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追放スカウト、勇者パーティーをクビになる

「カイル=グレイフ、君はここでパーティーを離れてくれ」


 言われた瞬間、妙に冷めた自分がいた。


 俺はこの世界で最底辺とされる職業、スカウトだ。戦えない。回復できない。できるのは“見ること”だけ。


「……理由を聞いてもいいか?」


「役に立ってない。単純な話さ」


 勇者グランはそう言って、俺の目をまっすぐ見た。まるで悪意なんて欠片もない。純粋に、「無駄なものを切る」それだけの判断だった。


 傍らでは聖女ミリアが「仕方ないわ」と肩をすくめ、盾役のディルクは「最初から浮いてたしな」と呟いていた。


 俺のスキルが何か、誰もちゃんと知らない。


 ◇固有スキル《識眼しきがん

 対象の才能因子、潜在成長率、覚醒条件、スキル適性などを、視覚的にグラフ化して認識する能力。


 戦闘には直接使えない。けど、将来と可能性を見る“目”だけは、誰にも負けない。


 「わかった。感謝はしてるよ、ここまで連れてきてくれて」


 言って、俺はその場を去った。



 数時間後、街道を歩きながらふと思った。

 ――これでよかったのかもしれない。


 勇者パーティーにいれば名声は得られただろう。でも、俺が見抜いた才能を誰も信じていなかった。意見すれば「戦えない奴は黙ってろ」で終わりだった。


 それなら、証明するしかない。俺の目が正しかったことを。


 「さて……まずは、次の“原石”を探さないとな」


 俺は手元のメモを開く。かつて訓練所で偶然見かけたある人物のグラフが、いまだに頭から離れない。



 その晩、静かな街の広場で、偶然は起きた。


 「……カイル?」


 見覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは――リーナ=アークレイ。


 淡い金髪を結い、軽装の剣を腰に下げたその少女は、かつて俺と同じ村で育った幼なじみだった。


 「久しぶりだな。どうしたんだ、その格好」


 「訓練所、落ちたの。選抜試験で最下位だったから……才能がないって、言われた」


 うつむいた彼女の背に、俺は見覚えのあるグラフを重ねた。


 《精神耐性:S》《反応速度:A+》《集中持続:A》《覚醒適性:高》


 数値だけなら、勇者より上のポテンシャルを秘めている。問題は、誰にもそれが見えていないこと。


 「なあ、リーナ」


 俺は歩み寄り、静かに言った。


 「一緒に来ないか?」


 「……え?」


 「お前の才能を、証明させてくれ。俺の“見る目”が間違ってなかったってことを、世界に見せるために」


 リーナは驚いた顔をして、それから少しだけ笑った。


 「カイルは変わらないね。昔から、根拠もなく私のこと信じてくれる」


 「根拠ならあるさ。俺にだけ見える“未来”ってやつがな」


 その瞬間、彼女の背に浮かんだグラフに微かな“揺らぎ”が走った。

 潜在覚醒因子が、動き出していた。



 その夜、宿のベッドで天井を見ながら俺は思った。


 ――リーナはまだ、何も知らない。


 この先、何度も壁にぶつかるだろう。戦うことが怖くなる日も来る。自分には価値がないと泣く夜もあるだろう。


 でも、そのすべてを超えてなお、彼女は“覚醒”する。


 俺には見えている。

 だから、信じてスカウトした。


 スカウトしかできない。戦うことも、守ることもできない。

 けれど――俺にしかできない戦い方が、確かにある。


 拾い集めた才能で、俺はもう一度、あの勇者たちの前に立つ。


 そのときには、選ばれる側じゃない。

 選ぶ側として――

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