追放スカウト、勇者パーティーをクビになる
「カイル=グレイフ、君はここでパーティーを離れてくれ」
言われた瞬間、妙に冷めた自分がいた。
俺はこの世界で最底辺とされる職業、スカウトだ。戦えない。回復できない。できるのは“見ること”だけ。
「……理由を聞いてもいいか?」
「役に立ってない。単純な話さ」
勇者グランはそう言って、俺の目をまっすぐ見た。まるで悪意なんて欠片もない。純粋に、「無駄なものを切る」それだけの判断だった。
傍らでは聖女ミリアが「仕方ないわ」と肩をすくめ、盾役のディルクは「最初から浮いてたしな」と呟いていた。
俺のスキルが何か、誰もちゃんと知らない。
◇固有スキル《識眼》
対象の才能因子、潜在成長率、覚醒条件、スキル適性などを、視覚的にグラフ化して認識する能力。
戦闘には直接使えない。けど、将来と可能性を見る“目”だけは、誰にも負けない。
「わかった。感謝はしてるよ、ここまで連れてきてくれて」
言って、俺はその場を去った。
◇
数時間後、街道を歩きながらふと思った。
――これでよかったのかもしれない。
勇者パーティーにいれば名声は得られただろう。でも、俺が見抜いた才能を誰も信じていなかった。意見すれば「戦えない奴は黙ってろ」で終わりだった。
それなら、証明するしかない。俺の目が正しかったことを。
「さて……まずは、次の“原石”を探さないとな」
俺は手元のメモを開く。かつて訓練所で偶然見かけたある人物のグラフが、いまだに頭から離れない。
◇
その晩、静かな街の広場で、偶然は起きた。
「……カイル?」
見覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは――リーナ=アークレイ。
淡い金髪を結い、軽装の剣を腰に下げたその少女は、かつて俺と同じ村で育った幼なじみだった。
「久しぶりだな。どうしたんだ、その格好」
「訓練所、落ちたの。選抜試験で最下位だったから……才能がないって、言われた」
うつむいた彼女の背に、俺は見覚えのあるグラフを重ねた。
《精神耐性:S》《反応速度:A+》《集中持続:A》《覚醒適性:高》
数値だけなら、勇者より上のポテンシャルを秘めている。問題は、誰にもそれが見えていないこと。
「なあ、リーナ」
俺は歩み寄り、静かに言った。
「一緒に来ないか?」
「……え?」
「お前の才能を、証明させてくれ。俺の“見る目”が間違ってなかったってことを、世界に見せるために」
リーナは驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。
「カイルは変わらないね。昔から、根拠もなく私のこと信じてくれる」
「根拠ならあるさ。俺にだけ見える“未来”ってやつがな」
その瞬間、彼女の背に浮かんだグラフに微かな“揺らぎ”が走った。
潜在覚醒因子が、動き出していた。
◇
その夜、宿のベッドで天井を見ながら俺は思った。
――リーナはまだ、何も知らない。
この先、何度も壁にぶつかるだろう。戦うことが怖くなる日も来る。自分には価値がないと泣く夜もあるだろう。
でも、そのすべてを超えてなお、彼女は“覚醒”する。
俺には見えている。
だから、信じてスカウトした。
スカウトしかできない。戦うことも、守ることもできない。
けれど――俺にしかできない戦い方が、確かにある。
拾い集めた才能で、俺はもう一度、あの勇者たちの前に立つ。
そのときには、選ばれる側じゃない。
選ぶ側として――