スカウトの仕事は、未来を見ること
「はあ……筋肉痛、やばいかも……」
朝。焚き火のそばで、リーナがぐったりしていた。
昨日の盗賊との戦闘から一夜。初めての実戦は、彼女の身体にそれなりのダメージを残したらしい。
「筋肉が目覚めてきてる証拠だ。悪いことじゃない」
「そんな、嬉しくない……」
そう言いながらも、彼女は少しだけ笑っていた。戦いに勝った達成感と、自分に“できた”という実感が、確かに彼女の中に残っている。
その表情を見て、俺は思った。
やはり、この旅は間違っていなかった。
◇
「カイル、聞いてもいい?」
「ん?」
「どうして、私を“スカウト”したの? 昨日だって怖がってたし、剣の才能があるなんて思えないのに」
静かな口調だったが、核心を突いていた。
俺は焚き火に小枝をくべながら、少しだけ考える。
そして、はっきりと答えた。
「俺のスキルは、才能を“見抜く”スキルだ。過去でも現在でもなく、“未来の可能性”を見てる」
「未来の……?」
「そう。だから、今がどうとか関係ない。どんなに不器用でも、どんなに評価が低くても、“伸びる奴”は分かる。お前は、その中でもトップクラスだった」
リーナはきょとんとしていたが、すぐに照れくさそうに目をそらした。
「そんな風に言われたの、初めてだよ……」
◇
俺のスキル《識眼》は、完全にパッシブ型だ。
特定の条件下で対象を見ると、その人間の成長因子・スキル適性・潜在能力が、視界にグラフ化されて表示される。
世間では“鑑定スキルの下位互換”と見なされているが、それは大きな誤解だ。
鑑定は「今ある情報」を読む。
だが識眼は「まだ顕在化していない資質」――つまり、未来の可能性を読む。
俺が評価しているのは、今の強さじゃない。
“伸びしろ”だ。
それを理解しない勇者たちは、目先の火力だけで人を切り捨てた。
けれど、彼らは知らない。
目の前にある数字よりも、将来の数字の方が、遥かに大事だってことを。
◇
「……つまり、私って将来的には強くなるってこと?」
リーナが言った。
「その通り。むしろ、適性だけ見れば勇者より上」
「うそ……勇者って、あのグラン?」
「そう。あいつの成長因子はもう伸びきってる。あのままいけば、いずれ頭打ちになる。今は強く見えても、将来は保証されてない」
リーナは少し真剣な表情になった。
「じゃあ、私がもっと強くなったら……私を見捨てた人たちを、見返せるのかな」
「余裕だろ」
俺は即答した。
「“見る目”のない奴らに選ばれなかったことを、後悔させてやれ。お前自身の力で」
リーナの目が少し潤んでいた。
でも、それは泣きそうな顔じゃない。
何かを決めた人間の顔だった。
◇
その日の訓練では、リーナの動きが明らかに変わっていた。
剣の振り下ろしが鋭くなり、無駄な動きが減っている。集中の持続時間も、格段に上がっていた。
俺の視界に浮かぶグラフが、それをはっきりと示している。
――反応速度:A+ → 変動中
――集中持続:A → A+に迫る
――覚醒因子:段階Ⅰ → 安定化
戦闘経験が、リーナを成長させている。
間違いない。この子は、世界を変える武器になる。
「リーナ」
「なに?」
「次は、もっとヤバいやつをスカウトしに行く。覚悟しておけよ」
「ええっ……!?」
「大丈夫。お前なら見抜ける」
俺は笑った。
“才能を見抜く目”に、間違いなんてない。