06
「これとかどうですか?」
「市毛さんにはこっちが似合うかな」
「なるほど、おすすめしてくれている物を買いたいところですが悩みます」
「はは、自分がいいと感じた物を選べばいいよ」
時間があるからこちらのことは気にせずに何時間でも過ごしてくれればいい、こっちはただなんとなく歩いている人を見るだけでも楽しめるから。
「決めました、これを買います」
「うん」
「あとは水筒が見たいのでお願いします、それが終わったら堀先輩がいきたいところにいきましょう」
「合わせるから気にしなくていいよ」
もしどうしてもということでもそんなのは最後でいい。
こういうときには逆効果というかなんというか、せっかく外に誰かと出てきていてもここだ! という場所が出てこないから難しいのだ。
だからごちゃごちゃ考えて無駄に時間を消費してしまうよりも相手に合わせてしまった方が楽だった。
合わせてもらってばかりなのは気になるかもしれないけどどうか気にせずに出していってほしい。
「水筒か」
一応運動部に所属していたからそれなりに大きめの物を買ってもらって持っていっていた。
大きめの物だから高いならわかるけど小さくても高いとえぇとなる。
まあ? 最近は色々とすごい性能になっているみたいだから仕方がないのかもしれない。
「これにします」
四千円の物を選ぶとは……。
それにこっちでは全く悩んでいなかったけどそもそも買う物を決めていたのだろうか? ただ急いでいるからなら止めるしかない。
「二本目が欲しかったんですよ」
「あ、そ、そう」
「お会計を済ませてきますね」
人によって普通が違うから仕方がないか、あとはどうしたって使い慣れた物の方がいいからね。
「お待たせしました、これでやっと堀先輩に合わせられます」
「ごめん、特にいきたいところとかないんだ、僕は外で過ごし続けているからか歩いていても留まっていてもそれだけで楽しめてしまうからね」
「一人に拘っているとかではないんですか? そこに私がいても全く変わりませんか?」
ふらふらするのも留まっているのも好きなだけで昔から一人に拘っていたわけではない……はずだ、付いてきてくれた子もすぐに飽きて帰ってしまっていたから自然と一人になるだけでね。
「うん、誰がいても同じだよ、だけど一緒にいてくれている相手からすれば退屈かもしれないね」
僕はその気持ちがわからないから延々平行線になる。
「無理やり合わせてくれているだけだと思っていたのでそれならよかったです」
「全部嫌じゃないから受け入れているよ」
だからいまみたいなのは自分のためにではなくて相手のことを考えて言っているつもりだ。
いやでも結局はなにか不満をぶつけられた際に僕は先に言ったよね? と返したいわけだから守っていることになるのかな。
「でも、どうしましょうか?」
「もう買いたい物とかがないなら家の方に戻ってもいいかもしれないね」
ここも家からすれば外だけどやっぱり店内とかよりも自由な感じのする外の方が好きだ。
今日は天気も悪くないうえにそこまで暑いわけでも風が強いわけでもないなら尚更だ。
「それなら私のお家に来てください、ご飯を作りたいです」
「市毛さんって自分の家に誘うのが好きだよね」
「流石に堀先輩のお家で二人きりになるのは緊張するからです」
「今日なら茜音ちゃんがいるよ?」
日曜で部活がないからこそ出てこられているわけだし。
多分いま帰ったらむしゃむしゃお菓子を食べていて「これは一回目のおかわりだからね?」と言い訳をしてくると思う。
普通の食事とお菓子欲は別らしくて昼でも夜でも関係なくむしゃむしゃしているからいちいち言い訳はしなくてよかった。
「それなら堀先輩のお家でいいです、とはなりません、食材を勝手に使わせてもらうわけにはいきませんから」
「わかった」
どちらでもいいしご飯を食べたいのなら自分の分だけ作って食べてくれればいい。
あ、その点でも彼女は自分の家を選んだ方がいいかと一人で解決した。
「それに茜音さんがいますからね」
「あれ、もしかして警戒している感じ?」
「堀先輩は茜音さんが相手のときの方が喋りやすそうですから」
「別に会話がなくて気まずいとかそういうのはないけどね、僕は市毛さんの物静かな感じも茜音ちゃんのお喋り好きで元気なところも好きだよ」
とはいえ、あの子は急激に冷たくなるときもあるからできれば常になにか食べていてもらいたいところだ、積極的に食べている割には体重がどうちゃらこうちゃらといつも言っているから難しいとしてもだ。
「そうですか、それなら堀先輩のお家にいきましょう」
「え、なんで?」
「はぁ」
えぇ、なんでため息をつかれているのか。
何故かこちらの腕を掴んでずんずんと歩いていくからなにも言えなかった。
たださっきのは嘘ではないから会話が全くなくても気まずく感じたりはしなかった。
「美味しい、美味しいけどなんで沙美ちゃんはそんなに難しい顔をしているの?」
ツッコミを入れてくれて助かる。
「私は堀先輩とお出かけできて大満足ですけどね」
とてもそのような顔には見えないから僕らは困っているのだ。
ほとんど表情が変わらない子でもここまでなんとも言えない顔をしているのは初めてだ。
泣かせたいわけではないとしてもこれならまだ悲しそうな顔をしてくれていた方がマシな気がする。
「そ、そうは見えないけどね、翔君がなにかしちゃったの?」
「そういうわけではありませんよ、全部文句も言わずに付き合ってくれましたから」
「となると……ああ、私はわかったよ、翔君もあとちょっとが足りないよね」
「なんの話ですか?」
隠したりせずに教えてもらいたい。
「まあまあ、沙美ちゃんがわからないふりをしたくなる気持ちもわかるよ、翔君は勉強しないとね」
