season【ZERO】4話過去と未来
「シンはさ、案外いいやつだよね」
「そうかぁ?」
ある日の放課後、夕日がさす教室でシンとりょうが話している。
「うん。だからさ、大きくなっても一緒にいたいや」
シンは少し照れくさそうに。
「………そうだな───」
「………」
シンの目の前には息絶えたりょうの姿があった。赤鴉はシンの攻撃を受け、上空に吹き飛んでいた。
「はっ………!なんちゅー馬鹿力だよ!」
赤鴉は平然と着地を成功させ次に攻撃へと移るため、シンに向かって一直線に走り出す。その表情は笑っており、常軌を逸していた。それに対し、シンの表情は無表情で冷徹な目をしていた。その心情は強い怒りに包まれていた。
「創造:剣!」
赤鴉が無数の剣を創り出す
「剣の舞!」
無数の剣が次々とシンに向かって一直線に飛んでいく。透かさずシンは自身の剣で攻撃に対応する。剣が折れるとシンは赤鴉に近づき拳との勝負に持ち込む。
(こいつ身体能力だけなら俺より上…しかもこれは…魔力強化……)
赤鴉にシンが押される。
「オラァ!」
「鉄拳!!」
シンと赤鴉の拳が衝突する。シンの腕から血が吹き出る。
「くっ……!」
シンが怯んでいると、透かさず赤鴉が攻撃を仕掛ける。
「鉄甲虫!!」
巨大な鉄を纏った幼虫のような魔獣がシンに突っ込む。その勢いのまま住宅を貫通する。
「オラァァァ!!!」
シンが魔獣を倒すと、魔獣は灰のように散っていく。
(あいつ……魔獣を飼ってやがった……!)
「断絶!」
赤鴉が住宅を挟んでシンに攻撃を仕掛ける。家は真っ二つになり、その斬撃はシンに向かって進む。シンも同じく「断絶」を使用し相殺する。
「破壊!」
シンの手中に黒く禍々しい渦巻きが現れ、シンはそれを放つ。赤鴉は咄嗟に巨大な鉄の壁を生成するが、粉々になる。しかし、その場に赤鴉は居なかった。シンの背後には襲いかかる赤鴉がいた。
「金属爆発!!!!!」
攻撃をシンはもろに受けて遠くへ吹き飛ぶ。
「がっ……!」
勢い強く地面に叩きつけられたシンはその場でうずくまる。
「ハァ……ハァ……」
その場に赤鴉が到着する。
「なんだぁ?もう終わりか?……!?」
赤鴉がシンの傷が癒えていることに気付く。
「たいぞう……ありがとう……」
(あれは……!岡野たいぞうのユニークスキル……!他者のスキルを模写することが出来るのか……!?いや……だとしたら俺のスキルを使っているはずだ……まさか、死者のスキルを扱う事が出来るのか……!?)
「異質過ぎるだろ……」
赤鴉が冷や汗を垂らす。
「が、問題は無い……お前を確実に殺す」
赤鴉は自身の気持ちを落ち着かせ、目的を再確認する。
「殺ってみろよ……厄災を……!」
お互いが睨み合い、同時に距離を詰め再び拳の攻防が始まる。シンが赤鴉の脇腹に向かって思いっきりの打撃を決めるが赤鴉は鉄の装甲に覆われており、シンの拳から血が吹き出る。反撃の拳を赤鴉がシンの顔面に当てるがシンは怯むこと無く攻撃を続ける。
(魔力強化をしている以上打撃も効果が薄いか……だが……)
赤鴉が狙い通りという反応する。それはシンが再びスキルを発動し、傷を癒したことだった。赤鴉は拳に魔力を集中させ、シンの溝内に拳を食い込ませる。
「ぐはぁっ……!」
シンは思わず口から血を吐き出す。
(やっぱり回復スキルと魔力強化の運用は出来ない……!)
赤鴉は予想を的中させる。シンは一瞬意識が飛ぶ。赤鴉はその瞬間を見逃さなかった。
───開戦───
【業魔・鉄螺旋】
「……っ!!」
「アイアンゲイザー」
足元から膨大なエネルギーが鉄の柱となってシンを襲う。
「ぐぁっ!」
蓄積するダメージはスキルでは消せずシンは膝をつく。
(……摂るんだ……!たいぞうの……みさこの……りょうの……!仇を……!だから……)
「てめぇは……ぶっ殺さなきゃいけねぇんだァァァ!!!」
シンの魔力が増幅し、溢れ出す。
「なんだ!?いや……関係ねぇ!鉄人形!」
生成されたのは鉄で出来た人間そっくりの多くの戦闘人形だった。人形たちは一斉にシンに向かって飛びかかる。
───開戦───
赤鴉の開戦の結界が剥がれていく。
(押し切られ……!)
