03
「へえ、割と近いところに住んでいたんだな」
「はい、だけどそれまでは全く知らなかったので顔を合わせるまでは緊張していました」
僕は相手の人に娘さんがいると聞いたときにこの父親は大丈夫か? と心配になったぐらいだった。
母、尚子さんが困っていたのと好きになったから放っておけなかったとは言っていたけど結局それは親同士だけの話だけであって娘さんには関係がなかったからだ。
「そりゃそうだろうな」
「でも、翔君は想像していた人とは全く違っていてよかったです」
「ん? どういう人間だと想像していたんだ?」
「そうですね、『ぐへへ、可愛い子だな』とか言ってくるかと思っていました」
はは、だけど自分に自信があるのはいいことではないだろうか。
「はは、堀がそんなことを言うわけがないな、それどころか放置してどこかにいく人間だぞ」
「実際にそうでした、それでも頼めば付き合ってくれるのでありがたいですけどね」
「遠慮をしないでちゃんと言うんだぞ」
「はい、そもそも私は欲望に正直な人間なので我慢ができませんからね」
それでもある程度の仲にならなければ母にしていたみたいにはしないだろうからまだ本当のところはわからないということだ。
本気を出したらどうなるのか、それを一番に体験することになるのは誰なのか。
「ところで今日は新情報をくれないんですか?」
「ん-あ、堀は気づいていなかったけど一人の女子から興味を持たれていたんだ。流石に見ていられなかったから堀本人にも遠回しに言ってみたけど駄目だったな」
だって休み時間は突っ伏しているだけだし自分から話しかけるわけでもないし放課後は部活動があって全く関われていなかったからありえないと思ったのだ。
僕みたいな人間が簡単に気に入ることはあっても逆はないはずだった、だけど卒業式の日に泣かれてしまって流石に影響もゼロというわけにはいかなかった。
「い、いまはどうなっているのっ?」
「一応卒業式の日に連絡先を交換したけどたまにしかやり取りをしていないよ」
離れれば本当のところはすぐにわかる。
だから僕の前で泣いてしまったことを後悔しているんじゃないかな、多分そうでもなければもっと連絡を送ってきているだろう。
自分にとっての本物と出会ってどうでもよくなったか、できるならその方がいいかな。
「お、それでもやり取りはしているのか」
「うん、どこかおすすめの場所はないか聞かれたから僕の好きな川が見られる場所を教えておいた」
「それ、堀といきたいんじゃないのか?」
「たとえそうだとしても直接言ってくれないとね」
「とまあこんな感じで、これから堀を好きになる人間はきっと大変になるだろうよ」
えぇ、僕でなくたってそういう判断をするだろう。
勝手にわかった気になってそのつもりで行動なんかしない、妄想的なことはしてもだ。
「会ってみたい」
「俺の友達の友達だから呼ぼうと思えば呼べるぞ」
「お願いします」
「はは、誰にでも興味を持つんだな、その全てに堀が関わっているとしてもさ」
友達の友達が最強カードすぎる……。
あ、だけどこれはあくまで彼女が会えればいいわけだから僕がいる必要はないのか。
やり取りをしていても最後のことを思い出して引っかかるから二人で会ってもらいたいところだ。
「可能なら今日の放課後――あ、部活をやっているんだっけか? それなら無理か」
「あ、そうでした。それなら日曜日はどうですか? 逃げられないように翔君は私が捕まえておくのでその点は安心してください」
「お、おう、堀も大変だな」
「はは、なんでですかー?」
「い、いや、そろそろ戻るよ」
逃げるのはなしということで僕が彼を捕まえることになった。
よかった点は連絡先を知っているからと僕に頼んできたりはしなかったことだ。
なんでも受け入れるわけではないことを知っていたからこそかもしれないけど彼はいい判断をしてくれた、流石の僕でもここで変に頼まれていたら逃げていたから。
日曜日の約束すらもなかったことにしたかったものの結局言い出せずにマイペースに生きていたらそのときはあっという間にきてしまった。
もう避けられないからいつでも出かけられるように荷物をまとめて待っていると「確保ー」と捕まった。
「逃げないから手を掴むのはやめてほしいかな」
「それなら腕にするね」
腕なら腕で言うことを聞かない駄目人間みたいで嫌だけどどうしても離すことはしないみたいだから諦めるしかなさそうだ。
そのまま大室君の家までいって大丈夫みたいだったのであの子の高校近くのコンビニまで移動することになった。
「わくわく、どんな人なのか気になるよ」
「静かだな、だからそういう点では堀に似ている。あと意外と思うかもしれないけど茜音と同じで一年で後輩なんだ」
ひぇ、え、実は裏でこそこそ会っていて仲を深めていたということなのだろうか? それともただの陽キャラ人間同士というだけ? さらっと名前で呼んでいて怖い。
「こ、後輩さんだったの!?」
「なんでそんなにハイテンションなんだ?」
「これはいよいよライバルの登場だよ、そして理解度で言えばその子の方が上なんだから困るよ」
「いやだから実際はほとんど堀が意識を向けていなかったから変わらないぞ」
