死にたがり暗殺者、スカウト対象になる
とある街の裏通り。陽も傾き、空が赤く染まり始めていた。
「カイル、本当にこんな場所に“才能の原石”がいるの?」
リーナは周囲を警戒しながら尋ねた。
「確かに、やばい場所ではある。でも確実に“いる”」
俺たちが今いるのは、クランディア帝国の外縁に位置するスラム街。治安も最悪で、公式のギルドが手を出せない“闇のエリア”だ。
ここに、俺がずっと気になっていた人物がいる。
“殺し屋”として裏社会で噂になっている少女――
セラ=ノクス。
殺しに一切の躊躇がなく、感情の欠片も見せない異常者。
その実態を知る者はほとんどいないが、俺は1度だけ、遠目に彼女を見たことがある。
そしてそのとき――
彼女の因子グラフが、はっきりと“光って”いた。
◇
「いた」
俺は足を止めた。
薄暗い路地の先。石の階段に腰掛けて、無表情で空を見上げる少女がいた。
黒いローブ。小柄な体格。腰には短剣。
近づくと、彼女は視線をゆっくりこちらに向けた。
「……なに? 死にたいの?」
その声音に、リーナが思わず一歩後ろに下がる。
だが俺は、ただ静かに彼女を見た。
──グラフ表示:反応速度:S / 闇属性適性:A+ / 感情抑制因子:異常値 / 自壊因子:不安定
戦闘に特化しすぎた、異常な構造。
これはもはや“武器”であって、人間じゃない。
「違う。お前をスカウトしに来た」
俺がそう言うと、セラは一瞬だけまばたきをした。
「……スカウト? 私に? 戦えないくせに?」
「お前には“使い方”が分かってないだけだ。お前の能力は異常だ。正しく扱えば、世界すら切り裂ける」
セラはしばらく黙っていた。
やがて、ぽつりとつぶやく。
「……面白い。なら試してみる?」
その言葉と同時に、彼女の因子グラフに“揺らぎ”が走った。
スカウト対象、確定。
◇
「待って、カイル! 本当に大丈夫なの? あの子……なんか、ヤバいよ!」
その後、宿に戻った俺に、リーナが食ってかかるように言った。
「わかってる。正直、俺もギリギリの判断だった。でも、アイツは――死にたがってる」
「え……?」
「自分に価値がないと思ってる。でもそれは、誰も彼女を“正しく扱って”こなかったからだ。あの能力は、殺しにしか使われてこなかった」
リーナが沈黙する。
「スカウトってのは、才能を見抜くだけじゃない。拾って、正しい場所に置いてやることまでが仕事だ」
「……責任、重すぎない?」
「当たり前だ。戦えない分、俺はそれぐらいやるしかない」
◇
翌日。セラは何事もなかったかのように宿に現れた。
「……で、あんたの“使い方”とやら、試してみる。死ねたら儲けモノって感じで」
リーナは不安そうに彼女を見ていたが、俺は静かにうなずいた。
──また一人、“原石”が加わった。
このチームは、確実に“世界最強”へと近づいている。