開戦によって形を保っていた鉄人形が溶けるように崩れる。
【混沌】
赤鴉を前に八つの龍の頭が現れる。同時に攻撃を仕掛ける龍を赤鴉は剣で首を切断していく。
「はっ……!魔力は凄まじいが、技術じゃ俺には劣っていたな!」
赤鴉は勝利を確信する。次々と龍の首を落としていき最後の龍の首を落とす。
(そういや……結界の本体はどこに……)
赤鴉がシンの居場所を探る。すると、結界がガラスのように割れて剥がれ落ちていく。
「結界の二枚重ね……!?」
剥がれていく結界の奥からシンが姿を現す。シンの魔力は圧倒的なものだった。赤鴉は体の芯からの震えを覚える。
「武者震いか……」
(なるほどな。結界を二枚重ねの極大バフ……まさに神業だな…)
赤鴉が覚悟を決めると
「最期の勝負と行こうか...!」
赤鴉とシンは互いに構えを取る。
「創造:剛鉄魔神!!」
赤鴉の背後に神々しい魔神が現れる。魔神は中央に魔力を集中させ、一気にシンに向かって放つ。
「最大火力!!!これが本気だァァ!!」
赤鴉の魔力が溢れ出す。シンが向かってくる魔力の砲弾に向かって指を2本翳す。
「終焉之一撃」
指の先からとても小さいエネルギー弾が放たれる。だが、その大きさからは想像出来ない程の火力で砲弾をかき消し、魔神及び赤鴉事消し飛ばす。
「あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
(これが……!魔王っ…………!!)
シンの攻撃は辺りの住宅を吹き飛ばした。強敵、赤鴉に勝ったシンだったがどこか浮かばない顔だった。しばらくすると、りょうたが手配した助けが来て、今回の件は赤鴉のテロ行為として片付けられた。
───────記録
(被疑者)
通称 赤鴉:本名不明(死亡)
(被疑者対峙者)
鱒渕シン(負傷)
佐藤りょう(死亡)
岡野たいぞう(死亡)
矢部みさこ(重傷)
──────────
シンは状況を整理するため本部へと戻った。本部に着くと、すぐさまにりょうたが出迎える。
「りょうは……?」
りょうたが少し不安そうに聞く
「りょうは……間に合わなかった……!」
シンは拳を強く握る。
「……そうか…」
心のどこかにあった予想が的中してしまったりょうたは涙を零す。
「俺のせいだ……」
「いや、お前のせいじゃない。悪いのは被疑者だ。」
「………」
「りょうはな俺の弟なんだ。けど、あいつはそれを知らないんだ。生き別れって奴さ」
「……!なんでそれを今まで言わなかったんだ……?」
「りょうには、知らないまま生きてて欲しかったんだ…………そう……生きてて欲しかったんだ……!!」
りょうたは再び下を向き涙を流す。
「……っ!」
シンも気持ちが高ぶり涙が溢れる。
─────
あれから2週間経った日、シンはたいぞうの葬式に参列するために訪れていた。一命を取り留めたみさこも参列をしていたが終始涙が止まることは無かった。そして、葬式が終わり休憩場にシンとみさこがいた。
「たいぞうは……最後になんて言ってた?」
「…………私の事好きって」
「…………そうか」
「ねぇ、シン」
「ん?」
「私もさ、シンと同じとこに入れて欲しいの」
「…………たいぞうはお前には安全に暮らして欲しいと思うぜ」
シンが何かを察したように言う。
「わかってる。だけど、私と同じような人をもう増やしたくないの」
「……ハァ……わかった。りょうたには言っておく。但し、絶対無茶はすんなよ」
「ありがとう……」
─────
〜本部〜
「いいかね佐藤くん、奴らからは目を離すんじゃないぞ。3人の厄災の子だ」
本部の上層部に命じられていたのは政府直属部隊団長こと佐藤りょうただった。
「はい、わかっております。小山くるみ、白谷りお、鱒渕シンの3人は私が背負います」




