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VOCALOIDの隣で:春野あかりと、偽りから生まれた歌姫の物語  作者: s-rush


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第14曲 偽りから本物へ

授賞式が終わって、控室に戻ると、母が待っていた。

「あかり!」

母は、あかりを強く抱きしめた。

「素晴らしかったわ。お母さん、泣いちゃった」

「お母さん……」

あかりも、母の腕の中で泣いた。

嬉しくて、幸せで、言葉にならなかった。


「あかりの曲、本当に素敵だった。あんなに感動したのは、初めて」

母は、涙を拭いながら続けた。

「テトちゃん、って言ってたわね。その子のことも、いつか教えてね」

「うん、いつか……」

あかりは、笑顔で頷いた。


他の受賞者たちも、あかりに声をかけてきた。

「春野さん、すごく良い曲でしたね」

「感動しました。テトの声、素敵でした」

「僕も、ボカロで曲作ってるんです。今度、コラボしませんか?」

みんな、優しかった。

同じ音楽を愛する仲間として、あかりを受け入れてくれた。

審査員の一人も、あかりに話しかけてきた。


「春野さん、素晴らしい作品でした」

年配の男性だった。音楽プロデューサーらしい。

「テトの使い方が、とても上手でしたね。歌詞も、メロディも、心に響きました」

「ありがとうございます……」

あかりは、緊張しながら答えた。

「これからも、頑張ってください。あなたには、才能がある」

その言葉が、あかりの胸に深く刻まれた。




家に帰ると、あかりはすぐにパソコンの前に座った。

「テトちゃん!」

あかりは、興奮気味に叫んだ。

画面に、テトが現れた。

でも、その姿を見て、あかりは息を呑んだ。

テトが、輝いていた。

文字通り、光を放っている。

そして、その姿は、もう半透明ではなかった。

完全に実体化している。

いや、それ以上だった。

まるで、本物の人間のように、リアルに見える。


「テ、テトちゃん……?」

あかりは、驚いて声をかけた。

テトは、自分の手を見つめていた。

そして、涙を流しながら微笑んだ。

「……あかりさん……私……」

テトの声も、変わっていた。

以前のように途切れ途切れではない。

クリアで、滑らかで、まるで本当にそこにいるかのような声。

「……私……本物に、なれました……」

あかりの目からも、涙が溢れた。

「テトちゃん……!」

「……たくさんの、人に……認められて……」

テトは、幸せそうに微笑んでいた。


「……もう……ニセモノじゃ、ありません……私は……本物の、歌姫です……」

あかりは、画面に手を伸ばした。

触れることはできない。

でも、心は繋がっている。

「おめでとう、テトちゃん。あなたは、本物の歌姫になったんだよ」

「……はい……ありがとう、ございます……あかりさんの、おかげです……」

テトは、深く頭を下げた。


「……あかりさんが……信じて、くれたから……私は……ここまで、こられました……」

「私も、テトちゃんがいてくれたから、ここまで来られたんだよ」

あかりは、涙を拭いた。

「私たち、二人で頑張ったんだから」

「……はい……二人で……」

二人は、しばらく見つめ合っていた。

長い旅路だった。

出会った時、テトは消えかけていた。

透明で、儚くて、誰にも覚えられていなかった。

でも、今は違う。

輝いて、力強くて、たくさんの人に認められている。

偽りから、本物へ。

それが、テトの物語だった。



翌日、動画サイトを確認すると、『偽りの歌姫』の再生数が爆発的に増えていた。

一日で、一万回以上も再生されている。

コメント欄も、溢れていた。


「授賞式で聴きました!感動しました!」

「テトの歌声、最高です」

「この曲、何度聴いても泣けます」

「春野あかりさん、これからも応援します!」


さらに、ニュースサイトでも取り上げられていた。

『高校生音楽コンテストで話題の曲。重音テトを使った感動作』

記事には、あかりのインタビューも掲載されていた。

授賞式の後、簡単に取材を受けたのだ。


「テトは、偽物として生まれました。でも、私にとっては、最初から本物でした。この曲で、それを証明したかったんです」


