05
「堀、大きい忘れ物をしていたぞ」
「忘れ物? って、また茜音ちゃんを連れてきたんだ」
なにを勘違いしたのか彼は茜音ちゃんを連れてくるようになっていた。
ただ一緒にいたいからならいいけど実際はそうではない……みたいだから微妙だ、連れてこられた彼女としてもそう感じているのではないだろうか。
まあ、いまは僕が作ったお弁当をむしゃむしゃ食べているだけでも食べ終えたら本当のところを吐いてくれると助かるところだ。
「ん、私、一つ期待していることがあるんですよね」
「おう」
「それは良二先輩が翔君と上手くいくことなんですけど」
いや本人がこんな感じだからこそ彼としても困っているというところか。
恋愛的な意味で興味を持っていないとしてもそれはないよなあ、たとえ男の子が好きだとしてももっといい人間を選ぶでしょうよ、と。
市毛さんみたいに敢えて変なのを選ぶ人間ばかりではないからそれが普通だ。
「この前と言っていることが全く違うぞ、それに俺らは男同士だろ」
「最近はそういうのも関係ないじゃないですか――は冗談としてもどこか気にしているみたいなので言いたくなったんですよ」
うん、確かにその件に関しては本当で茜音ちゃんが無理なときでも来てくれているのが彼だ。
僕としても段々と変わっていて最低でも彼が来てくれないと寂しく感じてしまっているぐらいだから無理ではないなら続けてもらいたいところだ。
だけどそのためにはなにかしらの魅力がないといけないわけで、お気に入りのスポットの一つでも教えたら彼は来てくれるだろうか?
「ああ、もったいないことをしていたと思ったからだよ」
「中学生のときの話ですよね? 私は特に――あ、部活動で毎日体を動かしているのを口実にもっと食べておけばよかったと後悔しています」
これもまた僕からしたらいまでも僕三人分ぐらいは食べているからもし本気になっていたらどうなっていたのかわからない。
母も「よく食べるようになったね」と言っているぐらいだからこれまでにはないことが起こっているのは確かだけどね。
「ふ、太るぞ」
「私、いっぱい食べても何故か体重が増えないんですよね」
「うわ、女子の敵が多そうだ」
「幸い、目をつけられたこととかないですけどね。それより翔君はなんでそんな顔をしているの?」
「やっぱり急に環境が変わったことによるストレスの増加が原因なのかな?」
色々なことに正直なのであれば、本当にそうなら吐いておくべきだ。
「え、そもそも食べることが好きなだけだよ?」
そこは否定しても意味はないけど解決したようなしていないような、という感じだ。
息苦しくなるとしてもこういう大事なところでは嘘発見器的な物があってほしいと思う。
「だろうな、茜音がたかだかそれぐらいのことでストレスを溜めるわけがない」
「あーもうすっかり私のことをわかっているみたいな発言ですね?」
「食べることが好き、距離感がバグっている、実は少しだけアホなところがあるってところだな」
二つはわかってもアホなところがあるというところはよくわからなかった。
「えー酷いですよー」
「事実だろ。ま、だからこそ可愛いけどな」
「ちょ、な、なにを言っているんです?」
この前の市毛さんではないけどさらっとやるのがみんな上手だ、それでもこれは僕には関係ないことで求めていたことだからテンションが上がった。
彼女の反応も悪くない、真顔で「なにを言っているんですか?」とか返さないでよかった、何故ならこういうところでの反応が悪いと彼が勇気を出せなくなってしまうかもしれないからだ。
「も、もー翔君もいるところでやめてくださいよー」
「はは、悪い」
「ちょっとあっちで話しましょう」
まだ授業はあるから戻るか。
あれだ、過去に後悔したことがあって次は同じようにならないように頑張っているのだろう。
度が過ぎたら駄目だけど積極的になるのはいいことだ、上手くいってほしいな。
授業の時間になっても気分がいいままでいつもよりも集中できてしまった。
出るほどでもなかったから休み時間は教室で過ごしてまた切り替えての繰り返し、だからあっという間に放課後がやってきた。
今日は特に約束なんかもないから学校をあとにしてお気に入りのスポットの一つで休もうとしていたら『今日も会いたいです』と市毛さんから連絡がきていることに気が付いてあの子の高校近くでいいところを探すことに。
そう距離もないのにそれっぽいところがなくて探し回った結果、部活の終了時間がやってきて慌てて向かうことになった馬鹿がいる。
「私がわがままなのは事実ですけど、これは堀先輩が外にいることが好きだからでもありますからね?」
