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一撃に込めた願い

夜明け前、街の近くにある小さな廃墟。


 この場所には、最近ならず者の巣ができているという噂があった。ギルドも見て見ぬふりをしている案件。

 俺たちは、その“実地調査”に来ていた。


 「……ねえ、ほんとにここ、敵いるの?」


 リーナが不安げに呟く。


 「いる。3人。近接2、弓1。待ち伏せ中だ」


 俺は《識眼》で確認済みだった。


 だが、今日の主役は俺でもリーナでもない。


 「セラ、行けるか?」


 問いかけると、セラは肩をすくめて立ち上がる。


 「どうせ死ぬなら、人間っぽいことの一つでもしてからがいい。……じゃ、やってくる」



 廃墟に入って十秒。音もなく、空気すら動かない。


 ……次の瞬間。


 「うっ……が……っ!」


 遠くから、男の呻き声と何かが倒れる音。


 すぐに悲鳴が重なり、そのあと、沈黙が戻った。


 俺とリーナが廃墟に入ると、セラは既に短剣を収めていた。倒れている3人の男たちには、まるで“何もなかったように”正確な傷跡が刻まれていた。


 「全員、生きてる。動脈も骨も避けた。ちゃんと、手加減したよ」


 そう言ったセラの声に、ほんのわずか――熱があった。



 「なんで……」


 廃墟の外、焚き火の近くでリーナが呟いた。


 「なんで、あんなに躊躇いもなく動けるの……私、まだちょっと怖いのに……」


 「当たり前だ。怖いのが普通だよ」


 俺は言った。


 「でもセラは、怖さを忘れるほど、死に慣れてる。自分が壊れることにも、慣れてしまってる」


 リーナは言葉を失ったように、セラの背中を見ていた。


 その肩は小さくて、細くて――でも、異常なほど静かだった。



 「セラ」


 俺は彼女の隣に座り、静かに言った。


 「お前、わざと殺さなかったな」


 「……あんたが“使い方”を見せろって言ったから、試しただけ」


 「違う。お前は、“人間として扱われたから”少しだけ自分をコントロールしようとした。そうじゃないか?」


 セラは目を見開いた。次の瞬間、眉をひそめる。


 「……なにそれ、気持ち悪い」


 「構わない。気持ち悪いぐらいで、ちょうどいい」


 俺は視界に浮かぶ彼女のグラフを見た。


 ――感情抑制因子:変動中

 ――自壊因子:不安定 → 微弱化


 間違いない。この戦闘で、彼女の中の“死にたがり”が、わずかに揺れた。



 その夜。


 セラは焚き火のそばでぽつりと呟いた。


 「私が死にたかったのは……誰にも必要とされなかったからだと思う」


 それは、彼女の人生の中で、誰にも話したことがなかった言葉だろう。


 「なら俺は、これから何度でも必要とする。だから、生きてろ」


 セラは無言のまま目を伏せた。だが、否定はしなかった。


 その沈黙こそが、彼女の中の“生きようとする力”の、最初の答えだった。



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