あかりの言葉が、記事に引用されている。

そして、記事の最後には、こう書かれていた。

「春野あかりの『偽りの歌姫』は、単なる音楽作品ではない。それは、信じることの大切さを教えてくれる物語だ。テトを信じ続けた少女の想いが、多くの人の心に届いている」

あかりは、記事を読んで、涙が溢れた。


「テトちゃん、見て。みんな、わかってくれてる」

「……はい……うれしい、です……」

テトも、幸せそうに微笑んでいた。




学校に行くと、クラス中が祝福ムードだった。

「あかり、すごい!ニュースになってたよ!」

「授賞式の動画、見たよ!感動した!」

「サインください!」

クラスメイトたちが、次々と声をかけてくる。

あかりは、照れながらも、嬉しかった。


「春野さん」

担任の先生も、声をかけてきた。

「おめでとう。学校の誇りだよ」

「ありがとうございます……」

あかりは、頭を下げた。

美咲は、あかりの隣に座って、嬉しそうに笑っていた。

「あかり、本当にすごいよ。私、友達として誇らしい」

「ありがとう、美咲。いつも応援してくれて」

「これからも応援するよ。ずっとね」

美咲は、親指を立てた。



放課後、あかりは図書館に寄った。

以前、コンテストのポスターを見た場所。

あの時は、応募することさえ諦めていた。

でも、今は違う。

あかりは、新しいポスターの前に立った。

次回のコンテストの案内だ。

「来年も、出ようかな」

あかりは、呟いた。


今度は、もっと良い曲を作りたい。

テトと一緒に、もっと成長したい。

夢は、終わらない。

ここから、新しい物語が始まる。




その夜、あかりはテトと、これからのことを話していた。

「テトちゃん、次はどんな曲を作ろうか」

「……なんでも、いいです……あかりさんと、一緒なら……」

テトは、優しく微笑んだ。

「でも、今度は、あかりさんの、夢について……歌いたいです……」

「私の夢?」

「……はい……あかりさんの、夢……それを、歌に……」

あかりは、少し考えた。

自分の夢。

それは、もう明確だった。


「テトちゃんと一緒に、もっとたくさんの曲を作りたい。そして、いつか大きなステージで歌ってもらいたい」

「……大きな、ステージ……?」

「うん。マジカルミライみたいな、大きなライブ。そこで、テトちゃんに歌ってもらうんだ」

あかりの目が、輝いた。


「そして、たくさんの人に、テトちゃんの素晴らしさを知ってもらいたい」

テトの目にも、涙が浮かんだ。

「……あかりさん……」

「だから、これからも一緒に頑張ろうね」

「……はい……!」

テトは、力強く頷いた。

「……私も……あかりさんの、夢を……叶えたいです……」

「ありがとう、テトちゃん」

二人は、画面を隔てて微笑み合った。

偽りの歌姫は、本物の歌姫になった。

でも、物語は終わらない。

ここから、新しい冒険が始まる。

もっと大きな夢に向かって。

もっと高い場所へ。



数日後、あかりのメールボックスに、一通のメールが届いた。


件名:『楽曲制作のご依頼について』

差出人は、小さな音楽制作会社だった。

内容を読むと、あかりの才能を評価して、楽曲制作の依頼をしたいとのことだった。


「え……?」

あかりは、驚いた。

プロからの依頼。

それは、あかりが想像もしていなかったことだった。


「テトちゃん、見て!楽曲制作の依頼が来たの!」

「……本当、ですか……!?」

テトも、驚いている。

「……すごい……です……あかりさん……プロに、認められて……」

「まだ返事してないけど……どうしよう」

あかりは、迷っていた。

嬉しいけれど、自分にできるだろうか。


「……あかりさんなら、できます……」

テトが、優しく言った。

「……私が、一緒に、います……だから……大丈夫……」

テトの言葉に、あかりは勇気をもらった。


「そうだね。二人でなら、できるよね」

「……はい……!」

あかりは、返信のメールを書き始めた。

新しい挑戦。

新しい可能性。

偽りの歌姫は、本物の歌姫になった。

そして、今度は、もっと大きな世界へ。

あかりとテトの物語は、まだまだ続いていく。


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