「はは、僕はまだなにも言っていないよ。それよりお疲れ様、飲み物を買ってあるから飲んでよ」
いちいち言い訳をしようとしなくていいのに。
だっていつでも呼んでくれと送ったのは自分だ、なのにいざ実際に呼び出されたら文句を言う人間なんかではない。
「ありがとうございます」
「うん、帰ろうか」
「はい」
うーん、集まった割には会話がないのが僕らだ。
ただ無理に沈黙の状態からなんとかしようとすると空回りするだけだから動けずにいた。
こうなってくると高校からはそう距離も離れていないからそう時間も経過しない内に着いてしまうわけで、最初のそれ以外はなにもなかった。
「上がっていきませんか?」
「え、流石に時間的にあれだからやめておくよ」
「それなら堀先輩のお家にいきたいです」
「同じ高校で土曜の夜とかならいいけど平日だからね」
「これも自分のせいですね」
部活動もしている身だから余計にそういうことになる。
「学びたいことを学べるからとか以外の理由で違う高校を選んだのならそうかもね」
「ふふ、ここで違うよなどと言わないのが堀先輩らしいです」
「だって無意味なフォローなんてされたくないでしょ?」
「そうですね、ありがとうございます。あ、これは今日来てくれたことに対してでもありますから」
「うん」
欲張るとろくなことにならないのは僕以外の人だって同じだ。
そしてそれを彼女がわかって引いてくれるからなんとかなっている。
「それではこれで」
「顔が全く納得がいっていないって感じだけど、うん、またね」
だから帰っている途中に考え付いたということなのだろうか。
ぶつけるかぶつけないか悩んで、結局はぶつけることを選んだけど断られて拗ねている的なところもあるのかもしれない。
「ただいま」
「おかえり」
「うん、ん? 僕の腕なんか掴んでどうしたの?」
「少し相談したいことがあってね、翔君に用があるのは沙美ちゃんだけじゃないんですよ」
「それじゃあ外で話そうか」
彼女はお喋り大好き人間だから待っているだけでいいのは楽でいい――と考えられていたのはこのときまでだった。
「え、大室君が来ないようにしてほしい?」
またなんで急にそんな、今日だって二人きりで過ごしていたぐらいなのにどうしたのか。
「うん、流石に急すぎて怖いから」
「受け入れられないなら素直に言うしかないんじゃないかな」
「やっぱりそれしかないかな、そのときは翔君もいてくれる?」
自分だけが事情を知っていて対象に説明できなくてもどかしい状態になるよりはマシか。
家族である分、ここで断って冷たくなられたりすると嫌だからわかったと答えておいた。
色々な意味で積極的で翌朝から付いていくことになったのはアレだったけど。
「堀、なんか俺は勘違いをされているみたいだな」
「過去になにかあったのかもしれないね。でも、僕も驚いたよ、大室君は女の子に可愛いとか言っていたようなことはなかったと思うから。ほら、友達が盛り上がっているときでもやめておけよって止めていたでしょ?」
友達からはむっつりスケベとか言われていた。
男の子として盛り上がりたくなるのはわかっても場所を考えろよと言いたかったのだろう。
「なあ、なんでそこまで覚えているのに久しぶりに会ったときにわからなかったんだ?」
「だから怖くなっていたからだけど」
「怖いか? 鏡見ても中学のときの俺と全く変わっていないぞ」
「そりゃあ自分で見たらね」
僕だって鏡で見たらそれなりに悪くないように見えるけど相手から見たらどうかはわからない。
たとえ顔がよくても中身が伴っていなければいい方向に繋がったりはしないのだ。
「まあいいか。それより茜音……堀妹のことをどうするか」
「もう警戒されちゃっているからまた近づいてくるまで待つしかないね」
あの様子だとこのまま完全になくなる可能性はあるし小さなきっかけ一つで一気に仲が深まる可能性もある。
直接ぶつけて遠ざけたことが今後どれぐらいの影響を与えるかか。
「マジかあ……なら堀が相手を頼むわ」
「それなら川でも見にいこうよ、落ち着くよ?」
「そうだな、今日は付いていくわ……と言いたいところだけど部活だからな」
「終わった後でいいよ、早く休みたいなら帰った方がいいけど」
「じゃあそれで頼むわ」
僕のことを気にしてくれている女の子が現れるよりも嬉しいことだった。
そのせいで学校では全く落ち着かずになんのために来ているのかと問われそうな感じだったけど怒られることはなかったからテンションも変わらなかった。
「ここだよ」
