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封じられた光、落とされた少女

リヴァル神聖教国――それは、神の加護によって支配される信仰国家だった。


 都市の中央には巨大な白亜の神殿が聳え立ち、民衆はその塔を仰ぎ見ながら生きている。

 高神官による法と、聖女による象徴支配。貴族も王も存在しないこの国では、“神に選ばれし者”だけが価値を持つ。


 「なんか……空気が重い」


 リーナの呟きに、俺はうなずいた。


 「この国じゃ、“才能を選ぶのは神”って考えが完全に染み付いてる。俺みたいな“人間が人間を選ぶ”職業は、異端中の異端だ」


 「それでも、来るんだよね?」


 「ああ。拾い損ねた才能が、ここにある」



 教国の外郭都市ナセリア。そこで俺たちは、ある“儀式”に立ち会うよう招かれていた。


 選別の儀式――十五歳となった見習いたちが、神の加護を受け、職業を定められる場。

 聖職者、神官、聖騎士など、すべては“神託”によって振り分けられる。


 俺たちは、その儀式を外部から見学するという立場を与えられた。

 本来なら異例中の異例。それだけ、俺の《識眼》に対して期待と恐れが混在しているのだろう。



 儀式の場は、整然としていた。


 真っ白な神殿の広場。整列する見習いたち。その前には、巨大な水晶が据えられていた。

 “神託水晶”。加護を受けた者には職業が与えられ、拒絶された者は「不適格」と記録される。


 次々と職業が宣告されていく。


 聖職者。神官。見習い騎士。修道士。


 その中に、1人だけ――何の結果も出ず、沈黙を与えられた少女がいた。


 背筋を伸ばし、表情一つ変えず、最後まで立っていたその少女を見た瞬間、

 俺の視界に“異常なグラフ”が浮かんだ。


 スキル適性:光属性(判定不能)

 因子封印率:92%

 加護反応:有/拒絶反応:不明

 覚醒条件:外部トリガー


 「……いた」


 「え?」


 リーナが顔を上げる。


 「今回の目的だ。“拾い損ねられた才能”。封印され、見捨てられた光……」


 あの少女は、確かに“選ばれていた”。

 だが、神託は彼女を拒絶した。

 理由は明白だ。彼女の中の因子が、強すぎたのだ。


 神の規格にすら合わなかった、それだけの話だ。



 儀式終了後、俺たちは休憩所に案内された。


 リヴァル教国の高神官グリオスが姿を見せたのは、その数分後だった。


 「カイル=グレイフ殿。遠路のご来訪、感謝申し上げます」


 礼儀正しく、だが視線の奥には探るような色がある。


 「本日の儀式をご覧になり、いかがでしたか?」


 「神託は制度としてよく整っています。ただ、ひとつ気になる点がありました」


 「ほう?」


 「“選ばれなかった少女”の件です。彼女の中には、明らかな加護反応がありました。にもかかわらず、職業が定まらなかった。これは……制度側の異常では?」


 空気が少しだけ凍る。


 グリオスは沈黙の後、淡く笑った。


 「彼女は“神に試された”のかもしれません。加護はあっても、制御できぬ力は災厄となります。よって……“保留”と判断されたのでしょう」


 保留。

 それは「選ばれなかった」と同義。


 「彼女に、直接会わせていただけますか」


 グリオスの目が細くなる。


 「まさか、スカウトするおつもりですか?」


 「彼女の才能を、“世界”に引き出す価値があるなら。俺の目は、そう言っています」



 夜。


 案内されたのは、小さな修道院の個室だった。

 その一室で、彼女は一人座っていた。


 白い修道服。金の瞳。整った顔立ちに、感情はほとんど浮かんでいない。


 「君が、カイル=グレイフ?」


 その声は、驚くほど静かだった。


 「私の中にある何かを、“見た”の?」


 「見えた。正確には“封印されている”と、視えた」


 彼女はゆっくりと立ち上がった。


 「なら、私に聞かせてほしい。私は――“生きていていい存在”なのか?」


 その問いに、俺は即答した。


 「価値があるとかないとか、そんな次元じゃない。お前は、“起動していない奇跡”だ。俺はそれを、世界に引き出したい」


 彼女の視線がわずかに揺れる。


 その瞬間、視界に浮かぶ封印因子が、かすかに“ひび割れた”。

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