神に捨てられた少女は、仲間になれますか?
ミリア=クロストは、朝からずっと黙っていた。
いや、黙っているのはいつものことだ。
だが今の彼女は、言葉ではなく“気配”で自分を押し殺そうとしていた。
まるで、“ここにいるべきではない”とでも言うように。
◇
「……なぁ、カイル。ミリア、大丈夫かな」
朝食を終えた後、リーナが小声で言ってくる。
「あの子、食事のときも声を出さないし……あの、笑ったこと、あるの?」
「たぶん、忘れてるだけだと思う。“感情を動かす”ってことをな」
「それって、私にできるかな」
「お前にはできる。リーナ、お前の“強さ”は、他人を“普通”に引き戻せるところだ」
「……普通、かぁ……あんまり褒められた気がしないけど」
リーナは苦笑したが、その足はすでにミリアの方へ向かっていた。
◇
「ねえ、ミリア。一緒に訓練場、行かない?」
リーナが声をかけると、ミリアはわずかに反応を示した。
「……私は、また壊してしまうかもしれない」
「いいよ。壊しても。木人なんて、いくらでもあるし」
「……怖いの。自分の中の“なにか”が」
「それも、普通だよ」
その一言で、ミリアの目が揺れた。
彼女は少し迷いながら、静かに頷いた。
◇
訓練場での再稼働。
今回は短剣ではなく、模擬剣を使っての動作確認が目的だった。
「ミリア、自分のペースでいい。焦らなくていい」
俺が言うと、彼女は無言で剣を握った。
構え。静止。そして振り下ろし――
……何も起きなかった。
今度は、普通の剣の振りだった。木人も壊れなければ、光も出ない。
「……ふっ」
ミリアが、小さく息をついた。
「出なくても、別にいい。出さないようにできるなら、それも“制御の一種”だ」
「そういうもの……?」
「そういうものだ。“出し方”を知る前に、“止め方”を知る。それは強者の第一歩だ」
俺がそう言うと、ミリアはかすかに表情を和らげた。
◇
その夜。
宿に戻ると、ギルドの使いが待っていた。
「カイル=グレイフ殿。王都方面より使者が来ております。緊急案件につき、至急、面会を願います」
「王都から?」
リーナが不安げに尋ねる。
「向こうが焦って動いたってことは……何か“波紋”が起きたか」
俺は思考を切り替える。
「ミリアの“覚醒”が、教国内に想定以上の動揺を生んだな。高位層の判断が割れたのかもしれない」
◇
翌朝、王都から来た使者と面会した。
「カイル=グレイフ殿。リヴァル神聖教国内での“人材への接触”について、王国評議会より正式な照会が出ております」
「照会?」
「ミリア=クロスト嬢の身柄に関して、教国より“監視対象指定”が検討されており――」
「却下だ」
俺は即座に言った。
「俺の仲間に、外から干渉する権利は誰にもない。覚醒は“俺が管理する”。スカウトという職業は、“拾って終わり”じゃない」
使者はしばらく沈黙していたが、やがて渋々うなずいた。
「……強硬な方だ。だが、理解はしました」
◇
その夜、ミリアが自分から話しかけてきた。
「私……少しだけ、怖くなくなった気がする」
「そうか」
「たぶん、あなたたちが“壊してもいい”って言ってくれたから」
「壊したって、また拾えばいい。俺は、それが得意なんだ」
ミリアは、その言葉を聞いてほんの少し笑った。
神に見捨てられた少女が、“チームの中”でようやく笑った――
それは、ごくささやかだが、確かな一歩だった。