ある程度暗くなっても水が流れていることぐらいはわかる。
ほとんど見えないことが逆に落ち着くこともあるのだ、だから彼はラッキーなのかもしれない。
意識して時間をつぶさなくても自然とこういう時間になるからだ。
「川、だな」
「うん、川だよ」
それ以上でもそれ以下でもない、春以外はわかりやすく変化したりはしない場所だ。
「え、ここで何時間も過ごしているのか?」
「そうだね、少なくとも一時間はいるね」
「特殊な趣味だな、少なくとも俺はこうして誰かがいてくれないと十分ぐらいで無理になりそうだ」
「そうかな?」
約束通り付いてきてくれたから十分で帰ってしまっても引き留めたりはしない、なんたって活動をしてきているわけだからね。
そもそもこれは複雑なそれをなんとかするためにしているわけで、全くいい要素がないのなら逆効果でしかないからだ。
「ふぅ、可愛いから可愛いって言っただけなんだけどなあ」
「ぽろっと本音がこぼれてしまった感じ?」
「んーただ言いたくなったからだな、だから自然と出てきたわけじゃない」
「それでその場はよくても結果、こうなっていたらアレだね」
「そう、アレだ」
断る権利があるからあの子はなにも悪いことをしたわけではないけどにこにこしていたからこそ落差に付いていけなくなるときがある、直接そうされた本人ではなくてもこうなっているのだから本人の内は……。
「市毛さんには我慢――あ、できていなかったか、『可愛いやつだ』って何回も言っていたもんね」
僕は本人が卒業式のときに突撃してくるまでは冗談とか嘘の類だと思っていた。
だってそうだろう、部活はやっていたけどそこで物凄く活躍していたとかでもない、委員会とかが同じで支えられたとかでもなかったから。
彼が友達を連れてきてそこにあの子がいただけ、あの子からしたら僕だって同じだ。
「ほ、本人がいるところじゃ言っていないからセーフじゃないか? で、今回は直接ぶつけたからアウトなんだよ」
「あんまり悪く考えすぎないようにね」
「おう、だけど堀妹が堀のところにいたら喋りにくいな」
「僕は自分からいかないし基本的に廊下で過ごすから来てくれれば相手をさせてもらうよ」
最近までは休むために時間を使っていたみたいだから彼のことを考えるのならそのまま続けることが一番だった。
僕のところにいったところで得なことがあるどころか時間を無駄にする可能性の方が高いのだからそういうことになる、そこから目を逸らしたところでそれが現実なのだから仕方がない。
できれば自分でこういうことは考えたくないもののやっぱり前にも言ったように魅力があるなら一人なんかにはなっていないというやつだから。
「いやそれは変えろよ、中学のとき地味に寂しかったんだぞ」
「はは、言ってしまえばただの部活仲間って感じだったのに意外だね」
「そこから友達にってなるだろ、それに前も言ったけど俺は友達のつもりだったけどな」
「あ、別に拒絶しようとしているわけじゃなくてそのことについてはありがたいと思っているからね? 今更だけどありがとう」
それこそ茜音ちゃんの前々からの友達でよく知っている状態なら役立てたかもしれないけどほとんど同じ状態だから無理そうなのが残念だったりもする。
「なんか礼を言ってくれているのに煽られている気分になるな」
「なんでだよー」
「はは、冗談だよ。ありがとな」
「はは、どういたしまして」
場所についてはあんまりよくなかったみたいで早くも帰る選択をした彼がいた。
意地を張って残っても意味はないから付いて歩いていると「あれ、堀妹からだ」と呟いて彼が足を止めたからこちらも止まることになった。
「『別に嫌いになったとかじゃありませんから誤解しないでくださいね』だってさ」
「喜んでいいことだと思うけど当日に時間が経ってから言われても不安になるよね」
「またいくとも書いてあるけど来ないようにしてほしいって言ったんじゃないのか?」
「そうだよ? だから茜音ちゃんと二人で大室君のところにいったんだよ」
なにがしたいのかわからないな。
「怖すぎだろ、急すぎて怖いって自分に対して言っていたとか……?」
「いや、それはないと思う」
あまりに響きすぎて怖くなって相手を遠ざけた、なんて感じはしなかったけど。
「だよな。と、とりあえず怖いから堀もいてくれ」
「わかった」
「あと今度、市毛とのことも教えてくれ」
「いいよ」
恋をしたことがないことがよくもあり悪いことに繋がりそうだ。
とにかくある程度の間は市毛さんの動きたいように動いてもらってそこから考えるぐらいがよかった。




