クラスメイト
目の前に立つ女は、なんとも言えない覇気をまとっている──ように僕には見えねぇ。
ただのキツネ仮面ババアだろ。
「ノヴァ」
「はぁい」
テング野郎に呼ばれて、真面目に返事するわけない。
テキトーにやんわり答えとけば、それでいいのだ。
出席確認とかいらないと思うんだけどな。
「······よし、では今からテストをする」
ふ、ふざけんな。
入学してすぐにテストとか、どういう神経されていらっしゃるのか。
「テストと言っても、ただロボットと戦うだけだ」
「ぶっ壊しても構わないのか?」
「ああ、ロボットが動かなくなりゃそれで合格」
「楽なもんだな」
イオンがニヤニヤ笑って何やら考え始めた。
絶対ヤバいことしでかすんだろう。
こりゃ、地球の反対側まで逃げた方がいいや。
僕はそう思いながら、校庭に向かったのだった。
校庭に着くと、六体のロボットがお出迎えしてくれた。
まず来たのは、挨拶という名の地面をヒビ割れさせる強力なパンチだけとね!
いきなり殺しに来とるやないか!!
もっと平和的に出来ないのか?
「誰が一番早くぶっ倒せるか勝負しようぜ!」
イオンがそう言いながら、ひらりとパンチをかわす。
その軽やかさは、まるで猿だ。
その時、ロボットに手をかざした者がいた。
「じゃ、さっさと終わらせてもらうね」
──ドサリ。
がくりとロボットが倒れ込み、そばにいた女はニヤリと笑う。
「あの野郎······」
「ま、しゃーないよねぇ」
「なんじゃ今の······見えなかったぞ」
イオンが悔しそうに顔を歪める。
僕は普通に納得する。
ラーシャは困惑していた。
そして、レイ君とアンと呼ばれていた女は、少しだけ目を見開いて驚いていた。
「チッ、先越されちまったぜ」
そう言いながらも、イオンはしれっとロボットを木っ端微塵にしていた。
あんなヤバいエネルギー弾撃っちまったら、そりゃ木っ端微塵になるでしょうよ。
「麻呂のチカラ、見せてやる!」
ラーシャもなんかやる気になってた。
素早い動きでロボットに触れると、にぃと顔を歪めて──
ドンッ──
急にロボットが、地面に叩きつけられるように崩れ落ちた。
「わははは! のろいのぉ、雑魚だったな!」
そうやって笑うラーシャ。
なんか楽しそうだから、テキトーに「ヨカッタネ」なんて言っときゃ大丈夫だと分かってる。
「めんどいね、ホントに」
そう言ったのは、近くにあった花壇に座って休んでいたレイ君だった。
休んでるって言っても、度々ロボットからの攻撃が飛んでくる。
それを氷の盾で防いでるから、完全に休んでるワケではないみたいやけど。
レイ君が急に、ドンッと勢いよく地面に足を叩きつけたと思ったら、さっきまでレイ君に攻撃してたロボットに何本かの氷柱が刺さっていた。
ピクリとも動かないロボット。
「うわぁ、なんかみんな凄いな」
「ホントね、共感する」
隣にいたのは、真面目そうな子──アンと呼ばれていた女子だった。
「戦えんの?」
「私はそんなに。他の奴らがヤバいだけなの」
「それには同感」
話していたら、ロボットが何やら攻撃を仕掛けようとしていた。
だが、その前に動いたのはアンやった。
目で追えない程の速さでロボットに近づき、無造作に右手を出す。
そして次の瞬間、右手から炎が現れ、ロボットが炎上する。
「君もだいぶ戦えるようですけど?」
「アイツらに比べたらしょぼいでしょ」
「えぇー······」
なんかみんな怖いんやけど。
多分僕が一番弱いやん。
「はぁ、やだなぁ」
残ったロボットに目を向けながら、軽く準備運動をする。
そりゃまあ、みんな強いでしょうね。
だってみんな、能力もってるんだし。
十歳までに必ず発現する能力──それは、十人の神のうちの一柱のチカラを扱えるようになる。
ちょっと一人例外っていうか、神そのものがいるけど、それ以外のみんなは、神のチカラの一欠片を扱っていた。
僕には、それがない。
神のチカラの一欠片を扱えるということは、その神の加護を受けているということになる。
つまり僕は、誰の加護も受けていないってワケ。
だけど、そんなんでへこたれやしない。
加護を受けていないからって、弱いわけじゃないし。
タンッと勢いよく地面を蹴り、ロボットの核めがけて右手を伸ばす。
そしてその勢いのまま、鋼の外骨格を貫き、中にあった核を握りつぶした。
「僕の勝ち」
周りを見ると、みんな驚いた顔をしていた。
中には僕を心配するような目で見つめる奴もいる。
あー、うん。
そりゃ、なんか思うとこあると思うんやけど、僕だって思うとこあるから。
すげぇエネルギー弾撃ったり、氷出したり、炎出したり。
結構アンタらもやべぇことしてると思うんですよ?
