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第5話 輝きを纏う

 ロアリングに連れてこられたのは、

 [マドール・ブティック]

 とオシャレなロゴで書かれた服屋だった。中には、長く青い髪をした僕と同い年くらいの女性が服を整理していた。


「……あ、いらっしゃいませ。ご予約でしょうか?」

「いや、コイツの寸法を測ってファイタースーツをな」


 僕たちに気付いた女性が声をかけるなり、ロアリングが慣れた口調でそう返す。


「あ、新入りさんでしたか。では、師匠に代わりますね。少々お待ちください」


 丁寧な言葉で、女性は店の奥へと去っていった。

 だけど、何だろう。たしかに言葉こそ丁寧だけれど、どこか冷たいような鋭いような気がする。


「……アイツもファイターだぞ。マジシャンファイター、って言えば分かるか?」

「え〜っと……あ! もしかして、アスマイル⁉︎」


 そこまでファイターには詳しくないけど、鮮やかなマジックでアリジゴクを翻弄する独特な戦法は見覚えがある。


『あ〜ら、こんな可愛い子が新隊員さん?』


 美しい羽を広げて、白鳥獣人の女性が僕の方をじっと見つめる。


「ふぅ〜ん……髪のケア、よし……コーディネートはまあまあ……お肌のケア、ちょっぴり残念……平均点ね」

「あ、あのぉ〜……ちょっと恥ずかしい、です」

「プッ、ダッハッハ! 顔赤くしてやんの!」


 うっ、仕方ないじゃん。こんなにじーっと顔を見られるの、初めてなんだもん。

 それに、この人、なんか魅力的だし……。


「……ちょいとメイト、そのお下品な笑い方いい加減治さないと損よ?」

「メイト……?」

「あっといけね。俺様の本名教えてなかったな。ファイター名はロアリングだが、本名はメイト・オリンポス!」


 オリンポス……? それって、神が住処としている山の名前じゃ……。そんなたいそれた名前がつけられてるなんて、何か理由はあるのかな。


「メイトの後輩なら、わたくしたちのこと知っているでしょう? 政府はね、わたくしたちに神に関係する名を与えているの。神が与えてくださった、奇跡の兵器と考えてね」

「奇跡の……兵器……!」


 何が奇跡だよ。たしかに、奇跡的なことかもしれないよ。人間のDNAと動物のDNAを融合させて成功したことは。

 でも、政府のエゴだけで生まれたものを、命じゃなくて兵器だなんて……。そんなの、神からしたら冒涜でしかないよ。


「フラットちゃん、納得いってないわね。それでいいのよ」

「……はい」


 そう言われるのは嬉しいけど、フラットちゃんっていうのはやめてほしいなぁ。まるで僕が小さな子どもみたいじゃん。


「おいマドール、そろそろ寸法頼むぞ」

「あ、そうだったわ」


 白鳥獣人はこのブティックと同じマドールさんっていうらしい。そうなると、経営者ってことだよね。


「それじゃあこちらにいらして、パパッと測っちゃうから」

「あ、はい!」


 マドールさんに連れられて、僕は店の奥へと案内された。そこには、さっきの青髪の女性もいた。


「師匠、準備しておきました」

「ありがとう、アスカちゃん。それじゃあ、寸法開始よ」


 僕を土台の上に立たせるなり、マドールさんはスイッチを押した。

 すると、僕を囲うようにガラス張りの箱が現れた。


「えっ……?」

「安心して、スキャンするだけだから」

「こちらでデータを保存して、それに合うスーツを作成します」


 かなり手が込まれてるんだなぁ。てっきり身長とかウェストを測ったりするのかと思ったら、ただ立っているだけで終わるなんて。


「……あら、あなたの好みじゃない? こういう体型」

「ちょ、ちょっと師匠。そういうのは……」

「一応、セクハラに該当する場合もあるので言っときますね」


 僕が冗談でそう言ってみると、マドールさんは高笑いした。


「オッホホ、冗談よ。それにしても、ブラックジョークが過ぎるわ、今のがセクハラなら雑談できなくなってしまうもの」

「もう、師匠ってば都合がいいんだから……」

「……いい名前だね、アスカって」


 って、僕何いってんだ⁉︎ 初対面の人に伝えるべき言葉じゃないでしょ絶対。ほとんど無意識で言っちゃったよ。まるで、お風呂を覗くかどうか迷う主人公の体が勝手に浴場へと連れて行かれるかのように。


