ハゲとのツーショット
新しい朝がきた!
そう、朝から美人の顔を見て起きるという最高の目覚まし時計がここにいればある!
「なにニヤニヤしてるの? 早く起きて」
「はいはぁ〜い」
部屋別なのに、わざわざ起こしに来てくれるシンスという美人に感謝。
ジャージ姿のまま、サンダルを履いて部屋を出た。
シンスに引っ張られながら、服を着替えて食堂に向かう。
食堂はとても広くって、寮が丸々一つ入るんじゃね?──と思うくらい。
「おお、なかなか遅いではないか。お寝坊か?」
「いいや、これはわざと寝坊をしているのだ」
ラーシャは相変わらずバッチリメイクで決めている。
そんなギャルに、胸を張って返事をしてる僕はどうかしてるんやろか。
チラリと、長ぁーいテーブルに置かれたラーシャのお皿の中身を見る。
「さ、サラダだけぇ!?」
意味わからん。
なんで野菜しかないん!?
こういうバイキング朝ご飯って、自分の好きなものばかり食べられんのがいいって言うのに。
野菜どんだけ好きやねん、コイツ。
「油っこいものは食べられぬのじゃ」
「でも、偏るんじゃないの? 栄養」
「ふっ、麻呂は其方のように軟弱でひ弱な人間とは違う。麻呂はな、僵屍ーなのじゃ!」
「きょ、キョンシー?」
キョンシーって、アレやろ?
中華服着たゾンビって感じの奴。
軟弱でひ弱なんはそっちじゃん。
日光浴びたら消滅するとかしないとか、って聞くし。
「じゃあ、ぴょんぴょんしながら歩くやつやってよ!」
「断る。あんな流行に乗り遅れた移動方法など、恥ずかしくてやれぬ」
「ケチ」
キョンシーにも種類があるんやろな。
こういうギャルへと変身したキョンシーが目の前にいるから、納得納得。
「ノヴァ、早く食べなきゃダメじゃない」
「わかったぁ······」
一旦、ギャルキョンシーとの会話を終わらせて、朝食に戻る。
僕は朝はパン派。
朝からお茶って、なんか無理なんだよねー。
喉が受け付けないって言うか、なんていうか。
そんなことを思いながら、ハゲとのツーショットのことを思い出す。
「うーん、どういうアングルで撮ろっかな」
「いや、そんなこと考える必要ないでしょ」
事情を知っているシンスが、となりでそう言った。
「いや、大事だから」
一番ツルピカのところが目立つアングルで撮った方が、レイ君も喜んでくれるはず!
そしたら友達じゃなくて、親友になってくれるかもしれないじゃないか!
「逆に引くわよ」
冷静なツッコミ、いらんです。
大事なのは、ノリと勇気だけだから。
口に朝ご飯を詰め込んで、ご馳走様を言う。
「ほひほうはま(ご馳走様)」
「詰め込みすぎ」
──ったく、最近の子供ったらショーもないことでいちいちうるさいのだわ。
帰りながらパンを飲み込み、牛乳持ってきたら良かったなと思った。
部屋に戻って制服に着替えて教室に入ると、そこには既にみんなが揃っていた。
「おっせぇな」
「どれだけ着替えに時間がかかっておるのじゃ」
「やっぱり、一緒に来た方が良かったわ」
なんか僕、シンスがお母さんに見えてきたんだが。
別に遅刻してるワケじゃないし、ゆっくり席に着く。
レイ君を探すと、窓側の席で音楽を聴いていた。
「レイ君おはよう」
「······おはよう」
棒付きキャンディをいつもくわえてるけど、それって何味なんやろ。
とりあえず今は、ハゲとのツーショット作成に集中しないと。
やっぱり、寝てるとこ撮んのが一番いいだろな。
顔に落書きしてやんのもいいかも。
にしししっ。
「おい、ノヴァの奴なんか気味悪い笑い方してっぞ」
「病気か?」
「もう末期だろうな。手遅れ手遅れ」
──後ろの席で、そんな会話をイオンとラーシャがしていたとかしていなかったとか。
いや、全然聞こえてへんかったわ。
そんなに僕耳悪くないと思うんやけど。
やっぱ、集中すると周り見えんくなるタイプ?
その夜、僕は学園長の部屋に忍び込んだ。
なんで部屋知ってるかって?
