狂った天才にして、神の失敗作
その男は、街の中央広場で突然演説を始めた。
「……愚かな人間たちよ! 世界はすでに終わっている! お前たちの存在そのものがバグであり、エラーであり、祝福の対象にすらならないことを、気づけ!」
広場の人々がざわめく中、男は真顔でそんなことを叫んでいた。
「……誰だあれ?」
リーナが怪訝そうに言った。
「ゼノ=バルファス。元は帝国の研究機関で“超適性者”として育てられた男。けど、スキルとの適合率が異常すぎて、人間扱いされなくなった」
「つまり……?」
「要するに、天才すぎて捨てられた奴だ」
◇
《識眼》を起動する。視界に浮かぶグラフは、見たことのない形だった。
――思考異常因子:最大値
――スキル適性:変動型(確認不能)
――成長因子:未定義
――制御難度:極大
数値が暴れている。今の彼を測れる指標が存在しない。
だが確かに、そこに“可能性”はある。俺にしか見えない色で、激しく燃えている。
「これは……面白いな」
◇
翌日。俺はゼノに声をかけた。
「スカウトだ。俺と来い」
「は? 急に何を言い出すかと思えば……なに? スカウト? 俺を? ほほう、ついに世界は俺の正しさに気づき始めたか!」
「いいから黙って聞け」
俺は言葉を遮った。
「お前の適性は、スキルでも魔法でも測れない。たぶん、お前自身にも制御できない。けど、その“不完全さ”が重要だ」
「おお、なるほど! 君、なかなかに狂ってるな!」
「お前ほどじゃない。だが、お前を扱えるのは俺だけだ。……ついてこい、ゼノ」
ゼノはしばらく黙って俺を見つめ、それから不敵に笑った。
「いいだろう。運命の道化を演じるのも、嫌いじゃない」
視界にグラフが浮かぶ。
――制御因子:変動 → 安定化兆候
――自壊因子:低下
――認知同調:発生
……やはり、こいつは“拾える”。
◇
その夜。リーナとセラはゼノを遠巻きに見ていた。
「カイル、あれ……絶対やばいって」
「うん、正直、敵に回したら最悪だと思う」
俺はふたりに言った。
「でも、あいつは“自分の正しさ”を証明したいだけだ。だからこそ、方向を間違えなければ、最強の兵器になる」
「……本当に制御できるの?」
「できる。“見る目”があるからな」
ゼノは焚き火を見ながら、ぶつぶつと何かを唱えていた。
「世界が、また一つ塗り替えられる……ふふ、面白くなってきた……」
その笑みは狂気の中に、ほんのわずか――人間らしい期待を含んでいた。