02
「翔君、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「うん、おつかいでもなんでも任せてよ」
ぼうっとするにしても誰かの役に立ててからの方が気持ちよくできる、だからなんでも頼んでほしかった。
「私の代わりに茜音ちゃんと一緒にお店にいってあげてほしいんだ」
「僕はいいけど茜音ちゃんは大丈夫なの?」
「ちょっと拗ねているけど大丈夫だよ、それじゃあお願いね」
拗ねているのに大丈夫とは?
とりあえず本人から話を聞くために一階にいくと今度はソファに張り付いた茜音ちゃんがいた。
僕が悪いことをしたわけではないから普通に声をかけると「聞いてよ翔君!」と興奮気味の彼女。
「絶対に一緒にいってよって言ってお母さんも『わかった』って受け入れてくれていたのにこれだよ!」
「僕でも大丈夫?」
「え? ああ、届いている商品を受け取りにいくだけだからね」
「それならいこうか、今日は天気もよくないからね」
「本当に翔君がいてくれてよかったよ、一人だったらまたどこかに張り付きかねなかったから」
僕の方ははっきりと断られなくてよかったというところだ。
あまりにも真っすぐにやられていたら外に逃げて雨が降ることを願っていたぐらい。
「もう既に張り付いていたけどねー」
「もうお母さん!」
「仕方がないでしょー急に出てくれって頼まれたんだから」
「あ、そうなんだ、頑張ってね」
学生だから無縁なだけでやっぱりそういうことはあるらしい。
僕だったらそれなら最初から働く日だった方がよかった、休みなのに出なければならないとなると心理的にも微妙だから。
「ありがとう翔君っ、逆に茜音ちゃんは昔と違って可愛くなくなっちゃったなあ」
「べー」
「あら。はは、とにかく気を付けていってきなさい」
「急にお母さんぶっても無駄だからっ、翔君いこう!」
まあまだ構ってもらいたい年齢ということなのだろう。
「う-……なんかもやもやする」
「わかっているからこそだよね」
「うん、だけどどうしても約束を破られたってところに意識がいっちゃって……」
「難しいよね」
愛想笑いを浮かべて納得できていないのに「仕方がないよ」などと言うよりも健全ではないだろうか。
結局出してもらえなければ相手はわからないから、そういうすれ違いは大爆発に繋がるから母的にも安心できると思う。
「ジェラート……」
「食べる?」
「食べたい!」
少し並んでいたけどそう時間もかからずに欲しい物を買えた。
冷たくて美味しい、これが夏だったらもっとよかっただろうな。
「今度は絶対にお母さんといく! だけど今日はもう切り替えるよ」
「うん」
近いところにお店があって目当ての商品もすぐに受け取れていた。
もうわかりやすくにこにこになっていまにも踊り出しそうなぐらいだけどこれからどうするのだろうか。
「翔君ってこれからなにか予定があったりする?」
「特にはないかな、一人の時間ができたらまたふらふらしようと思っていたけどまだどこかにいきたいなら付き合うよ」
千円ぐらいで済むならお金がかかるところでも構わない。
休日にわざわざお昼ご飯を作って食べたり、出て食べたりはしないけど食べたいなら飲食店にいってもよかった。
「私も翔君もここら辺のことを知らないわけじゃないし……これもずっと持っておくのはあれだし……」
「無理はしなくていいよ」
「だけどお母さんもお仕事にいっちゃったから解散にしちゃったら一人でしょ? それはそれで嫌だな」
だったら友達を誘うのはどうだろうか、って、そもそも部活は大丈夫なのだろうか?