そうそう、それにいまはそんなことよりもしれっと名前で呼んでいることを説明してほしい。
これで彼女まで名前で呼び始めたら妄想してくださいと言っているようなものだ、だから妄想されたくないのならちゃんとね。
「お待たせしました」
「いきなり呼び出して悪かったな」
「いえ、気にしないでください。私は市毛沙美と言います、よろしくお願いします」
変わっていないな。
できれば僕はこのまま空気的な存在でいたい、が、休日に集まっているからそうもいかない。
茜音ちゃんと市毛さんが普段部活をやっていなかったら放課後に集まってそう時間も経過しない内に解散に、なんてこともできたけどそれは望めないのだ。
「わ、私は堀茜音だよ、同い年みたいだから敬語とかいいよ」
「そうなんですか? それでも私は誰にでも敬語を使うのでこれで許してください」
「あ、いやー……どう喋るのかは個人の自由なんだから謝る必要なんかないよ」
「市毛、茜音は堀の義理の妹なんだ」
わかった、茜音ちゃんに対して名前呼びに変えたのは紛らわしいからか。
でも、それなら僕のことを名前で呼べば――なんて、ふらふら野郎と女の子なら誰でも後者を選ぶか。
「え」
「はは、市毛でもそんな顔をするのか」
「ふぅ、そんなことがあるんですね」
「そうみたいだな。で、今日は来てもらった側だから市毛に合わせる、どこかいきたいところはないか?」
本当に彼がいてくれてよかった。
中学生のときもそうだった、あの頃もリーダーみたいな感じだったな。
「特にはないですね、みなさんはいきたいところとかないんですか?」
「はい、私は甘い物が食べたいです!」
うん、彼女もすごい、全く矛盾していない。
リーダー的な存在と気にせずに自分の意見を出せる組み合わせは最強だ。
「それならなにか甘い物が食べられるところを探すか」
「あの、その前に少し堀先輩と話したいことがあるんですけどいいですか?」
まあ……なにも言わないまま解散まで持っていけるとは思っていなかったから驚きはない。
ただこれだと二人きりになりそうだし二人きりになったところでどうするの? という話ではある。
そんなに聞かれたくないのであればスマホのツールを利用すればいいのにそれだってほとんどは触れずにいるから変だ。
「おう――茜音は捕まえておくから二人でゆっくり話してこい」
表情がほとんど変わらないと怖い。
これならまだ不満でいっぱいで怒ってくれてもいいから変えてほしいと思う。
「えっと」
「さっきの子の漢字ならこうだよ」
「茜音さんとの生活はどうですか?」
「あの子の適応力が高いから特に問題もなくやれているかな、市毛さんは高校で上手くやれているの?」
まだ六月にもなっていないから入学したばかりと言ってもおかしくはない時期、それに同じ学校に大室君達はいないわけだからなにも気にならないわけではないだろう。
「友達は二人できました、大室先輩達がいなかったらなにもできなかったあの頃とはもう違います」
「そっか」
それでもなんとか変えていくしかないから市毛さんは正しい。
「今更ですけど違う高校を選んだ理由は堀先輩とは無理そうだったからです」
「え、そんなもったいない理由からなの?」
「はい」
マジか……つまり僕のせいで大室君達と離れることになったと、そういうことだよね?
だからって好意をちゃんとした物だと受け取って勘違いをすることなんかはできなかったけど存在していたばかりにこんなことになったのだ。
「謝ってもどうにかなることじゃないけどごめん」
「どうして堀先輩が――」
「とぉーっ、あ、あー……勢い余って突っ込みそうになっちゃったよー」
これ以上は広げてもどちらにとっても得はなかったから助かった。
これがただ単に我慢ができなかったからでも関係ない、ありがたいから甘い物のお金ぐらいは払わせてもらおうと思う。
ちなみに「どんなパワーをしているんだ……俺でも止められなかったぞ」と彼は一人悔しそうだったからここでもすぐに変える必要があった。
「甘くて美味しい!」
「そうですね」
「あ、あのさ、こっちの味をちょっとあげるから沙美ちゃんの方の味も食べてみたいなーって」
いいね、女の子同士ならすぐに名前で呼び合ったところで全く不自然ではない、表面上だけだったとしても癒されるものだ。
「いいですよ、どうぞ」
「え、大胆っ、い、いただきます――美味しい!」
「もう無敵だな、堀にも見習ってほしいところだ」
「美味しい!」
「せめて笑えよ……」
そうそう、彼が僕に対して呆れたような顔をしていることもいまに始まったことではない。
や、本当にとげとげしていなかったらそこまで残念な記憶能力というわけでもないしすぐに出てきて「もしかして大室君!?」とヒロインみたいな反応をしていたはずなのだ。
「なんで君はそんなに変わっちゃったの」
「あの頃と大して変わっていないだろ」
「でも、怖くなったよ?」
「はあ? そんなこと友達にも言われないけどな」
「それは優しいからだね、だけど僕はちゃんと伝えることで優しさを見せていくのです」
「やっぱり堀は変わったな」
そうでもない、僕は僕でしかない。
変わってしまったから周りもそう見えてしまうだけだった。