「あ、ありがとうございます……って、あ!」

「ちょ、何してるのよ⁉︎」


 僕がアスカに変なことを言ったせいで、操作を誤らせてしまった。

 順調に進んでいたはずのスキャンが、中断された。


「……ご、ごめんなさい……」

「まあいいわ、9割は保存できたもの。残り1割は……まあその他の事項だから気にしなくていいわ」

「その他の事項って?」

「健康面のスキャンです。まあでも、見るからに問題なさそうなので」


 なら良かった。健康面には気を配ってるから、ぱっと見で問題ありそうだったら3日は寝込むほどショックを受けてたと思う。


「では、あとはデザインですね。フラットさん、どんなスーツがいいですか?」

「そうだなぁ〜……母さんと同じにしようかな、ガウンで」


 正直迷った。母さんと同じスーツで、母さんと同じ能力を使うファイターなんて知られたら政府にとってこれ以上のない駒と思われるかもしれない。

 だけど、それも1つの手だった。政府に僕の思いを見せつけるいい機会でもある。


「ガウンね……? え、ガウン? あなたのお母様、ガウンをスーツにしてたの……?」

「それって、もしかしてクラリオ様……ですか?」


 2人の表情からは驚きのあまり冷めきっている。当然だろう、僕の母さんは伝説と言われたほどのファイターだ。

 それに、死んだはずの息子が生きている。信じられるはずがない。


「……もう、悪い冗談はよしてちょうだい」

「そうですよ! あの方は、あの惨劇で……」

「はい。僕はそのとき、母さんの血を飲みました」


 恐れない。僕の犯した罪だ、どこに恐れる必要がある。それに、犠牲にしてしまった子どもたちも、惨劇によって死んだと思われている。


 ――全部じゃなくても、殺したのは僕なのに。



「……そう。それでロアーにいるのね、よく分かったわ」

「あの方の息子さんならば、ロアー以上の居場所はないですしね」

「それで……ファイタースーツの話はどこに?」


 こんな話になったのは僕にも責任はあるけど、流石にこんな重いムードをずっと感じるのも苦しいし。ここら辺で話を元に戻しちゃおう。


「そ、そうだったわね。でも、やめたほうがいいわよ、政府に狙われるだけよ」

「わたしも同感です……あ、その前にあれやっちゃうのはどうです?」

「あれって……?」


 いきなり”あれ“って言われても分からないよ。


「そうね、そうするわ。フラットちゃん、これ握ってみて」

「え?」


 マドールさんは引き出しから石ころを取り出して僕の右手に乗せた。

 言われた通り握りしめると、手のひらに入り込んでくる感触があった。


「え、な、何これ⁉︎」

「大丈夫よ。『神器』を形成するだけだから」

「それは神器石(カミグツワノイシ)と呼ばれてまして、能力者に合った武器を形成するんです」


 で、でも体内に入り込んでるけど? これ無害だよね、無害だから握らせたんだよね?


「……うわ⁉︎」


 心配しながら右手を見つめていると、突然水色の光が溢れ出す。それと同時に、僕の手の中へと潜り込んでいたはずの石が段々と形を変えていく。


「これって……!」


 やがて石は水色に透き通った槍へと姿を変えた。さっきまで普通の石ころだったものとは思えないんだけど。


「あとは、名前をつけるだけね。さっ、好きな名前をつけなさいな」

「えぇっ⁉︎ いきなり名付けろって言われても……」


 武器の名前なんて、グラディウスしか知らないよ……。

 まあ、いいや。剣の名前だけど特に問題なんてないでしょ。


「グラディウスで」

「えっ、槍なのに……ですか?」

「ホーリーランスとか他にもいくらでもあるでしょうに……」


 いや、槍の名前なんて知らないし、適当でいいでしょ。ていうか、これって何なの? 神器とか言ってたけど、武器ってことでいいのかな。


「まあ……いいわ。その神器が、フラットちゃんの専用武器よ。それを使ってアリジゴクなんかを相手にするの」

「あ、それと。フラットさん、神器に向かって名前を呼んでください。それでいつでも召喚できますから」


 召喚……? それって、ナックルさんに向かって立体映像からファイタースーツを実現化させるようなことかな。


「じゃあ……グラディウス!」


 そうグラディウスへと叫ぶと、柄に[Gradius]と刻まれた。


「それで大丈夫です。右手を握りしめて召喚と唱えれば、いつでも神器を使えますよ」

「それじゃあ、一旦終了にしましょうか。力、解いて大丈夫よ」

「こう、かな?」


 あまり能力を使ったことがないから、脱力に慣れていない。でも、グラディウスを握ってから何故か扱いに慣れた。

 どうしてだろう……?