「ノヴァ! ちょっと、怪我してない!?」
「ふっ、怪我なんかするもんか。全然大丈夫!」
「素手でロボット殴るとか、頭イカれてるわ······!」
それなら君が武器くれたらいいじゃん。
なかったから素手でいったの!
シンスが心配そうに右手を見つめてたけど、なんも怪我してねぇって。
「はははっ! おめぇ、面白い奴だな」
「なんだイオン、素手でロボット壊さなかった臆病者め」
「なんだと!? ふざけんな!」
「「やめなさい!」」
イオンはアンに。
僕はシンスに押さえつけられて、ただ相手を睨むことしか出来なかった。
ちょっと一発やってやるだけだっつーの!
「やはり、問題児が勢ぞろいしたクラスだったな」
ポツリとそう呟くのは、あのキツネ女。
取り敢えず、お疲れサンバと心の中で言っといてやった。
可哀想にね〜、こんな僕みたいな問題児を相手することになっちゃって。
「教室に戻って、制服に着替えろ」
そんなキツネ女の言葉でみんなはぞろぞろと教室に戻っていくのだが、その間も僕とイオンは、睨み合っていたのだった。
教室に戻ると、そこには色んな種類の服が置いてあった。
「そこから自分の着たいものを選んでおけ。選び終わったら、寮を案内する」
どうやら、自分でコーディネートするみたい。
十分くらい選んで、僕はシャツとズボンにした。
そんなに特徴のない、どこにでもあるシャツ。
真っ黒なズボン。
そこに上から、もともと自分がきていた上着を羽織って、完成!
黒いベース生地に、ラーメンの器にありそうな赤のぐるぐる巻きが描かれた上着。
お母さんの形見だから、手放したくない。
だから、これはずっと着ていたい。
手放してしまったら、お母さんの温もりをもう一生感じられないかもしれないから。
「あ、シンス。着替え終わったんや」
「ノヴァ、アンタどういう格好してんの?」
制服を選び終わり、早速それを着ているシンス。
僕と同じのシャツに、青紫色のスカート。
そして胸元には、大きなリボンが結ばれている。
「全身真っ黒。センスないわね」
「悪かったな!」
ごめんね、変質者みたいな格好で!
でも、服選びのセンスとかそういう才能はお母さんの子宮に置いてきちゃったからねぇの!
だから、仕方ない!
「アン、やっぱり男子って駄目ね」
「ホント、それ。身だしなみも整えとかないといけないのに」
いつの間にか、あの真面目ちゃんと仲良くなってる。
そしてそんな真面目っ子の服装はというと······。
キッチリとしめられたシャツ。
膝丈のスカート。
真面目って感じの服装や。
「おお、変人が侵入してきてると思ったら、お前だったのか」
「げっ······」
シャーッと試着室から出てきたのは、イオンの馬鹿野郎。
「げってなんだよ」
意外にもイオンはちゃんとした服装だった。
シャツにズボン。
そしてまさかのネクタイ。
なんか僕がホントに変人なんじゃないか。
そんなことを思ってたら、ラーシャがこちらに走ってきた。
「ノヴァ! 麻呂はやはり可愛いじゃろ?」
「あ、うんそうだね」
予想はしてた。
そしてそれを軽々超えてきた。
マジでギリギリのスカート。
胸元はガッツリ開けとるし。
「あ、アウトーーッ、!!」
慌ててシンスがそう叫び、アンが試着室へと強制連行。
数分後、もう少し刺激の抑えられた服装でラーシャがやってきた。
なんかとても不満がおありの様子。
そしてその後ろでは、ふぅ──とため息を着く女子二人の姿がある。
「もっと短い方がよい」
「文句は言わない」
「嫌じゃぁ!!」
ぎゃあぎゃあ叫ぶラーシャと、冷たい顔で対応するシンス。
アンは、制服と着替えていたレイ君と何やら話していた。
「レイ、もう少しみんなと仲良くなりなさいよ」
「どうして?」
「レイだけクラスの輪に入れてないの、分かってる?」
「入れてないわけじゃない。入ろうとしてないだけ」
レイ君は薄いクリーム色のセーターをシャツの上から来ていた。
そして、セーターと同じ色のヘッドホンを付けて、何やらまた音楽を聴いている。
一人でいるのが好きなんやろか。
あまり話そうとしないし、笑ったとこもまだ一回も見てない。
でも僕は、レイ君と友達になりたいと思った。
「お前ら、着替えは済んだな。これから寮を紹介する」
いつの間にか現れていたキツネ女。
ぞろぞろとキツネ女について行く僕ら。
着いたのは、真っ白な建物。
大きなドアを開けた先には、ホテルのロビーみたいなリビングが広がっていて、とても広かった。
くっそでかいテレビ。
ふっかふかのソファー。
学園天国じゃん!