「そういえば今更だけど部活は大丈夫なの?」
「うん、今日はお休みだから、流石に高校生にもなって所属しているのにサボったりしないよ」
「それなら友達を誘うのもいいかもしれないね」
こちらのことを警戒していたあの子と遊べばいい、男の子がいるなら男の子でもいい。
「その場合は翔君もいてくれる?」
「え、その場合は僕がいる必要はないんじゃないかな」
流石にそこまで空気が読めない存在ではなかった。
まあ、僕らしく生きているだけで何回かは空気が読めないと言われたことがあるけど協調性はこれでもあるつもりで大事になったことはなかったから。
「じゃあ誘わない。まだ決まらないけど歩いてみようよ」
「わ、わかった」
少しだけ意地を張りたくなるお年頃なのかなあ、と。
付き合うと言ったのはこちらだから色々なところを見つつ歩いていると急にぐいっと引っ張られた。
同行人の茜音ちゃんかと思えばそうではなく知らない男の子で一気に心臓が活動的になる。
「やっぱり堀だ、あれだけマイペースだったくせに彼女ができているとはな」
「あー……えっと?」
だ、誰だ、こんなに怖そうな子と関わったことはなかったけどな。
「は? まさか俺のことを忘れたとか言わないよな? うわ……大室だよ、大室良二《大室りょうじ》。中学のときは同じ部活だっただろうが」
「あ、あーえ、なんか凄く変わっちゃったね?」
「あーだけど金髪とかになっているわけじゃないのに堀ときたら……」
いやだってなんか異様にツンツンしているから驚いたのだ。
あとは彼女ではないこともちゃんと説明しておいた、再婚したことについては彼も驚いていたけど。
「スマホを持っているか? 連絡先を交換しようぜ」
「うん」
「私ともお願いします」
早速きたみたいだ?
「お、おう、え、逆にいいのか?」
あまりにも自然すぎて僕の父みたいな反応になっている。
まだ慣れていないみたいであーとかえーとか言うことが増えているところだ。
「はい、よろしくお願いします」
「わ、わかった」
交換できたら物凄くいい笑みを浮かべて「ありがとうございます」と言った彼女、対する僕はと言うと何故か彼に腕を掴まれ離されることになった。
もしかしていまので惚れてしまったとか? もしそうならどちらもちょろいというかなんというか……。
「堀の義理の妹は怖いな、なにが狙いなんだ?」
「僕が迷惑をかけないように、とか?」
コントロールとまではいかなくても低頻度でも話を聞くことで安心したいのかもしれない。
明らかに僕よりもしっかり者だからね、中途半端にやるのが気に入らないんじゃないかな。
「違うよ、この人に聞けば翔君の過去のことがわかるからだよ」
えぇ、なんでそんなに非効率なことを。
それに部活動が一緒で喋ったことも何回かはあるけど仲良しというわけでもなかったのだから僕のことを大して知らないだろう、僕だって彼のことをあまりわかっていないから教えてあげることができない。
「直接聞いてくれれば答えるよ?」
「意外と本人からだと偏ってしまうかもしれないからね。ということで大室さん、特に予定がないのなら一緒に来てください」
「堀、いいのか?」
「大室君が大丈夫なら来てほしいかな、そうすれば茜音ちゃんも満足できると思うから」
「わかった、じゃあ付いていくよ」
惜しいのは彼が同じ高校に通っているわけではない――いや今日は制服を着ているわけではないから確認をしてみたら普通に同じ高校で「酷いな」と言われてしまって愛想笑いをすることになった。
「まあ、俺も高校の部活が結構きつくて休み時間は寝てばかりもいたから堀が悪いわけじゃないか」
「これからは私達の方からいきます、なので相手をしてください」
「おう」
それで途中辺りから二人を包む雰囲気が甘々なものになって僕だけが一人違うところでふらふらしていることが多くなりそうだ、元々そういう生き方をしてきているから変わらないと言えば変わらないけど。
「あーいきなりで悪いんだけど飲食店にでもいかないか? 実は探しているところだったんだ」
「僕は大丈夫だよ」
「私も大丈夫です」
「よし、じゃあ……あ、そこでいいか」
安めのお店で助かった。
基本的に残る物に使いたいからお高めなところだと少しアレだ。
もちろん、受け入れたからにはたとえ高かったとしてもなにも言わずに付いていくけど内側との差はできていたからありがたい。
「それで中学生の翔君はどんな感じでした?」
