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神託に見放された少女の初任務

リヴァル教国の北方にある小さな村“カスタ”。


 そこで最近、「魔性に取り憑かれた子供が現れた」という報告があった。

 教国は異端を極端に嫌う。そのため“神の目”を持つ選別者が派遣され、存在が認められれば即刻“隔離”されることになる。


 だが、その子供が“本当に危険な存在かどうか”は、今までろくに確かめられた試しがない。


 「この件、受けるよ」


 俺が申し出ると、グリオス高神官はわずかに目を細めた。


 「……貴殿の“目”で判断するというのか?」


 「ああ。識眼で確認したうえで、必要なら引き取る。俺の責任でな」


 「責任とは、軽々しく口にすべき言葉ではない」


 「だからこそ、口にしてる」



 移動には三日かかった。


 俺たちは教国の許可を得て、監視役の修道士を1人だけ帯同させる形で村へと向かった。

 リーナとセラはいつも通り。ゼノは“村人観察日記”と称して奇行をメモしていたが、まぁ問題ない。


 一番緊張していたのは、やはりミリアだった。


 「初めて“誰かを見に行く”任務。少し……不安」


 「不安でいい。お前が感じた不安は、相手にもある。それを忘れなければ、暴走しない」


 「……うん」



 村に到着すると、対応に出てきたのは初老の神官だった。


 「問題の子供は今、納屋に隔離しておる。目を合わせると鳥や獣が逃げ出し、周囲の火も消えるのだ。明らかに異常だ」


 その語り口は、すでに“悪魔認定”の雰囲気すらある。


 「で、その子は何をしている?」


 「……泣いている。ずっと」


 ミリアの眉がわずかに動いた。


 その瞬間、俺の視界に“反応”が出た。


 ――同調因子:微弱活性化

 ――共感トリガー:受信中


 ミリアは、自分と“似た何か”を感じ取っていた。



 納屋に案内される。扉の隙間から覗いたその子は、まだ小さかった。7歳ほどか。


 毛布にくるまり、目を伏せて震えている。

 そして……確かに、“何か”が発せられている。


 《識眼起動》


 ――感情強度:高/魔力干渉因子:異常成長

 ――視界内魔力圧:自律暴走型/意志存在率:極端に低下


 ……これは、“暴走”ではない。


 “防衛”だ。


 恐怖と拒絶の魔力が、周囲に影響を与えている。


 「ミリア、どう思う?」


 「この子……私に似てる。“感情”が制御できないまま、“力”だけが膨らんでる」


 「近づけるか?」


 「やってみる」



 ミリアがゆっくりと納屋に入り、跪く。


 「大丈夫。私は君と同じ。だから、怖くないよ」


 その声に、少女の震えが止まる。


 ミリアはそっと手を伸ばし、毛布をめくった。


 「君の名前、聞いてもいい?」


 「……エル」


 か細い声。けれど、その瞬間、魔力の圧が一気に引いた。


 俺の視界に、グラフが一気に書き換えられる。


 ――魔力発信:安定化

 ――抑圧因子:低下

 ――認知力:自己回復開始


 「……解除成功、だな」


 セラがぼそりと呟いた。


 ゼノは言った。


 「なるほど。“封印されていた光”は、“同じ封印”を抱えた者の手でしか開けられないか」



 任務は無事完了。


 報告書には「対象は魔性の兆候なし、精神的反応による魔力干渉が原因。スカウト対象とする価値あり」と記載した。


 帰り道。ミリアは静かに呟いた。


 「……私、あの子に少しだけ“なにか”を渡せた気がした」


 「それは“スカウトされた側”の特権だ。自分がもらったものを、次の誰かに返す。それが、俺たちのやることだ」


 ミリアは、小さく微笑んだ。



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