「あとは好きにやれ。明日の午前8時、教室に集合だ」
キツネ仮面クソババアはそう言うと、どこかに消えた。
僕も瞬間移動使えるようになりてぇわ。
めちゃくちゃカッコイイ。
でもあのババアをカッコイイなんて思ってないけど。
そう思いながら、二階へと続く階段を上る。
そして、手当り次第にドアを開けた。
──ふむ、きれいな部屋だ。
「······ん、?」
一番奥の部屋を開けると、そこには先客がいた。
真っ白な髪が視界に入る。
「レイ、君?」
「······え、?」
レイ君が、ベットの上で頭を抑えて蹲っていた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、レイ君は不思議そうに僕を見つめる。
「お前は······」
もしかして、僕のこと知ってくれてんの!?
じゃあ友達になれ──
「······変人オカマ野郎じゃん」
「へ?」
「だって、イオンがそう言ってた」
「出鱈目だよ、それ!」
アイツ、ふっざけんなよ!
後で訴えてやるから、覚悟しとけや。
「何で俺の部屋に入ってきたの?」
「え、レイ君の部屋やったん?」
「ドアの隣に書いてなかった?」
書いてあったかもしれない。
いや、でも仕方ないよね。
だってさ、もっとデカデカと大きな文字で書いてもらわなきゃ、僕みたいなやつじゃ分かんないもん。
「······っ、ゔ」
「頭痛酷いん?」
「まぁ、うん······。そこにある薬、取って」
僕の近くに置いてあった、薬の入った瓶をレイ君に手渡す。
レイ君が薬を飲み込むと、僕は、友達になって欲しいと頼み込んだ。
だって、早くなって欲しいやん?
「ねぇねぇレイ君、僕と友達になってよ!」
「いやだ」
「······」
「ごめんだけど、俺は友達を作りたくない。だから──」
「······ぇ、ぐすっ」
ここで僕は、作戦Bに出た!
必殺──泣きじゃくり作戦!
これなら、友達になってくれるはず。
「はい」
「?」
ハンカチを渡され、僕は顔を上げた。
「仕方ないな。あのジジイ学園長のカツラ取ってきてくれたら、友達になってあげる」
「かつら?」
「そう、あのクソエロジジイ学園長、カツラだから」
レイ君がスマホの画面を見せた。
そこには、入学の時に壇上で話してたクソオヤジが写りこんでいた。
そしてそのクソオヤジは、つるぴかのハゲだった。
カツラらしき物が風邪で吹き飛ばされたみたいな?
バカじゃん(笑)
お疲れサマンサー!
思わず笑ってしまった。
「これ、さっきそこから撮ったの。だから、これは学園長がカツラつけてるしょーこ」
「じゃあ、至近距離からカメラで撮ってきたげる」
「わかった、撮ってきたら見せてよ。そしたら、友達なるから」
友達になるのにハゲの写真が必要だったとは。
初めて知ったよ、僕。
これからは、ちゃんと周りにハゲがいるかとか確認しないとね。
「じゃあねぇ〜!」
レイ君の部屋を飛び出して真っ先に向かったのは、シンスのところ。
何故かって?
いや、だって僕カメラ持ってへんから。
「シンス〜! カメラください!」
「急にどうしたの?」
「実はね······」
僕はシンスにさっきの出来事を伝えた。
──そう、ちゃんと伝えたはずなのに。
「何言ってるの?」
「はぁあ?」
何故かシンスは理解せんかった。
なんでや。
僕、間違ってないやろ。
結局、必死に頼み込んだおかげでカメラは貰うことが出来たけど、シンスは何やら思うところがあるようで。
でもこのカメラでハゲとのツーショットが撮れれば、僕の、この学園で手に入れたい“アニメのような青春”
に近づくことが出来る。
そのためにも、頑張らないと。
「よし、明日から頑張るぞ!」
ベッドに潜り込んで、僕はそんなことを言った。
明日から、ほぼ永遠に頑張んなきゃいけない生活が待ってるだなんて、その時は知らなかったから。