season【ZERO】1話酷似
これは「シン」と「たいぞう」にまつわる少し前のお話─────
~2021年~
「こ、今度の土曜日って空いてる?」
学校の放課後に勇気を振り絞った声が聞こえた。
「え? うん」
少年に誘われたのはクラスメイトの「矢部みさこ」だ。みさこは不思議そうな顔をして答える。
「よ、よかったら一緒に花火見に行かね?」
「え……!行く行く!!でも珍しいね、たいぞうが私を誘うなんて」
今まさにデートの誘いに成功したのは、「岡野たいぞう」という少年。中学二年生だ。みさこが答えた瞬間、たいぞうの胸の鼓動は高鳴り続ける。たいぞうは一息つくと。
「よかったー!あそこの花火綺麗らしいからさ。そんじゃあ詳しいことは後で連絡するから!」
安堵したたいぞうは満面の笑みで教室を後にする。
「わかった! 楽しみにしてるねー!」
みさこは満面の笑みでそう言った。たいぞうも思わず笑顔になる。そして、みさこと別れた後、すぐさまにたいぞうは自分の家に帰った。
「やった……ついにやったぞ!」
たいぞうは部屋の中で大きくガッツポーズをする。たいぞうの心の中には喜びしかなかった。
「でも、本当に大丈夫なのかな……。」
たいぞうはふと…いくらなんでも急すぎたかもしれない、それにもし嫌われたらどうしよう。と、不安の声が浮き出てくる。そんなことを考えているうちに眠気がたいぞうを襲う。
「ふあぁ〜」
たいぞうはそのまま眠りについた─────
「たいぞう!たいぞう!」
目の前には泣き叫ぶみさこの姿。視点は赤くどす黒かった。
「………─────」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
たいぞうは飛び起きた。全身から汗が流れ出ている。
(──夢か……。)
ふと時計を見ると既に八時半を過ぎていた。
「一夜明けてる!?」
たいぞうは夕方から今までずっと寝てしまっていた。急いで支度をして家を出た。
「なんとか間に合った」
たいぞうが息切れをしながら教室に入るといつものようにみんなが挨拶する。その中にはみさこもいた。みさこはいつも通り元気いっぱいといった様子。その姿を見ただけでたいぞうは少しだけ心が落ち着くような気がした。昼休みになると、たいぞうは一人で屋上へと向かった。今日は誰かと食べる気にはなれなかったのだ。
(不安がヤバイ……)
たいぞうがそんなことを思っていると後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはたいぞうの同級生がいた。
「あれ? 確か4組の……」
「佐藤りょう……りょうでいいよ。岡野……君だよね?それより君こそなんでここに?」
りょうが笑顔で言う。
「俺は……気分でも変えようとね。りょう……君は?」
「君付けはよしてよ。僕はよくここで弁当を食べているんだ」
たいぞうは内心気分が晴れていくことに気付く。
「……なんでここで?」
「この街の人はさ、みんな仲良くて。ほら見てあそこ。あの八百屋さんの夫婦、すごく仲がいいんだ。僕はね、こんな何気無い日常がたまらなく尊いんだ」
「そっか……」
(多分この人はいい人だ)
たいぞうが直感でそう感じる。
「で、岡野君は何を悩んでの?」
「え?なんでそれを……」
たいぞうが図星の反応をしてしまう。
「やっぱりか、顔を見てたらわかるよ」
たいぞうは素直に関心してしまった。たいぞうはりょうの隣に座ると語り始める。
「俺さ、好きな人がいるんだ」
(──そうだ、この人にだけは相談してもいいかもしれない。)
なぜかわからない、しかしたいぞうはそんな気がした。だから、全てを話した。花火大会に誘えたこと、そしてそれが途轍もなく不安ということを全て話した。話している間、りょうは黙って真剣に耳を傾けていた。
「──ということなんだけどさ。どう思う?」
たいぞうが全てを語り終えた後もしばらくの間、りょうは考え込んでいた。そしてようやく顔を上げるとこう言った。
「なるほどねぇ……。それは脈ありだと思うぞ! 僕は矢部さんと付き合えると思う!」
その瞬間、たいぞうの心の中にあった不安や迷いはすべて消え去った。
「ありがとう!りょうくん。俺、頑張るよ」
「だから君付けはやめてくれよ」
りょうは笑ってそう言う。
(きっとうまくいくはずだ)
────────
みさことデート当日になった。待ち合わせ場所は駅前である。時間は午後七時だが、まだ五時半だというのにすでにたいぞうは緊張していた。みさこに会ったらまず何を話せばいいのか、どんな服装をしているのだろうかなどと考えているうちに時間が過ぎていく。
(ダメだ、やっぱり緊張する……)
────もう諦めて帰ってしまおうかとも思ったが、やっぱり無理だった。
たいぞうは待ち合わせ時間の三十分前に着いてしまった。それから十分くらい経った頃、遠くからこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
(来た!!)
