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「わあ、すごい人の数だ」
「ここ、こんなに人気でしたっけ?」
「あ、僕はこれまでいったことがなかったからわからなかったんだけど沙美がそう言うってことは普段とは違うんだね?」
まあ、お祭りなのに人が一人や二人しかいない状態よりも楽しみやすいからいいか。
だけどちゃんと意識を向けておかないと距離ができてしまいそうだからここはもう手を握ってしまうことにした。
「大室先輩に誘われたりしなかったんですか?」
「うん、お祭りに関しては誘われたりしなかった――あいた……」
いきなり後ろから攻撃を仕掛けられるとは思っていなかった。
離してくれたから振り返ってみると少し怖い顔で「俺は誘っただろ、それなのに祭りにだけは絶対に参加しなかったのが堀だろ」と攻撃者が説明してくれた。
「え、翔君はお祭りが嫌いだったの?」
「の、残る物にお金を使いたかったんだ、あとはちょっとあの頃は…………にはまっていてね」
もう買わなくなったけどいまだってちゃんと残してあっていい思い出だった。
そう考えるとただぼうっとしている変な人間ではなくてちゃんとした子どもらしい趣味があったんだなあとなんかほわっとした。
「ん? 聞こえなかった」
「か、カードをさ……対戦相手はいなかったけどさ……」
レアカードを当てられたときは一人で興奮していたぐらい。
「あー男の子ってああいうの好きだよね。でも、それはあくまで他の男の子の話で翔君は昔からふらふらしていたんだと思っていたけど違うんだね?」
「うん、あ、ふらふらすることも好きだったけどね、父さんも細かくは言ってこなかったから」
「そんな翔君が女の子に興味を持つなんてねえ」
確かに、あの頃の僕に言っても信じてはくれないだろうな。
嘘をつくのが嫌いだったからもう話を聞いてくれないかもしれない。
「いや、どこ目線からの発言だよ」
「妹目線だよ。さ、良二先輩は私を連れ出したんだからちゃんと食べ物を買ってください」
「まあ、それは約束だから守るけどさ。じゃ、二人ともまた後でな」
「うん」
全て四人で見て回れるとは考えていなかったもののここまで早く別れることになるとは思っていなかったから少しアレだった。
それでも沙美が残ってくれただけでも本当にありがたいからなにを買おうかと聞いたところでずんずんと歩き出して付いていくしかない。
「手を繋いだりはしていないみたいですね」
「あの二人、どこまで進んでいるんだろうね? あくまで先輩と後輩というだけなのかな?」
距離感がバグっているだけでそれっぽい話は一度も聞かない、大室君は隠さずに報告をしてくれているから勝手な妄想とはならない、そもそも隠したところでなにも意味がない話でしかない。
「はぁ……それはありえませんよ、茜音さんを見ればわかることですよね?」
「茜音ちゃんは後輩らしく甘えているだけじゃなくて?」
「ただ、多分本気になっているのは茜音さんだけですね」
まだ出会ったばかりで相手をしてくれるのであればいくらでも可能性は出てくる。
だからまずはお祭りを楽しめばいいのではないだろうか、友達として安心して一緒に盛り上がれるというのは大事だろう。
「少し前までの私ですね」
「結局アピールをされなければわからないままだよ、勝手にわかった気になるのも駄目だしね」
「そうですね」
「それよりなにか買って食べようよ」
ここに来たからにはなにも買わずに帰るなんて空気が読めないことはできない。
というかいまは昔みたいな感じではなくなっていると答えるのが正しいか。
「それならかき氷を買って食べます、結局今年はまだ食べられていませんからね」
「うん、そうしよう」
幸い、そこまで並ぶこともなく物をゲットできたからよかった。
前後だったのもあってすぐにまた二人でいられるのもいい。
「ねえ沙美、僕の少しあげるからそっちのくれない?」
「いいですよ、はいどうぞ」
「ありがとう。はい、沙美もどうぞ」
なんかこう……甘酸っぱいね。
「沙美、引かないんでほしいんだけどいまとなっては多分僕の方が沙美といたがっていると思う」
「それはそうですよ」
「え、まさかそういう反応をされるとは、自信があるんだね?」
僕はこの先、何度もすごいところを見せつけられると思う。
