表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

魔王降臨



我が名はベルセルク=アルシュタイン。


気まぐれで人里に降りてみることにした。

我が力を持ってすれば、世界征服は容易である。

征服は全魔族の宿願であり、希望でもあるが、

しかし、我はそれほど望んでいない。



「はぁ、何か面白い事はないかのぉ。」



見ると、人間の少年が1人山から下りてくる。

少年は酷く貧相であった。髪は縮れ、服は何度も縫い合わせたようにボロボロで、頬はこけている。

飯をろくに食っておらんのか、足取りも覚束ず、

ついぞ少年は転んだ。


「いてて………」


少年は頭を掻いている。

ほんの出来心から、我は少年に聞いてみることにした。


「おいお前、何故そのような身なりをしている?飯はろくに食っておらんのか?」


少年は、少し不思議そうな顔をする。

それもそうだ。人間からすれば、血色が悪く、二本角の生えた筋骨隆々の巨大な生き物など恐怖の対象でしかないだろう。


「えへへ、その、今日は実が多く取れまして、おっとさんに食べさせてやろうと、急ぐあまり、転んでしまいました。」


少年は照れ臭そうにして、手の中にある実を見せる。そこには、3つばかりの小さな実が少年の小さな手に収まっていた。


「こんなもので腹は膨れんだろう?」


「いいえ、これでも腹は満たされます。何も食べれない日の方が多いですから。」


少年はふと気づいたように、手を差し出した。


「はい、これ。」


少年の指先には実がつままれている。


「これ、とは?」


「腹が空かれているのでしょう?どうぞこれをお食べください。」


我は目を見開く。何故(なにゆえ)、このモノはそのような馬鹿な考えへと至るのか。


「馬鹿をいえ、明らかに飢えておるお前から、取れるものなど何もない。」


「そうですか?近頃は飢饉が続いております、それに町の取り立ても。」


「取り立て?何なのだそれは。」


少年は不思議そうにして言う。


「米でございます。私の田畑で取れるものはほんの僅かですが、それすらも町のお偉いさんが持って行ってしまいます。仕方がないと言えば、仕方がないのですがしかし………」


少年はうずくまる。

見ると、目から雫を垂らしているようだった。


「どうした?大丈夫か?」


思わず、手を差し伸べてしまう。

以前からこう言う行いは止めるように、大臣から言われておるのだが、しかし体が聞かぬ。


「おっかさんが亡くなって………おっとさんも私にいつもご飯をくれるから、ずっと何も食べてなくて。」


「…………………」


少年の事情を聞き、我は考える。

母上が亡くなり、父上が飢え、自らも飢えている。その上で、この者は見ず知らずの、見た目すら人とは程遠いこの我に、実を差し出したのだ。

この善良なものが苦心する世の中とは何だ。

この少年を苦しめているモノは何者だ?


「少年よ。町とはどこにある?」


少年は目の雫を手で擦り、顔を上げる。


「町………町の場所ですか?それなら、ここから東に数里歩いた場所に………」


すると、少年の目の前に突風が吹き荒れ、周りの草木が舞い散る。気づけば、目の前にいた人はいなくなっていた。少年は目をパチクリさせている。


「町に、行ったのかな?………はっ!?早くおっとさんに実を持って行かないと!!」


少年は慌てて立ち上がり、家の方角への走った。

何故だか、体が軽く、元気も満ち足りているようだった。実も何だか、さっきより大きいような………


「えへへ、もしかしたら天使様だったのかも。」


少年は嬉しくなった。頑張ってきたご褒美に、来てくれたのかも、と。少年は足取り軽く、家へと帰った。














城上階の一室。


町の城主は飯をくらう。

三味線の小気味よい音が、水面を揺らす。

従者が肩を揉み、一服のキセルにもう片方の従者が火を添える。


 

