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神に捨てられた少女は、仲間になれますか?

ミリア=クロストは、朝からずっと黙っていた。


 いや、黙っているのはいつものことだ。

 だが今の彼女は、言葉ではなく“気配”で自分を押し殺そうとしていた。


 まるで、“ここにいるべきではない”とでも言うように。



 「……なぁ、カイル。ミリア、大丈夫かな」


 朝食を終えた後、リーナが小声で言ってくる。


 「あの子、食事のときも声を出さないし……あの、笑ったこと、あるの?」


 「たぶん、忘れてるだけだと思う。“感情を動かす”ってことをな」


 「それって、私にできるかな」


 「お前にはできる。リーナ、お前の“強さ”は、他人を“普通”に引き戻せるところだ」


 「……普通、かぁ……あんまり褒められた気がしないけど」


 リーナは苦笑したが、その足はすでにミリアの方へ向かっていた。



 「ねえ、ミリア。一緒に訓練場、行かない?」


 リーナが声をかけると、ミリアはわずかに反応を示した。


 「……私は、また壊してしまうかもしれない」


 「いいよ。壊しても。木人なんて、いくらでもあるし」


 「……怖いの。自分の中の“なにか”が」


 「それも、普通だよ」


 その一言で、ミリアの目が揺れた。


 彼女は少し迷いながら、静かに頷いた。



 訓練場での再稼働。


 今回は短剣ではなく、模擬剣を使っての動作確認が目的だった。


 「ミリア、自分のペースでいい。焦らなくていい」


 俺が言うと、彼女は無言で剣を握った。


 構え。静止。そして振り下ろし――


 ……何も起きなかった。


 今度は、普通の剣の振りだった。木人も壊れなければ、光も出ない。


 「……ふっ」


 ミリアが、小さく息をついた。


 「出なくても、別にいい。出さないようにできるなら、それも“制御の一種”だ」


 「そういうもの……?」


 「そういうものだ。“出し方”を知る前に、“止め方”を知る。それは強者の第一歩だ」


 俺がそう言うと、ミリアはかすかに表情を和らげた。



 その夜。


 宿に戻ると、ギルドの使いが待っていた。


 「カイル=グレイフ殿。王都方面より使者が来ております。緊急案件につき、至急、面会を願います」


 「王都から?」


 リーナが不安げに尋ねる。


 「向こうが焦って動いたってことは……何か“波紋”が起きたか」


 俺は思考を切り替える。


 「ミリアの“覚醒”が、教国内に想定以上の動揺を生んだな。高位層の判断が割れたのかもしれない」



 翌朝、王都から来た使者と面会した。


 「カイル=グレイフ殿。リヴァル神聖教国内での“人材への接触”について、王国評議会より正式な照会が出ております」


 「照会?」


 「ミリア=クロスト嬢の身柄に関して、教国より“監視対象指定”が検討されており――」


 「却下だ」


 俺は即座に言った。


 「俺の仲間に、外から干渉する権利は誰にもない。覚醒は“俺が管理する”。スカウトという職業は、“拾って終わり”じゃない」


 使者はしばらく沈黙していたが、やがて渋々うなずいた。


 「……強硬な方だ。だが、理解はしました」



 その夜、ミリアが自分から話しかけてきた。


 「私……少しだけ、怖くなくなった気がする」


 「そうか」


 「たぶん、あなたたちが“壊してもいい”って言ってくれたから」


 「壊したって、また拾えばいい。俺は、それが得意なんだ」


 ミリアは、その言葉を聞いてほんの少し笑った。


 神に見捨てられた少女が、“チームの中”でようやく笑った――

 それは、ごくささやかだが、確かな一歩だった。

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