04
「堀先輩、今日は久しぶりに堀先輩の顔が見られてよかったです」
「うん」
そう言ってもらえると悪い気はしない。
朝の時点とは違っていまはもう集まれてよかったと思っているから尚更気分はよくなる。
ちょろいだけかもしれないけどね、逆張り的なことをしていくよりはいいよね。
「中学生のときはほとんどと言っていいほど一緒にいられなかったのでできればこういう機会が増えればいいと思っています」
「連絡をしてくれれば大丈夫なときにいかせてもらうよ」
他の誰よりも暇人でろくに友達もいないから集まるのは容易だ。
毎回お金を使うことにならなければ毎日集まったっていい、どうせ外にいるのだから部活の時間だって余裕で待てる。
「集まるなら私の方からいきます」
「そう? じゃあいつでも言ってね」
「はい」
気になるお店を見つけて大室君を連れていった茜音ちゃんも戻ってきた。
これ以上は見て回らないみたいだから家に向かって歩き始める、まずは場所的にも市毛さんの番だ。
「まだ解散は寂しいので上がっていきませんか?」
「お邪魔します!」
速攻で乗っかった茜音ちゃんに腕を掴まれているから強制的に上がることになってしまった。
まあ、女の子の家だからあまり上がるべきではないとかそういう抵抗をするタイプでもないから問題はないけども。
「どうぞ」
「ありがとう」
飲み物をわざわざ買うタイプでもないから提供してもらえるのはありがたい。
烏龍茶か、僕の家では麦茶ばかりだからレアな感じがしてより美味しく感じる。
ほとんど母がいってくれているとはいえ、僕も買い物をするときはあるから烏龍茶や他のお茶なんかを買ってみるのもありかもしれない。
「おい茜音、ボロボロこぼれているぞ」
「あ……これは恥ずかしいところを見られてしまいました」
お兄ちゃんかな?
「あと市毛はなんでそんなに離れたところにいるんだ、こっちに戻ってこいよ」
「わかりました」
三人分ぐらいの距離しかなかったのに寂しがり屋なのかもしれない。
彼は満足したかのように二回頷いてから最後はこちらを見てきた、別に悪いことはしていないから見つめていると「堀はこっちな」と移動させられた。
茜音ちゃんと市毛さんの間に配置されてもなにかが発生したりはしない。
「で、俺はソファを一人で独占だ」
「えーずるいじゃないですか」
「茜音は元々座っていなかったんだからいいだろ? 市毛だって敢えて床に座っていたんだから誰かが使わないともったいない」
「堀先輩は座っていました」
「細かいことはどうでもいいんだよ、さ、俺は見ておくから盛り上がってくれ」
やはり怖くなったのは勘違いではなかったか、なんてね。
とりあえず変な感じがするから彼の両隣に彼女達を配置しておいた。
僕は窓の前に座らせてもらって外を見つめる、うん、なんにもなくても本当に落ち着ける。
「これだと良二先輩が後輩の女の子を侍らせているみたいですね?」
後輩の女の子ばかりなのもイケない雰囲気を漂わせる。
彼がそういう意味でも怖い存在だったのならここはすぐにでも危ない場所になることだろう。
あ、イケないのは自分か、最近は妄想が捗りすぎて困る。
「おま、別になにも悪いことはしていないからな」
「昔もこんなことをしていました、そのときは同級生の人が相手でしたけど」
男の子とはよくいたけど女の子と盛り上がっていたことは少なかったから僕の知らない彼もいるということか。
「うわー」
「市毛も乗っかるなよ。あといつの話、というかどこの世界の俺の話だよ」
「冗談です」
「真顔で言われると怖いからやめろ」
僕だけではなかったみたいで本当に微妙そうな顔をしていた。
抑え込んでいるだけならもったいないし出ないのなら気になるしはっきりしてもらいたいところだ。
だけど冗談なのかそうではないのかわからないことを言うのは変わっていないようで安心、はできない。
「そもそも良二先輩と沙美ちゃんが怪しくないですか?」
「茜音は知っているだろ」
「それはそうですけどいまは変わっているかもしれないじゃないですか」
「と言っているけど市毛的にどうなんだ?」
「そうですね、大室先輩は堀先輩の次にいい人ですね」
これは冗談ではないとすぐにわかった。