たいぞうは思わず心臓が飛び跳ねそうになるが必死に堪えた。やがてみさこが目の前までやってきた。
「待った?」
「い、今ちょうど来たところだよ」
「ほんとう?」
「う……うん」
「ならよかったー」
そう言うとみさこの表情がパッと明るくなった。たいぞうはそれだけで嬉しくなった。
「じゃあ行こっか」
「うん」
たいぞうは返事をして歩き出す。今日のみさこはいつも以上に可愛かった。いつも可愛いのだが、今日は特にそう感じた。まるで天使みたいだとさえ思ってしまう。
「どうかした?」
「え? ううん、なんでもないよ」
─────危なかった……見惚れているところを見られるなんて恥ずかしすぎる。
「そういえば、どこ行くの?」
ふと思い出して尋ねた。
「え? そんなの決まってるじゃん! しゃ・て・き♡」
「お・も・て・な・し」を彷彿とさせる話しぶりでみさこは答える。
「え、 射的? どうして……?」
「どうしてって、たいぞうやりたかったんじゃないの? 花火大会のときに」
「あ、そういうこと……」
たいぞうは一瞬ドキッとしたがなんとか平静を装った。
──もしかして覚えていてくれたのかな?
「ねえ、早く行こうよ」
たいぞうが惚けているとみさこが手を引っ張る。
「あ、ああ……」
たいぞうたちは最寄りの射的屋へと向かった。
────パンッ!!
「くぅー!惜しい!」
「たいぞう頑張って!」
たいぞうは景品が取れるかなんてどうでもよかった。ただ、この一時がとても……居心地がよかった。
ずっと会話が途切れることはなかった。楽しんでいると、そこにはクラスメイトの「シン」と「りょう」がいた。
「あれ、たいぞうにみさこじゃん。こんなところで何してんだよ?」
「え、えと……」
たいぞうが答えようとすると、みさこが口を開いた。
「デートしてたの」
「え、ちょ……」
「なるほどなぁ……いいねぇ」
シンがニヤニヤしながら言う。
「ねえ、邪魔したら悪いよ。もう行こう」
「だな」
────マジありがとう!!!!!!!りょう!!!!!
時間はあっという間に進み、別れの時間が来てしまった
──どうしよう……。
たいぞうは迷っていた。ここで別れたらもう二度と会えないかもしれない。せっかく仲良くなれたのにそんなことになってしまうのはいやだ
たいぞうの頭は後悔に進む一方だ。
たいぞうは勇気を出してこう言った。
「あのさ……良かったらウチ来る?」
たいぞうの手は震えていた。
「えっ!? いいの?」
みさこの反応はたいぞうの予想を外れた。
「も、もちろんだよ。それにもっと話したいしさ」
「うん、わかった。じゃあお言葉に甘えてお邪魔します」
みさこは笑顔を浮かべて言った。たいぞうも自然と笑みがこぼれた。
────
「ただいまー」
「おかえり、遅かったね……って、え?」
母が驚いているのを見てたいぞうは簡単に説明した。
「あぁ、この子は同じクラスの子だよ」
「みさこです。よろしくお願いします」
「あら、息子からよく聞いてるわ。いい子ねぇ」
「茶化さないでよ母さん」
たいぞうを見てみさこがクスッと笑った
「とりあえず上がってよ」
「はい、お邪魔しまーす」
たいぞうがみさこをリビングへと案内する。みさこがソファーに座るとお茶が出てきた。
「ありがとうございます」
「気にしなくていいのよ。今日は来てくれてありがとね」
たいぞうとみさこは茶を飲みながら今日のことを振り返り一夜を楽しんだ。
────────
「────じゃあ、今日はこの辺で失礼します。ありがとうございました!」
みさこがたいぞうの母に頭を下げる。
「こちらこそありがとね。また来て頂戴ね」
「じゃあたいぞうもじゃあね」
「あぁ!また来週!」
みさこはたいぞうの家を後にする。
「………」
たいぞうが立ち尽くしていると母がニヤニヤすると
「あんた中々いい娘に目を付けたねぇ~」
と言い肘でつつく。
「やめてよ母さん。そんなんじゃないよ~────」