは言っていなかった。
夜ご飯を外で食べてくるかもしれないという話はしていても十八時から先は三十分が経過する度に不安になっていくだろうから言っているのだ。
それに部活以外の理由でここまで遅い時間に外にいるのは全くしないみたいだから変わってくる。
「聞いているんですか?」
「聞いているよ、だけど後輩、しかも女の子が暴走しているようなら止めるのが年上というものでしょ」
相手が〇〇だと言ってくれているからとそのまま信じて行動するのは楽だけど大事なところだけはちゃんとしなければ駄目だ。
「暴走なんてしていませんけどね、私は集まれたのでその時間を有効的に使っているだけです」
「楽しいの?」
「楽しいですけど、え、なんでそんなことを聞くんですか? 翔先輩は楽しくないんですか? 仕方がなく付き合ってくれているだけなんですか」
「仕方がなく付き合っているとか楽しくないとかそんなことはないよ。こうして付き合っているんだから意地を張る必要はないよ、盛り上がるにしてももっと家に近い場所でいいよねって言いたいだけだよ」
「いつもそうですけどお家に近い場所にいるとすぐに解散にしようとするではないですか、だから私なりに考えて行動しているんです」
僕が相手だからこうなってしまうのか。
「とにかく、これからも似たようなことがあれば僕は止めるからね」
「そうですか」
彼女の部活が終わったら集まって家までの道を会話しながら歩くぐらいが合っているのかもしれない。
翌日に学校があって泊まるのも長く話すのもできないぐらいが僕にとってはよくても彼女にとっては違ったからこそこうなっているわけだけど。
「なんでいつもこういう感じになってしまうんですか? これは翔先輩のせいですよね?」
「だけど甘えて全て任せるわけにもいかないからね」
「甘えてくださいよ、任せてくださいよ」
「それ、大室君や茜音ちゃんがいるところでも言える?」
「中学生のとき全然いかないで後悔していたので、取られたくないので全く気にせずに言えますよ。というかすぐに茜音さんのことを出すのはやめてください」
あらら、先に大室君のことを出していても駄目か。
「私は翔先輩のことが好きです」
「うん」
「だから長く一緒にいたいんです」
「時間と場所を考えてくれれば僕だって抵抗しないよ、そもそも受け入れておいてそんなことをするのはいい加減すぎるし」
「そのはずなのに翔先輩は……はぁ」
温度差が酷くなっていく。
でも、自分を守っているだけだとしてもこれが結果的に彼女のためにもなっているのだから少し冷静になってほしい。
「経験がないから怖いんですか? それなら私だって同じです、だけど行動することでしかいい方には変わっていかないんですよ」
「沙美ってよく話してくれるようになったね」
「あの頃は大室先輩や他の人がいましたから――ではなく、話を逸らさないでください」
「中学の頃からもっと関われていれば僕だって積極的にいけたんだけどなあ」
駄目男を好きになるのだとしても普通はもっと関わった状態からだろう。
「どうせ嘘ですよね、翔先輩が積極的になることはありませんよ」
「うわ酷い」
「事実ではないですか、というかその気もないのならなんであの日に受け入れたりしたんですか」
「いやだからさ、僕だっていまとなっては沙美といたいんだよ、だけど――」
「はいはい、自分を守ろうとするのはやめましょうね」
本音が出てきているのなら安心だ、とはならない。
段々と口撃の威力が上がっていくと付いていけなくなる、跳ね返すこともできないただの壁でしかなくなる。
「あーあ、僕が後輩側だったらお姉さんの沙美に甘えていたんだけどなあ」
「なんですかその情けない発言は」
「容赦ないね?」
「翔先輩が馬鹿なことばかり言うからです」
それなら同類にならないようにしなければ駄目だろう。
なのに側に残ろうとするから彼女は矛盾してしまっていた。
「まだ起きていられそうですか?」
「……眠たいかな、沙美は眠たくないの?」
このまま静かなうえに薄暗い空間でひっくり返っていたらすぐに夢の世界に旅立てる。
なら何故そうなっていないのか、それは彼女がこうして何度も話しかけてきているからだ。
「眠たくありません、それどころから寝られそうにありません」
「ありゃりゃ……明後日から部活があるしそれだと不味いよね、どうすれば寝られそう?」
「そうですね……翔先輩が頭を撫でてくれたら寝られるかもしれません」