「ファイタースーツの件はこっちに任せてもらってもいいかしら?」

「フラットさんに似合うスーツ作りますので」


 今日は神器を作るだけで終わった。結局スーツは寸法だけを測っただけ。まあ、そんなすぐ戦うわけないだろうし……。


「お、終わったか」

「終わった……でいいのかな?」

「今日は神器の作成にしたわ、スーツはまた今度って感じでね」

「ではお疲れ様でした。お代は大丈夫ですので」


 え、タダってこと? 大学寮暮らしだから嬉しいけど、それはそれで悪い気がするな……。


「じゃあまた今度、イベントのゲスト頼んでもいいか?」

「イベントって、子ども向けのあれですか?」


 ファイターって、時々ヒーローショー開くんだっけ。かなり安っぽい舞台で、観客は一面子どもだらけ。大人は保護者だけだし。

 僕は正直、ああいうのを見るのもやるのも苦手だからなぁ……。それに、人前に立つこともあまり得意じゃないし。


「あの、それって絶対ですか?」

「ん? 裏方でもいいぞ、出たいやつが出る。出たくないやつを出しても楽しくねぇだろ?」


 ロアリングの言う通りだ。良かった、強制参加とかだったらどうしようかと思っちゃったよ。


「そうねぇ、子どもたちの笑顔も見たいし、いいわよ」

「わたしも、せっかくですしマジックショーの追加公演をして参加します」


 いいなぁ、そうやって前向きに考えられる人は。僕はできないや。特に、子ども相手ってのは。あの記憶が邪魔をして、対面するだけでも目を合わせられなくなる。


「フラットは裏方か? なら客席整理任せてもいいか?」

「えっ、それって子どもの近く……ですか?」


 メイトは僕の問いに、さも当然かと言うようにキョトンとしながら頷いた。


「当たり前ですよ、子どもたちがみんな座ったままショーを見るわけないですから」

「時々ケンカにもなっちゃうから、それを止めるのが客席整理よ」

「で、でも子ども相手は……」


 裏方なら子どもを相手にいないと思っていたが、こればかりは計算外だった。ファイターショーに出るよりずっと至近距離で子どものことを見ないといけないなんて、考えるだけでゾッとしてしまう。


「……なぁ、お前ってさ――」

「あらいけない、そろそろ時間だわ」


 メイトが僕に何かを聞こうとしたみたいだけど、マドールさんが用事か何かを思い出したようで遮られた。


「えぇ、エドさんがそろそろ来ますね」

「ん? おい、エドってコイツか⁉︎」


 メイトがペーターさんから貰っているエドの写真をアスカに見せた。


「え? えぇ、そうですけど……ロアーが動いてるってことは、そうかして⁉︎」

「保護してこいって言われて……?」


 アスカは僕たちの考えを知って、視線を床へと落とした。何か不安でもあるのか、口元が歪んでいる。


「……わたくしから話すわ。エドちゃんは、危険よ」


 さっきまでの上品で優しい目はどこに行ったのだろう。マドールさんは鋭い目で僕たちへとそう忠告する。


「あの子は、多分どの獣人より人間を恨んでいるわ。アスカちゃんにさえ牙を向き爪をたてるくらい」


 恨まないほうがおかしい。それくらいの罪を、僕と同じ人間が犯しているんだ。

 でも、なんでだろう。前までなかったはずの勇気が胸に宿る。秩序を正そう、なぜかそう思えてくる。自分と少しは向き合えたから、かな。


「……フラットちゃんの目なら、きっと大丈夫ね」

「おいおい、俺様たちを誰だと思ってる? 政府に逆らう組織だぜ、それくらいでひよってどうする」

「うん、僕たちなら大丈夫!」


 今なら大丈夫って、胸を張って言える。ようやく見つけられた、僕の輝き。血まみれになってしまったけれど、全て拭いされたわけじゃないけれど、また輝き出した。

 きっとここでなら、取り戻せる。そう信じてる、この場所が、この場所であり続ける限りずっと――

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