「うひひひひっ、民が苦しんどる景色は見てて愉快じゃ。酒がすすむ。」


城主は一息に瓶を呑み干す。


「それにしても、何だか(くろ)うないか?おい、誰か返事を」


「貴様か?少年を苦しめるのは?」


暗がりの中、赫く双眼が煌めく。 

あまりの雰囲気(オーラ)に城主はただならぬ事態を感じ取る。


「な、何者だ!!!貴様!!」


「我は通りすがりのものだ。あらぬ噂を耳にしてな。飢饉で民が苦しんでいるにも関わらず、取り立てを行う馬鹿者がいると聞いてやってきた。」


赫い双眼は細く城主を睨みつける。


「な、何を!?で、出会えい、出会えい!!侵入者じゃ!!!!」


すると、襖の奥から数々の侍が刀を携えて、やってくる。我は辺りを見渡す。ジュウ、ニジュウ………おおよそサンジュウと言ったところか。


「こいつを仕留めた者には、報酬をたんとやる。民からせしめ、未曾有の米俵をくれてやろう!もはや食うには困れぬ!さぁ、斬りかかれい!!!」


侍が一斉に我に迫る。

刀などいくら受けようが傷は付かないが、ひとつ城主だけでなく、従者にも恐怖と言うものを見せておいた方が、今後の為だろう。絶対的な力という名の恐怖を。


我は、ひとつ足踏みをすると、破裂音と城が抜け落ちる。それはひとつふたつ………ではない。我が踏み抜いたのは、城の全て。


「なっ………!?」


侍たちは何が起こったのかも分からず、ただ床の崩落に慌てふためいている。城主は方向感覚も分からずに、顔面から地面にずり落ちた。


「ひっ………!?」


我は城主の目の前に立つ。

城主は怯えるように、後ろにたじろいだが、ふと手に掛かった刀を取ると、途端ニヤリと笑い、我に斬りかかった。


パキンッ、と刀は真っ二つに割れる。


「はぁっ!?」


城主はもはや何が起こったかも分からず、あたふたとしている。我は城主の衣服を掴む。


「随分と高級そうなものを身に付けているのだな。」


「あ、当たり前だ!!!俺を誰だと思ってる!?」


「誰?誰とは………お前、この世で最も尊いものを知っているか?」


「はぁ!?そんなもん城主である儂が偉いに決まって………」


「民だ。この困窮した世で、善き心を保ち、見も知らずのものにすら施しを与える。善き民こそが、この世の宝なのだ。」


「何を馬鹿な………!?」


「馬鹿はお前だ、愚か者。」


我は城主を空に放り投げる。

それは遥か彼方まで、雲に届くほど高く、しかし決して届かぬほど天にやるには、汚れが過ぎている。


「な、何だこの高さはぁ!?落ち……落ち……、落ち、ない?」


バサバサと翼がはためく。

我は城主の首根っこを掴んで、飛んでいた。


「ははっ!ようやく分かったか!!そうだ!!貴様力があるようだな!!家来にしてやろう!!とびきり腕の立つ家来だ!!!」


「………………」


我は下降する。

もはや、何を言うこともあるまい。


「地上が見えてきたな!!褒美を取らすぞ!!さぁ、もう少しで…………」


我はその場にとどまる。


「な、何をしている!?早く地上に降ろせ!!!」



「………お前が善き城主であるなら、従者はきっと受け止める。しかし、恨みを持っていたなら唯では済まんだろうな。」


我はニヤリと笑う。

そうだ。ここから落とせばただの人間なら、無事ではすまない。だが、誰かが受け止めてやれば、まぁ、死ぬことはないだろう。


「おい!お前ら!!集まれ!!俺を受け止める壁になれ!!俺は城主、この町の主であるぞ!!俺の死は、この町の終わりを意味する!!!」


下を見ると、侍や従者たちは呆れた様子で誰一人、向かおうとはしない。この者の命を繋ぎ止める、支えになど誰一人なろうとはしていない。


「ば、馬鹿な!?馬鹿なっ!!?」


「民への仕打ちを悔いり、二度と過ちを犯さぬようその身に焼き付けよ。我はいつでも、お前を見ているぞ。」


そう言って、我は手を離す。

すると、城主は情けない悲鳴を上げて、地上まで落ちていった。最後まで謝りの一つもない、愚か者に手を貸す者などいるはずもなく、落ちて気を失った後も、しばらく近づくものすらいなかった。今後のことを皆で話し合っていたのである。話し合いは前向きで、皆の顔には笑顔が溢れていた。恐怖から、支配から脱したのだ。間も無くして、人ひとりが縄を持って歩み寄り、その城主を縄で括った。二度と、悪さなどできぬように。











「魔王様、何をしていらしたんですか?」


我の家来が迎えにきてくれたようだ。


「何も。ただ世界征服の準備をしていただけだ。」


「フフフッ、本当に魔王様は面白いですね。」


「うるさいっ!早く行くぞ!」




2人は飛び立っていく。

こうして、着々と魔王は世界征服の、支配の準備を進める。また明日も人間界へと降り立つのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