王都クレムラ、才能と欲望が交差する場所
王都クレムラ――それは、“完成された世界”だった。
石造りの高層城壁に囲まれたこの街は、帝国最大の行政都市にして、貴族と騎士と富裕商人のために存在する街。
何百年も前から、上に立つ者たちが全てを決め、下の者は従うだけ。
そんな歪な構造が、まるで“正しさ”であるかのように機能していた。
そして今、俺たちのような“下から這い上がってきた異物”が、そこに足を踏み入れた。
◇
「これが……王都……」
リーナが呟いた声には、畏れと緊張が入り混じっていた。
無理もない。この街では、“生まれ”だけで人間の価値が決まる。
「気にするな。あいつらは数字しか見てない。だから、俺たちは数字で黙らせりゃいい」
「……わかった」
セラは無言。ゼノは街並みに目を輝かせていた。
「美しい。実に無駄が多くて、素晴らしい腐敗だ……ああ、この都市にこそ神は裁きを与えるべきだな!」
騒ぎを起こす前に、ゼノの頭を軽くはたいて黙らせる。
◇
ギルド本部での面談は、意外なほどスムーズだった。
事前に送っておいた実績報告が効いていたのだろう。
俺たちの申請はすぐに通り、王都内での自由行動許可と、都市滞在者用の証明札を渡された。
「スカウト……聞いてるぜ。“見るだけで人を見抜く”とかいう、まるで神様のまねごとの異能ってな」
受付の男が笑った。
「まあ、ここじゃそういうのは歓迎されねぇ。“選ぶのは生まれ”ってのが、ここのルールだからよ」
「なら俺が、そのルールを壊してやるさ」
そう言ったときの男の顔が、ほんの少し引きつったのを、俺は見逃さなかった。
◇
宿に戻った夕方、予想より早く動きがあった。
ギルドから伝令が届き、1通の書状を渡された。
差出人:リヴァル神聖教国 高神官グリオス。
封蝋は本物。内容は、こうだった。
「貴殿の“識眼”の能力に、我らは深い関心を抱いております。
貴殿を正式に招待し、我らが選別の儀式に立ち会っていただきたく存じます」
「……来たな」
「これって……スカウトされてるの、カイルじゃない?」
リーナが呆れたように言う。
「そうだな。でもこれは単なる招待じゃない。“神の下した評価”に、俺のスキルがどう作用するかを試す場でもある」
「それって、下手すれば怒らせるんじゃ……」
「怒られても構わない。むしろそのくらいじゃないと、眠ってる奴らは目覚めない」
◇
夜。俺は1人でギルドに出向き、個人的な調査依頼を出した。
依頼内容:
> 「元・聖騎士見習いの少女。かつて“神託の光”を受けながらも、不適格として破門された者の記録」
俺には心当たりがあった。
3年前。とある公開儀式で偶然見た少女――
彼女の背に、誰にも見えない“封じられた因子”が浮かんでいた。
スキル因子:光属性/加護保持率:A
覚醒状態:封印/覚醒因子:抑圧状態
あのとき、俺の目にははっきりと“神の見落とし”が見えた。
◇
「リヴァル教国には、まだ“原石”が眠っている。あいつを拾う。たとえ神が不要と断じてもな」
世界は、才能を正しく評価できていない。
それは、勇者パーティーでの追放が証明している。
俺がやるべきことは変わらない。
拾い、見抜き、育てる――
そして、選ばれる側から“選ぶ側”へと至る。
次の舞台は、リヴァル神聖教国。
神の眼を持つ者たちの中に、スカウトの異端が踏み込む。