「きゃーっ、良二先輩次第で逆転なんかもありえるかもしれないってことじゃないですか!」
「なんでそんなにハイテンションなんだよ……」
「そんなの可能性が出てきたからです!」
「茜音は市毛のことを聞いたときにライバルとかなんとか言っていただろ?」
「ああ、だけど私は翔君のことがそういう意味で好きなわけじゃありませんから、あくまで私よりも翔君のことを知っている人がいたら悔しいというだけですから」
またこの話に戻ってきてしまった、何百回聞かれようと同じ答えが返ってくるのに疲れるだけだ――って、初回のときに彼がいたわけではないから仕方がないのか。
「だったら誰よりもそいつのことを知りたいなんて思わないだろ」
「そうですかねー?」
「うわこわ……」
「えーなんでですかー」
なにもない方がいい。
それに関しては市毛さんも同じだった。
「興味を持つのは普通だよね?」
「そうだね」
「だからなにも矛盾はしていないんだよ」
油断しているとすぐにこれがやってくるからもっと家から出ておくべきかもしれない。
「なんの話ー?」
「あ、お母さん、他の誰かに負けたくないけどそういうつもりでは翔君のことが好きじゃないという話だよ」
「あるあるーって、ある?」
「あるよ、お母さんだって思い返せばそういうことがあるはずだよ」
「うーん、ないかな、好きな人ができたときに負けたくないとは思ったけど」
まあ、拘るところが人によって違うからわかりあえないときもあるということだろう。
この件に関しては変だと感じている方だからできれば思っていても出さないでくれるとありがたい。
だって出される度に無駄に振られることになるからだ、そのつもりはなくても嬉々として振られたい人間はいないはずだ。
「それって最初のお父さんの話?」
別に浮気とかでどこかにいってしまったわけではないから出すのも普通か。
「ううん、別の人」
「えー」
「幼稚園や保育園の頃から一緒にいて運命の相手だった、なんていうのは漫画とかの中だけの話だよ」
「流石にそこまでは求めていないけど一途であってほしいんだよ」
「それは茜音ちゃんがやればいいねっと、よし、できたから運んで食べよう」
ご飯を食べている最中もどこか納得がいないといったような顔をしていた彼女だった。
この件に関しても意見を求められたところでどうにもしてあげられないから味わって食べて洗い物を始める、こうして誰かがやらなければいけないことをしていればそのときにはなにも言われないから救いだ。
お風呂の順番は前にも言ったように最後にしてもらっているから終わったら外に出た、とはいえもう時間も時間だから離れたりはしないけど。
「こんなところでどうしたんだ?」
「あ、おかえり。これは趣味だから外にいるだけだよ」
「ただいま。それならいいけどさ」
何故か中に入らずに隣に座ってきたから今度はこちらが聞かせてもらうと「たまにはな」と返された。
「もしかしていまになってやりづらくなったとかじゃないよな?」
「全くそんなことはないよ」
少なくともあの変な話題にならなければ茜音ちゃんとは上手くやれている、母とは全く気にせずに協力できているわけだから不満はほとんどない。
それに僕の方が無理でも僕以外の人達が上手くやれていればそれで十分だった、必要とあれば最初に考えていたようにほとんど家を空けることでなんとかすればいい。
「大して説明もせずに急だったもんなあ」
「父さんには仕事があったしそれに僕が外にばかりいたからでしょ? だから仕方がないよ」
「いやそれでも時間はあったのに直前までほとんど言っていなかったんだからさ」
「気にしないで大丈夫だから、だから父さんは母さんや茜音ちゃんのことを気にしてあげて」
「昔から翔はそうだよな、周りのことばかりを気にしているんだ」
いやいや、大室君にすらふらふら人間とか言われる僕が気にしているわけがないだろう。
当たり前だけど仕事で疲れているのか、倒れられたら困るから中まで連れていくことにした。
本当のところは入りづらかったとかでも役に立てた形になる。
「あ、もしもし?」
「いきなりすみません、それで私の家にお財布を忘れていったみたいなのでお電話をかけさせてもらったんです」