その度にこういう反応をして、なにも気にしていない彼女に呆れたような顔をされながらもそれはそうだと言われそうだ。
「違います、だって私は翔先輩といたいですからね」
「どういう……って、ああ、はは、そういうことか」
「ふふ、そうですよ」
「って、笑っている場合じゃないよ、怖いよ」
「勝手に怖がらないでください」
そう無茶を言わないでほしい。
とはいえ、これ以上重ねても情けないだけだから冷たい氷を食べることでなんとかした。
「嬉しいですよ、ただ特になにもできていないので変わったことに驚いています」
「それは影響度が違うからだよ、僕がいてもあんまり効果はないけど沙美がいてくれたら効果があるというだけだね」
「そうですか」
「うん、だからありがとう」
って、自分がお祭りをただ楽しめばいい的なことを考えていたのにこれってどうなのか。
や、まあ唐突すぎるわけでもないけど友達といくのは初めてのお祭りでそっち方面に頑張っているのは微妙だ、もちろん他の頑張ろうとしている人達には刺さらずに僕に刺さるだけだけど。
「嬉しいですけど物足りませんね、翔先輩は一緒にいられるだけで十分なんですか? 私はそうではありません、もし足りるのであればあの日の私も泣かずに済んだわけですが」
「スイッチが入っちゃった感じ?」
「はい、あの二人と合流する前になんとかしておきたかったんです、だからいきなり別れることになったのは私にとって好都合でした」
さっきみたいにこちらの手を掴んで歩き始める彼女、別に手に力がこもっているとかそういうのはないとしても迫力を感じるというかなんというか……。
「そもそも私はもう告白をしている状態でしたからね、催促はしたくなかったんですがもう我慢ができないんです。なのでどちらにしてもはっきりしてください、大丈夫です、たとえ断られても今日はお祭りがあって食べることでなんとかできますから」
「はは、断るならもう好きだと言われた時点で断っているよ」
そもそもその前の時点で一緒にいることを選んではいない。
「なんかこの流れで言うと微妙かもしれないけど沙美のこと好きだよ」
「そうですか」
「ちょ、ちょっとは笑ってもいいんじゃない? 沙美ってこっちに攻撃を仕掛けたときだけ笑っているから怖いんだよ」
とはいえ、いい笑みを浮かべられすぎても簡単に敗北するところしか想像できないのもあれだった、だから適度に、がいい。
「でも、意識すると不自然な感じになりますよね、えっと……これだと駄目ですよね?」
「うん、かなり無理をしている感じが伝わってくるよ」
「今度、笑顔になったときに触れてください」
「そうだね、自然に出てきたときが一番魅力的だからね」
「じゃあ――」
またこちらの手を掴んで歩き出そうとしたところで逆の手を掴まれてドキッとした。
彼女が攻め攻めな状態できているときよりもドキッとしたから夜というのはすごい。
「あ゛ぁ……堀、茜音には気を付けろ、目をつけられたら一瞬だぞ」
なんとか落ち着けたところで弱っている彼に近づいたらこれだった。
すぐ近くのところで「美味しー」と今日ももしゃもしゃしている茜音ちゃんだけが楽しそうだ。
「俺が金だけ奪われている間に堀達は進んだみたいだな。羨ましいよ、あとおめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます――え、見られていたんですか?」
「まあな、そうでもなければこのタイミングで近づけないだろ」
もっと長引いていたら彼の財布から全てのお金がなくなっていたかもしれないからあれぐらいでよかったのかもしれない。
妹だからと止めようとするのはお祭りのときには微妙だからこちらとしても助かった、究極的に悪いことをしているようなら雰囲気なんかに任せずに止めるべきだけど。
「大室先輩は最低です」
「ぐは……なんで金を奪われたうえに最低なんて言われなければならないんだ、それに元々は四人でって話だっただろ?」
「それはそうですけど最初は二人でいく約束でしたからね」
「受け入れたからにはこっちが最新の約束だろ。大丈夫だ、堀を取ったりはしないからそう警戒してくれるなよ」
実際のところはどこからかはわからないとしても見られていて恥ずかしかっただけだろう。