ねんでだろうね、逆に。
僕だって知りたい。
なんか部屋戻ったら、この学園の地図みたいなのがベッドに置いてあったんだもん。
「ししし、寝てる寝てる」
寝る時は流石にカツラ取るみたい。
さて、本日の三分クッキング。
取り出しましたのは一本のマーカー。
モチのロン、油性でございます。
「では、一投目」
瞼に新しい瞳を生み出して、睫毛を目玉から直接生やしていく。
上出来じょうでき。
次は鼻だな。
鼻毛もともと何本か出てるけど、ここは毛量増やしといた方がいいよね。
頭の代わりに、ここはフッサフサにしてやろう。
よし、出来た。
これなら鼻に育毛剤入れんくても大丈夫やな。
最後は唇。
もともとあった唇を黒く塗りつぶして、もっと大きくしていく。
うーん、もっと鼻毛増やしとこ。
数分後、力作が誕生した。
「これ、ノーベル賞貰えんじゃね······?」
とりあえずピースサインの僕も入れて写真を撮っておく。
任務完了!
お疲れ様、僕。
部屋に戻って、即寝落ちしたのだった。
次の日、教室に入ると、なにやらうるさかった。
「このクラスのアホがやったのだ! 今すぐ全員集めろ!」
「あと一人で揃う。少しくらい待てないのか、学園長」
「早くしろ!」
あれは······。
鼻毛の毛量増やしてあげたオッサンと、キツネ仮面ババアだ。
なんか、僕やっちゃった系?
うーん、多分僕が落書きしたのがやばいんだろうな。
「おはよ〜」
「っ、ノヴァ!」
シンスが勢いよくこちらを向いた。
そしてそれは、オッサンも同じで。
「キサマか! この私に落書きをしたのは!」
「え、なんのこと?」
こういうのは知らんぷりするのが一番。
「とぼけるなよ、ガキめ! 学園長の権限で、お前を退学にしてやってもいいんだぞ!!」
「た、退学ぅ〜っ!?」
それだけは。
それだけはダメだ。
焦りから、僕は失言を連発してしまった。
「ま、まぁ僕なら鼻毛なんてかかな······」
あ、やべぇ。
オッサンがニヤリと笑った気がした。
いやちゃうな、完全に笑っとる。
「ほう? 何故描かれたモノを知っている? 私は今、落書きを全て落としているというのに」
「え、っとぉ〜〜」
「やはりお前だったのだな! 罰として、キサマは今日、この学園を全て綺麗に掃除するのだ!!」
「げ、げえぇ〜〜ッ!?」
さ、さいあく。
そんなこんなで、僕は今、学園の中にある本棚の埃を払っていた。
埃が舞って、くしゃみが出る。
「っ、くしゅんッ」
なんだよあのタヌキ親父。
いつか絶対ぶっ殺してやる。
「あれ? なにこの紙」
埃と一緒に一枚の紙が舞ってきた。
よく見ると、それにはバツが描かれていて。
まさか、これはもしや······!?
「この学園の宝の地図!!?」
なんちゅうこっちゃ!
まさか学園の掃除してたら、宝の地図が見つかるなんて。
これは是非とも皆に見せるべきだ。
ワクワクが治まらないまま、なんとか掃除を終わらせて寮に向かう。
あんまりちゃんと掃除した覚えはないけど、大丈夫だよね。
シンスは、寮のリビングにあるふかふかなソファーに座って寛いでいた。
気づかれないようにそーっと近づいて、耳の近くで叫ぶ。
「シ〜ンスぅ〜っ!!」
「なかなか早いわね。ちゃんと掃除したの?」
あまり驚かなくてこっちが驚いた。
だって、微動だにしなかったもん。
「そんなことどーでもいいっ!」
そう言ったら、溜息をつき始めた。
なんか呆れられたけど、マジでどーでもいい。
今はこの地図を見せるのが一番!!
ばーんとシンスの前で地図を広げて見せる。
「なにこれ」
「宝の地図」
「へー、宝の地図」
あれ、思ったより驚かない?
僕の演算予想では、百パーセント驚くって出てたのにな。
「宝の地図って······どーせ偽物よ。探すのは勝手にしてよね」
「そうやって決めつけるのはダメだぞ」
話に割り込んで来たのは、イオンだった。
「へぇ、イオンだっけ? 君ってなかなか強そうだけど、何者なの?」
「お前には言われたかねぇよ。オレが最強だと思ってたっつーのに、オメーぜってぇクソ強だろ」
「なんのことやら」
ほぉ······?
目の前で僕を除け者にするとはなかなかの度胸あるじゃねぇか。
「目の前でイチャイチャすんな」
「「してない!!」」
ほら、やっぱりイチャイチャしてる。
僕、リア充嫌いやわ。
本日から、リア充撲滅委員会会長になろーっと。
「うるさいのぉ。静かにせい」
「なにやってんの······?」
いつの間にか、ラーシャとアンがリビングに来ていた。
ラーシャはなんか不機嫌そう。
「コイツが宝の地図見つけたって言ってんだよ」
「どーせ偽物よ」
「いや、絶対本物やし」
僕はラーシャとアンに宝の地図を見せながら、二人の反応を窺った。
ラーシャはきっとワクワクするんじゃないか?