「あ、そうだったの? ん-お金を無駄に使わずに済むから今度集まるときまでそのままでいいかな?」
「いまからいきます」
え、あれ、全く聞いてくれていないぞ。
それにもう時間も遅いから少なくともこっちに来させることなんかはできない。
「このままだと私の方が気になって授業や部活動なんかにも集中できなくなりそうなのでいきます」
「わかったわかった、それならいまからいくから待ってて。いい? 絶対に出たら駄目だからね?」
「わかりました、それでは大人しく家で待っています」
とかなんとか慌てたような対応をしつつラッキーと感じている自分もいた。
これでこの時間からでも離れることができる、茜音ちゃんとの時間を極力自然な形で減らせるのであれば大歓迎だ。
リビングで盛り上がっていた三人にちゃんと説明をしてから出ても特に引き留められなかったからテンションは高まっていた。
「着いたよ、と――早いね」
「はい、お待たせするわけにもいきませんから。それとこれです」
「ありがとう」
一応お金が入っているから失くしたとかではなくてよかったと思う。
今度はぽとっと落ちてしまわないようにポケットにしまわずに手で持っておくことにした。
「あの、そこでいいので少しお話ししたいんですけど大丈夫ですか?」
「いいよ」
「いま飲み物を持ってくるので待っていてください」
律儀だなあ。
座ってなんとなく外灯を見ていると「お待たせしました」とすぐに戻ってきてくれた。
あといま気が付いたけど既に入浴済みみたいだ、湯冷めしないか心配になるけど積極的に中に戻らせようとすると意地を張って残ろうとしそうだからやめておく。
「これ、肩にでも掛けておきなよ」
「え?」
「いらないならいいけど」
保険をかけようとするのがダサいね。
「いえ、ありがとうございます」と受け入れてくれてまだ助かった。
「茜音さんが羨ましいです」
「友達だってできやすいし確かに明るいとなにかと得だよね」
一気に距離を詰められても受け入れられてしまう能力も持っている。
ただもしあれがあの子的に一気に詰めているわけではなくて少しずつやっているだけなのだとしたらもう同じ次元にはいられていないから益々怖い存在となるわけだ。
そうでなくても現時点で圧倒されてかけているからできれば一気タイプの方がよかった。
「堀先輩といられるからです」
「なにをそんなに気に入っているんだか、僕なんてふらふらしているだけだよ」
これは卒業式の日に初めてまともに向き合ったときにも言った。
「そこが自由な感じがしていいんです」
そしてこれをあの日に彼女も返してきた。
どこかで女の子は少し駄目な男を気にしやすい的なことを見たことがあったけど実際にいたことになるのか?
でも、ぐいぐい引っ張っていけるようなところもないから本当に意味がわからない。
「違う高校を選択してしまったことを後悔しています、それでも私はやっぱり諦められません」
「茜音ちゃんのあの言葉を気にしているんだとしたら無駄でしかないからね?」
「茜音さんは関係しているようで関係していませんから」
「冗談……のわけがないか」
「はい、たまにふざけたりもしますけどこういうことに関して冗談は言いませんよ」
財布のことはあくまでおまけで最初からこれが言いたかっただけか。
まあ? 僕が後輩の女の子に積極的にアピールをしているよりは――いやだからと敢えて僕にするのは意味がわからないけど損でもないし八つ当たりをしたりしてこないのであれば別にいいか。
とにかく最後まで僕らしくやることが大事だ。
「わかった」
「そうですか、ありがとうございます」
「うん、だけどこれ以上は怒られそうだから帰るよ」
「はい、また集まれる日を楽しみに待っておきます」
それこそ気があるなら来いとでも言ってくれればいくけどね。
平日でも休日でも、やっぱり予定もなく暇人だから呼んでもらった方がありがたいのだ。
最近は外にいることも減っているのはそういうところからもきている。
だから飽きたらどこかにいってくれてもいいけどその気にさせてから離れることだけはやめてほしいと矛盾している自分がいた。