「とりあえず大室先輩は約束をしていたとしても一つか二つ茜音さんに買ってあげればいいんですよ、それなのにあの量はなんですか?」
「お、おう、それは市毛の言う通りだ、俺もなにをしているんだ……」
せっかくのお祭りが苦い思い出になってしまいそうだ。
なんとかしてあげたいけどなにもしないまま四人で集まっていられることの方が効果的な気がするから動くことはやめておく。
「んっ、ちょっと良二先輩っ、並んでいるときは『俺に任せろ!』って言ってくれていたのに後からそれはずるいよ!」
「本当ですか?」
「確かに最初はそうだった、だけど途中からはあれこれ並ぶから出すしかなかった……」
「うわっ、え、あ、あの、私が悪いわけじゃないんだからー!」
走っていってしまった。
夜ということと食べながらだと危ないから彼にいってもらうしかない。
「一人じゃ危ないです、なのでいってあげてください」
「おう、追うわ」
っと、これだと優しくしてくれていた相手を遠ざけようとしていて微妙だ。
それでも結局は色々と言い訳をして追わないのだから意味はない。
「いまのは完全に八つ当たりでした、なので反省しています」
「はは、今度本人に言ってあげないとね」
「恥ずかしいのでこれで帰りませんか? もちろん、解散にはしませんが」
「いいよ、それなら沙美の家の前で話そうか」
「はい」
前と変わった点は手を繋いで夜に歩いているということだった。
手汗とかかきそうだと考えていたものの全くそういうこともなくて寧ろ落ち着けてこの時間が続いてほしいとすら思った。
だからといって家の前でも繋いだままなのはバカップルみたいになってしまうから離そうとしてできなかった。
つまりここでも運動部所属で鍛えられた握力が効果的に発動したことになる――なんてね。
「一歩関係が進んでその点で安心できたのはいいんですけど課題のことを思い出して微妙になりました、部活動があるときは厳しいですけどそうではないときは私が脱線しないように監視していてください」
「いいよ、だけど確か中学時代に大室君から沙美はそういうのもすぐに終わらせてしまうんだって聞いていたけど今年は違ったの?」
「どちらにしても夏で進めようとしていましたからね」
僕ももっとはっきりとしてあげればよかったか。
流石に任せすぎた、注意力が散漫のときは危ないことに繋がりやすいから一歩間違えたら僕のせいで酷いことになっていたというのに。
「そのことに集中しすぎて部活とかで怪我をしなくてよかったよ」
「それでも怪我とかをせずに済んだのは平日の夜も一緒にいられたからです、あれがなかったらどうなっていたんでしょうね」
「だったらこれからもいくよ、沙美には元気でいてもらいたいから」
「ふふ、お願いします」
「あ、それっ」
思わず立ち上がってしまった、そうしたらすぐに「私だって笑いますからね、誰かさんは変なことを言ってきますが」とちくりと言葉で刺されてしまい縮こまる羽目になった。
「そう小さくならないでください」
「うん」
「少し喉が渇いたので飲み物でも――そういうのは真正面からしてもらいたいものですが」
「ごめん、だけど沙美が勇気を出してくれたから僕も出そうと思ったんだ」
やっぱり僕が動いたらこれか、いまの行動で過去にしてきたことが正しかったことが証明されるのはありがたいけど複雑でしかない。
まあ、それにしてももっと上手くやれないものなのかという話だ……。
「後ろからなんて変態チックですね」
「や、やめてよ」
「『飲み物より僕を優先してよ』とか言ってもらいたいところですがそこまで期待をするのは間違っているのでやめておきます」
「うん、そうしてね……」
次は求められたときにだけすることにしよう。
いまは物凄く川を見て内側を落ち着かせたいところだったけど家の中にいこうとすることもやめて彼女がじっと見てきているところだったからできなかった。
また一緒にいるようになってからはこういうことばかりだから中学のときからちゃんと来てくれていたらもっと違う僕になっていたかもしれない。
「でも、この僕だから好きになってくれたんだよね」
「そうですよ、情けなかったり自由な翔先輩が好きなんです」
「はは、ありがとう」
いつかその情けないという言葉を言われなくて済むように頑張りたいと思った。
ただ今日ばかりは目の前の彼女に集中しておけばいいと片付けて切り替えたのだった。