僕と同じ思考の持ち主みたいだし。
アンは······どうだろう。
あんまり興味無さそう。
──そう、思ったが。
「宝の地図? 麻呂はガラクタには興味ないのじゃ」
「お宝!? 見せて見せて!」
まさかの逆だった。
あ、あれぇ?
「アンは骨董品に興味があるっつーか、変なもん集める趣味あんだよ」
「へー、そう······」
イオンはなにやら、この前はああだったとかその時は大変だったとか呟いていたけど、僕はそんなことには興味ないんですけど。
でも、これなら宝探しにアンが着いて来てくれるからも。
「じゃ、じゃあ! 一緒に探しに行こう!?」
「もちろん賛成!! こうなったら準備しなくっちゃ!」
「やった!」
どーせ明日は授業ないし、こうなったら絶対にお宝見つけてシンスにぎゃふんって言わせてやる!
──そんな僕を呆れた目で見ていたのは、シンス。
(先回りしてお宝置いとかないと)
そうでもしないと、ノヴァは悲しむだろう。
だから、ぎゃふんって言ってあげなきゃ。
──そんなことを考えてたらしい。
僕がそれを知ったのは、すべてのことが終わった時。
「ねぇ、皆で行こうよ」
「そうよ、人手が多い方が助かるし」
「仕方ないね、行ってあげるよ」
「マジ? 神様仏様シンス様〜!」
シンスは思った。
神様とシンス様って同じじゃね?──と。
「オレも行くぜ。暇だからな」
「むぅ、仕方あるまい。其方らがそんなにも行きたいと懇願するのならば、行ってやっても良い」
「別に懇願はしてない」
僕がそう言うと、ラーシャが涙目になって抱きついてきた。
「嫌じゃ、行くのじゃ!」
あ、うん。
それは分かった。
分かったから、その、抱きつくのやめてほしい。
「おやぁ······? そちらの方もイチャイチャされているでありませんかぁ?」
「あらぁ、ホントねぇ」
イオンのクズと、シンスの馬鹿が調子にのって色々言ってきてんのが腹立ってくるから。
クソが。
でもこれは僕はイチャイチャしてるつもりねぇし、ラーシャが勝手に抱きついてるだけだし?
別に全然リア充じゃないもんね!
「仲間外れとかサイテーだわよ? ノヴァちゃん」
「ふざけんじゃねぇぞバッカ眼帯野郎」
「ぶっ殺すぞテメェ」
「イオンもノヴァもうるさい。深夜に騒ぐな」
ほらー!
イオンのせいでシンスに怒られたじゃん。
サイテー野郎はオメェだよ。
この──
「エロ親父イソギンチャクうるさい」
──そう、エロ親父イソギンチャクめ。
あれ?
「──お? 寂しがり屋」
さっきまで二階の部屋にいたレイ君がリビングに降りてきていて、赤髪イソギンチャクを睨んでいた。
おー、ちっかぁ。
これがイケメンの横顔か。
「寂しがりじゃないし。ココア飲みに来ただけだし」
「ツンデレかー? 可愛いとこあんじゃねぇか」
あのイソギンチャク、レイ君にまで手ェ出しやがったな。
許さん。
「なんか二人、仲悪そうに見えるけど知り合いよね?」
シンスがそう僕に呟くと、それを聞いていたアンがクスクス笑いながら答えた。
でもその顔が一瞬冷たくて。
二人をその瞳に閉じ込めるようにじっと睨んでいたのを、僕は見てしまった。
「二人はね、昔は仲良かったらしいんだよ。でも、いつの間にかこうなっちゃった」
「らしいって、アンもあの二人と知り合いでしょ?」
「まぁそうだけど、二人はもっと前から知り合ってた。
そこに割り込んだのが私」
「なら、なんで二人のこと詳しく知ってるの」
「聞いたの。ルイに」
「「ルイ?」」
アンはそこまで言うと、これ以上は話せないやと言って、口喧嘩をしている二人を止めに行った。
みんな、嘘吐きだ。
笑顔の仮面をかぶってんのか、素の自分を押し殺してんのか。
自分の黒歴史が本当に話したくないモノなら、僕は本当に話さない。
でも、この世の中には話す奴がいる。
それも、話を盛りに盛って。
そしてそれを、笑いながら。
それが悪いとか、ダメとかそういうんじゃない。
一個言いたいのは、自分の不幸を笑えて凄いねってこと。
「馬鹿って、阿呆って、凄いんやな······」
「自分で自分のこと褒めてんの?」
おい。
どーゆーことや。
シンスの今言ったことは独り言。
そう、独り言だから。
きっといつか、僕にも言えんのかな。
自分の不幸を、このクラスのみんなに、面白おかしく。