第27話 過ぎた望みに代償を
「……という訳なんだけど、さ。何とかならないかな?」
漫才みたいな会話を切り上げ、ムテキンの事を説明したリルム。
ちなみに泉の精の鼻血は止まりました。
「……ねえ、それってわざわざ治さなくても大丈夫じゃない?」
数秒ほど考えた後、いきなり泉の精はトンデモない事を言い出しました。
苦労して泉まで来たリルムの行動の全否定です。
「あの子が私とした契約は最高の騎士になる事。その代償としてそれ以外の知恵を失うってものだったわ。当時の騎士は剣を王族に捧げるってもので、今でもその契約は生きてるわ」
「今は国と国民の為に剣を捧げるのが騎士なんだよね? そんなに違いがあるの?」
驚いて声も出ないリルムを無視し言葉を続ける泉の精でしたが、リルムは泉の精の言葉に疑問を覚えて尋ねます。
「……それに関しては私が言う事じゃないし、今は特に関係ないから言わないわ」
どこか苦い表情で目を逸らしつつ、泉の精は言葉を続けます。
「貴女のお姉さんって王子と結婚して王女になったんでしょ? なら、言っちゃえば貴女も王族じゃない。王女の妹なんだからさ」
きょとん、とした表情でリルムは目を何度も瞬かせました。
泉の精が何を言いたいか、綺麗さっぱり解らなかったからです。
「鈍いわね、貴女は……。貴女はあの子に好かれたいから、あの子の事を治そうと思ったんでしょ? 結婚してくれなきゃ死んでやる、愛してくれないなら死んでやるって言えばいいのよ。王族の命令には忠実だし、命が掛かっていれば絶対ってくらい私の魔法は強力なんだから」
それは契約を利用して、ムテキンの心を縛ろうという提案でした。
泉の精の言う事が正しいのであれば、確かにそれでムテキンはリルムの事を好きになってくれるでしょう。
「そんなの好かれてるって言わないよ!」
ですが、そんな恋愛なんてリルム的には願い下げです。
契約を利用した無理やりな方法なんかで、好きになってもらいたくありません。
「良い子ぶって可愛いわね。でも、よく考えてみてよ」
泉の精はリルムに顔を近付け、言い聞かせるように話し続けます。
「あの子の魔法を解いたら、あの子の強さは無くなってしまうのよ? それに解く為には代償だって必要。それで誰が得するの? 弱くなったあの子? それとも、頼まれてもないのに犠牲になる貴女? 私だって疲れるし恨まれそうだしで勘弁してほしいわ」
吐き捨てるように泉の精は言うと、聞き分けの無い子どもにでも言い聞かせるように言葉を紡いでいきます。
「さっきも言ったけど私の魔法は強力よ。滅多な事では負けないわ。それこそ、余程の人間が命を捨ててまで抵抗しようとしたとか、神々の魔法が相手でもない限りね」
(ヴァルハラ所属のお義父様なら勝てるのかな?)
「だから王族である貴女が愛してって言えば、本当に心の底からあの子は貴女を愛してくれると思う。確かに同じ女としては卑怯だとか、そんな恋愛でいいのって思わないでもないけど、誰もが幸せになる道はそれしかないんじゃない?」
「で、でも……」
言っている言葉の意味は解るし、理屈的にはリルムも半ば納得しています。
しかし、心では納得する事が出来ず、否定的な呻き声が漏れ出しました。
「魔法なんてのはね、使わないに越した事はないの。出来ない事があるなら頑張って出来るようにすればいい。それでも無理なら諦めて他の事をするしかない。それが身の丈ってヤツよ」
子どもにでも言い聞かせるようにリルムに言い含める泉の精。
「それでも、どうしても叶えたい事ってあるじゃん!」
しかし、それが逆にリルムの反骨心に火を点けました。
子ども染みた言葉だと解っていても、恥や外聞を怖れずに声を張り上げます。
「望みがあるなら望みに見合った努力や行動をするべきなのよ。そりゃあ努力すれば何でも叶うなんていう程、人生は甘くはないわ。どう頑張ったって無理なモノも、努力したって届かない事だってある。そんな時、何かに頼りたくなる気持ちは解らなくはない」
「だったら――」
「でもね、あの子の願いはどうにもならないほど難しいモノだった? ううん、あの子の年でどんな努力をして、どんな行動をしたって言うの? まだ十歳にも届いてなかった子どもだったのよ?」
反論しようとしたリルムの言葉を遮り、まるでリルム本人が悪い事でもしたかのような強い口調で泉の精は捲くし立てます。
「魔法なんてズルせず、一生懸命、頑張れば良かったのよ。そうすれば今みたいなデタラメな強さは無理でも、この国で一番強い騎士くらいにはなれたんじゃないかしらね。知恵とか色んなモノ、犠牲にしなくても、さ」
激しい口調から一転。
どこか寂しげに呟くと、泉の精は物憂げな表情で俯きました。
「だったら最初からムテキンに魔法なんて掛けなかったらよかったじゃん……」
泉の精の言葉と表情に、反論する気力がなくなったのでしょう。
リルムは拗ねた声で負け惜しみ染みた言葉を呟くしか出来ません。
「……だって一生懸命で可愛かったんだもん。ちっちゃくてさ」
そんなリルムの呟きに泉の精も拗ねたような声で答えました。
どうやらこの泉の精、ちょっとショタコン入っているみたいです。
「ここにも変態が……」
「失礼ね。可愛い子なら男女年齢問わず好きなだけよ」
単純にストライクゾーンがとても広いだけのようでした。
ですが、広過ぎるストライクゾーンの持ち主も世間では変態と呼んでいます。
「じゃ、じゃあさ……」
そんな話は置いといて。