「堀はふらふらしていたな、よく顧問にも『そっちじゃないぞー』って言われていた」
「ははは、いまは誰にも止められないだけで変わらないんだね」
「それでも切り替えは上手かったな」
「おお、もっと聞かせてください」
強制的にでも所属したからには真面目にやらなければならないからだ。
部活動をやりながらでもぼうっとしていられる時間は沢山あったから不満はほとんどなかった、だから前にも言った通り先輩の教室に何回もいかなければならなかったことぐらいかな。
「ちなみに俺の友達からは不思議君って言われていたぞ」
「あーあったね、だけど大室君の友達も優しくてね」
段々と思い出してきた、というかいまと比べてあの頃はと考えることがなかったからこうなっているだけだ。
「それは覚えているのか」
「うん、みんなで部活が終わった後に集まってこうして飲食店にいったこともあったよね」
邪魔をしても悪いからと断ろうとしたところで止めてきたのも彼だった。
すぐに大室君だと出てこなくて申し訳ないけどあの頃はよく助けられていたんだなあ。
「ああ、そのときは友達が馬鹿やって変なミックスジュースを作ってな、みんなでなんとか頑張ることで残さずに済んだんだ。まあ、ほとんどは堀の頑張りだったけど」
「あれ、美味しかったけどね」
遠慮をしていたのか最後まで回ってこなかったから飲んだのはほんの少しだけだった。
でも、みんなが不味い不味いと微妙な顔をしながら言っていたのに全くそんなことはなくて、なんならおかわりをしてもいいぐらいだった。
「マジかよ……俺が飲まされたときは地獄みたいな味だったぞ」
「いま再現して私も飲んでみたいです」
「やめておけ、というか本当に義理の兄妹か? 似すぎだろ……」
僕らは似ているらしい。
ただ彼女の場合は好奇心が旺盛なだけだと片付けられるわけだし似ているとは思えなかった。
「うーん……今日のところは大した収穫はなしだなあ。でも、もっと仲良くなればもっとレアな話を聞かせてもらえるかもしれないから頑張るしかないね」
「大室君のことを知ろうとはしないの?」
「大室さんのことも知りたいけど主なのは翔君のことかな、お母さんにも話せるからね」
うん、もう自由にやってもらえばいいか。
ある程度外で時間をつぶせたことで解散にしてきたから一人の時間ができた。
何度も言うけど別に家は嫌いではない、が、外にいることが大好きすぎるからいい場所を探す。
天候的にも急に雨が降ってきたときにも対応できるように屋根があるところを選択、早速とばかりにぼへーとする。
「ふぅ、やっと落ち着く時間になったな」
「あれ、付いてきていたんだ」
「おうよ。横座るぞ」
こちらは思い出話よりもいまは茜音ちゃんのことでいっぱいかな。
とはいえ、やはりここに関しても言えることが全くないと言ってもいいから役には立てなさそうだ。
「そうか、再婚をすることになっても転校をしたわけじゃないからこそなのか」
「切り替えが上手いみたいだよ」
「ならそういうところでも似ているな」
「そうかな」
だったらこれから全く違うところを茜音ちゃんには見せていってほしいな。
ぼうっとしてばかりの人間と似ている似ていると言われても嬉しいどころかむかつくだけだろうし自分を守るためには頑張るしかない。
「だけど昔の堀とはどこか変わった感じがするよ、はは、それとも異性だから優先しているのか? 俺のときはあんまり付いてきてくれなかったよな」
「嫌じゃなかったけど大室君とはいつも友達が一緒にいたからね」
二人きりの場合と違って帰ることも大変になりそうだったから仕方がない。
いまはまだ慣れていない茜音ちゃんのためになるべく付き合っているだけ、頼られることもなくなればそれだけ昔の僕に戻っていく。
誰かと一緒にいられている時間も好きだけど僕にはそれがいいのだ。
「あの頃は細かく聞かなかったけど気にする奴だったのか」
「そりゃあ僕でも気になるよ」
「だったら今度からは二人でどこかにいこう」
「はは、僕相手によくそんなことが言えるね」
そうか、これも意地になってしまっているからか。
どうにか茜音ちゃんも連れてきてそちらか友達に意識がいくようにしたい。
「俺は友達だと思っているからな」
「そうなんだ?」
「ま、堀自身から友達だと言ってもらえるように頑張るよ」
友達として仲良くしてくれればいいのだ、それなら全く難しいことではないから僕の願いが無駄になることはない。
だからこの再会もいい方に傾く理由の一つになりそうだった。




