神託に見放された少女の初任務
リヴァル教国の北方にある小さな村“カスタ”。
そこで最近、「魔性に取り憑かれた子供が現れた」という報告があった。
教国は異端を極端に嫌う。そのため“神の目”を持つ選別者が派遣され、存在が認められれば即刻“隔離”されることになる。
だが、その子供が“本当に危険な存在かどうか”は、今までろくに確かめられた試しがない。
「この件、受けるよ」
俺が申し出ると、グリオス高神官はわずかに目を細めた。
「……貴殿の“目”で判断するというのか?」
「ああ。識眼で確認したうえで、必要なら引き取る。俺の責任でな」
「責任とは、軽々しく口にすべき言葉ではない」
「だからこそ、口にしてる」
◇
移動には三日かかった。
俺たちは教国の許可を得て、監視役の修道士を1人だけ帯同させる形で村へと向かった。
リーナとセラはいつも通り。ゼノは“村人観察日記”と称して奇行をメモしていたが、まぁ問題ない。
一番緊張していたのは、やはりミリアだった。
「初めて“誰かを見に行く”任務。少し……不安」
「不安でいい。お前が感じた不安は、相手にもある。それを忘れなければ、暴走しない」
「……うん」
◇
村に到着すると、対応に出てきたのは初老の神官だった。
「問題の子供は今、納屋に隔離しておる。目を合わせると鳥や獣が逃げ出し、周囲の火も消えるのだ。明らかに異常だ」
その語り口は、すでに“悪魔認定”の雰囲気すらある。
「で、その子は何をしている?」
「……泣いている。ずっと」
ミリアの眉がわずかに動いた。
その瞬間、俺の視界に“反応”が出た。
――同調因子:微弱活性化
――共感トリガー:受信中
ミリアは、自分と“似た何か”を感じ取っていた。
◇
納屋に案内される。扉の隙間から覗いたその子は、まだ小さかった。7歳ほどか。
毛布にくるまり、目を伏せて震えている。
そして……確かに、“何か”が発せられている。
《識眼起動》
――感情強度:高/魔力干渉因子:異常成長
――視界内魔力圧:自律暴走型/意志存在率:極端に低下
……これは、“暴走”ではない。
“防衛”だ。
恐怖と拒絶の魔力が、周囲に影響を与えている。
「ミリア、どう思う?」
「この子……私に似てる。“感情”が制御できないまま、“力”だけが膨らんでる」
「近づけるか?」
「やってみる」
◇
ミリアがゆっくりと納屋に入り、跪く。
「大丈夫。私は君と同じ。だから、怖くないよ」
その声に、少女の震えが止まる。
ミリアはそっと手を伸ばし、毛布をめくった。
「君の名前、聞いてもいい?」
「……エル」
か細い声。けれど、その瞬間、魔力の圧が一気に引いた。
俺の視界に、グラフが一気に書き換えられる。
――魔力発信:安定化
――抑圧因子:低下
――認知力:自己回復開始
「……解除成功、だな」
セラがぼそりと呟いた。
ゼノは言った。
「なるほど。“封印されていた光”は、“同じ封印”を抱えた者の手でしか開けられないか」
◇
任務は無事完了。
報告書には「対象は魔性の兆候なし、精神的反応による魔力干渉が原因。スカウト対象とする価値あり」と記載した。
帰り道。ミリアは静かに呟いた。
「……私、あの子に少しだけ“なにか”を渡せた気がした」
「それは“スカウトされた側”の特権だ。自分がもらったものを、次の誰かに返す。それが、俺たちのやることだ」
ミリアは、小さく微笑んだ。