「教えてくれないの?」
「ここではとてもとても、沙美ちゃんが許可してくれても難しいね」
茜音ちゃんはまた新しいお菓子の袋を持ってから「私はお部屋に戻るねー」とここから去った。
「茜音さんが去ってしまったのではここに来た意味がありませんね」
「ああ、茜音ちゃんに会いたかっただけか」
「堀先輩が、ですけどね」
「え?」
「はぁ、本当にわからないふりをしているのは堀先輩ですよね」
もしかしてお喋り好きで元気なところが好きとか言ったからか。
「まあ、私も合わせられたので悪い気分ではないですけどね」
「待った、物静かな市毛さんも好きだって言ったよね?」
「はあっ? そんなこと簡単に言う子だったなんて信じられない!」
「ちょっと待った、戻っていなかったのはいいけどそのテンションには付いていけないよ」
「やっぱり茜音さんがいてくれた方がいいんですね」
だあ、この二人が組み合わさるとどうしようもなくなる、なくなるから同じく部活がない大室君を呼ぶことにした。
どうやらごろごろしていただけだったみたいだから助かった、それにすぐに来てくれたのもよかった。
「あ、翔君と同じ良二先輩だ」
「待て、なんの話だ?」
「簡単に好きとか言っちゃうからだよ」
「待て、堀がそんなことを言ったのか? なんだよ言えよ、というかそれで困ったから呼んできたのかよ」
残念ながらそういうことになる。
だけど僕ではこの状態になった二人の相手は無理だった、なので友達がそれなりにいて色々な存在相手と普通にやれている彼を頼ったのだ。
「そうだよ、だから良二先輩と同じだよね」
「敬語をやめることにしたんですか?」
「あ」
本人がいいならこのまま敬語をやめるのもありではないだろうか。
いまは少し不安定な状態だから同級生を相手にするみたいに変えれば本音を言い合えていい方に傾く可能性はある。
「無自覚か、はは、逆に気持ちがいいやつだよ、怖いやつでもあるけどな」
「えー怖くなんかないですよー」
「もうそれは無駄だからやめておけ」
「良二先輩のばか」
「お、おい……」
ん-まあこれも一つの甘え方、かな?
前の件を実は気にしていたのなら今回の呼び出しは役に立てたかもしれない、あ、あとは市毛さんの勘違いも影響しているか。
「茜音さんはすごいですね」
「沙美ちゃんも翔君に言いたいなら言っておけばいいよ」
「そうですね、さらっと茜音さんの方が好きだということを言ってほしくないですね」
「そうだよ翔君、どっちも狙おうとするのは間違いだよ」
とはいえ、あそこで市毛さんのことだけを出していたら今回の彼みたいに距離を置かれていたかもしれないわけで、僕は失敗したとは思っていない。
「誰でもいいけどもっと細かく教えてくれないか?」
「『僕は市毛さんの物静かな感じも茜音ちゃんのお喋り好きで元気なところも好きだよ』と言っていました」
「なんだ、ただの市毛の照れ隠しじゃないか」
「「は?」」
「ひぇ、そうだ堀っ、菓子かなんかないか? いま腹が減っていてな」
お菓子なら母と僕で協力して買ってくるから沢山ある。
ただそこまで余っているわけではないのが怖いところだ。
「ありがとな、マジで助かったぜ」
「うん」
「さ、俺らは邪魔をしても悪いから部屋にでもいくか茜音」
「え、流石にまだお部屋には入れられないよ?」
部屋を譲ってからは僕もいっていないからそれも無理はない。
「客間でもいい」
「わかった、それじゃあ翔君のお部屋にいこう」
見られてやばい物があるとかでもないから好きにしてくれればいい、あと彼的にもメリットがなければいけないからこれでいい。
流石に誰かが相手をしてくれていればさっきみたいに突撃をされることもないからやっと落ち着ける時間となった。
「正直に言うと残念です」
「えぇ」
「そうではなくて、本当なら私が堀先輩のお部屋にいきたかったです」
直前まであの子に乗っかっていたというのに急なこれで付いていけない。
僕がすぐにその気になる人間なら何度負けていたか、意識してしているわけではないのなら彼女もあの子と同じで怖い子だ。
「本当になにもないよ?」
「やっぱり私の家にしておくべきでした」
「はは、誘うのが好きだもんね」
「はい」
でも、完全に二人きりの状態で自由にやられていたら逃げだしていたかもしれないから僕としては助かったのだった。
「なんだあいつは……」
「汗を多くかくようになってきた部活動以上に苦戦しているようだね」
「茜音はなにがしたいのかがマジでさっぱりわからん」
拒絶しているわけではないのは確かだ、それと敬語の件は学校で他の人がいるところでは直していても僕らだけのときは緩い喋り方のままだ。
寧ろ今度はあの子が彼を多く連れてくるようになった、が、二人きりでどうかと言ってみても「流石にそれはね」と躱すのだ。
「一回引いてみたらどう?」
「そもそも押してはいないからな」
「なら茜音ちゃんが積極的なだけか」
「やられるのは駄目だけど自分がやるってある意味最強だな」
「大室君は相手としてよかったのかもしれないね、別に誰にでもしているわけじゃないからそういうことだよね」
最近しか知らないけど男の子で一緒にいるのは彼だけだ。
放課後になったら部活動だし家に帰ってからはお菓子を食べているぐらいだからこそこそ会っているわけでもないはず。
「や、ここで勘違いして態度を変えたらまた冷たくなるんだろ?」
「どうだろうね」「どうだろうねー」
「堀、俺を守ってくれ、俺は若干茜音の笑顔が怖くなってきているんだ」
「相変わらず酷いねー」
そのかわりと言ってはあれなものの家では本当によくしているからありがたい話だ。
だからこれからも潰れてしまわない範囲で彼女の相手をしてもらいたかった。