「んーだけどここだと不味いよね?」
「そうですか?」
そうですかて、やはり意地を張っているといいことはなにもないな。
「お部屋にいきます?」
「いやいかないよ。うーん、じゃあ試しにやってみるね」
「はい」
それで頭を撫で始めたのはいいけどじっとこちらを見つめていて全く寝る気がないのに呆れた。
それでもと負けずに続けていたら腕が疲れてきたぐらいで彼女が負けてくれたから安心する。
流石に自由に行動はできないからとにかく端まで移動してなにも起こりようがないようにしてから朝まで寝た。
「沙美起きて」
「五時ぐらいに一回トイレのために起きたんですけど翔先輩の寝顔が面白かったです」
「ぶさいくじゃないかった?」
「すごい難しそうな顔をしていました」
「それは沙美のせいだね」
夢という夢は見ていなかったもののなんにも影響を受けていないということもないだろう。
夜は危険だとわかったからこれからは昼限定で会いたいところだけど部活があるからそれができない悲しさがある。
別の高校を選んだうえに部活動もやるなんて本当に諦めたかったんだなと伝わってくるのに実際はそうなっていないから不思議な話だ。
「なんでですか――は冗談としても翔先輩は帰ってしまいますよね?」
「一緒にいたいなら付いてきてくれればいいよ」
「それなら顔を――見ないでください」
「もう手遅れだよ、だから部屋で寝た方がよかったんだよ」
彼女は違う方を向きながら「黙ってください」とぴしゃり、もう本当に冬がお似合いの存在だった。
「夏祭りが終わったらすぐに秋になるね」
「実は翔先輩が中学三年生で受験勉強をしないといけなかったときに告白をされましたが断りました、そのときは近づいていなくても諦めていませんでしたからね。でも、結局なにもないまま卒業のときになって出せなかったときに諦めようと決めたんです。ただそこからは楽なようなそうではないような曖昧な時間が始まりました」
「諦めてスッキリ、とはいかなかったのか」
そうでなくても距離がある存在に対して対象が同じ学校から去ってもなんらかのものが残ったままなんて疲れただろう。
よく潰れなかったな、というのは彼女を舐めているようであれだからやめておくとしても強いとしか言いようがない。
「はい、だからこそ違う高校を選んだのかもしれません。だって余裕があって翔先輩がどうでもいい状態なら敢えて少し離れている高校を選ぶ必要はないじゃないですか」
「確かに、普通に近くにある僕らの高校を選べばいいよね、学びたいことを学べるならちゃんとそっちにいった方がいいけどそうでもないならさ」
「だから馬鹿としか言いようがないんです、だけど大室先輩のおかげでそれも変わりました。それで逆に距離ができたことで中学生のときよりも一緒にいられているんですから面白いですよね」
「はは、そうだね」
しかも僕の方から行動したこともあるぐらいだからそこらへんがあの頃とは全く違う。
「一番は翔先輩のおかげですけどね」
「あ、そういうのはいいから、僕も中学生のときから大室君には助けてもらったからね、だからわかるんだよ」
「大室先輩だけはいつも翔先輩のことを気にしていましたよね」
「大室君の友達も同じようにみんないい人だったなあ」
形だけでも誘ってくれて、参加しても嫌な顔をせずに「堀はどうする?」と聞いてきてくれていた。
だから僕も参加したいくせにしないなんてことを繰り返さなくて済んだ。
「あ、だけど翔先輩にも酷いところはありました、だって卒業式の日に勇気を出して近づいたのに泣いたら『え、なんで泣くの?』なんて煽ってくれましたもんね」
「ははは、だっていきなり来たかと思ったら沙美は名字だけ呼んで泣き始めたからさ、誰だって聞きたくなるんじゃないかな?」
「わかりました、むかついたから近づきたかったんですよ」
「あ、そ、そういうのもいいから」
それにこれだけ喋っておいてあれだけどまだ歯を磨いていない状態だからというのもある、うん、顔を思い切り見られていたぐらいなのに後から警戒した沙美ぐらい遅いね。
「ぐしゃり」
「いたたたたっ!?」
「ふふ、運動をしていると握力も強くなるのがいいですよね」
「い、いいから離して、折れちゃうよ」
「流石にそこまではしません」
もっといいときに笑ってもらいたいものだった。
せっかく可愛らしい笑みなのにマイナスなイメージがつきかねなかったから。




