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セージギフト  作者: 将募人間
2/6

いざゆけ山へ!

森を抜けると、そこにはポツンと一軒家がある。

その家のドアを開けると、キッチンから物音がした。

どうやら、あの犯罪者は昼飯の準備中のようだ。

一緒にここまでやって来た創造神が、まじまじと家を見つめている。

「ここに住んでるの?」

「住んでるって言うか······軟禁されてる」

「軟禁って、君大丈夫じゃないわよ?」

そうです。

ぜーんぜん楽しくないもん。

あの阿呆クソ馬鹿クズジジイと同じ空間でいるだけで吐き気がするし。

多分、ジジイアレルギーがあるんやろな、僕。

靴を適当に脱げちらかして、リビングのソファーにどかりと座る。

創造神は隣に座った。

「ただいまァァーーっ!」

大声で叫べば、キッチンからドンガラガッシャーン──と大惨事の音が聞こえた。

カラカランと、ボールが転がる音が家に響く。

寿命で死んじまったか? あの犯罪者。

後で花束でも持ってきてやるか。

そこら辺に生えてる雑草のヤツだけど。

そう思ってたら、ドタバタとフローリングが叩きつけられる音が近づいてきた。

ガチャッとドアが開いて。

「な、何があった!? お前、風邪でもひいたのか!」

走ってやって来たジジイが、汗をダラダラ流してそう言った。

やっべ、おもろすぎる。

こんな顔、初めて見たぞ。

「······ふっ、ふふ、ふあははは!」

まさかクソジジイがこんな、目を大きくさせるなんて。

今日は絶対剣が降ってくるね。

確定したよ、こんなの。

「ね、熱はないな······」

いつの間にか、額を触られていた。

はい、わいせつ行為です。

そもそも、しわくちゃの手で触られたくないんだっつーの!

「触んな!」

バシッと手を払いのけて、そう叫んだ。

そして、平手打ちを食らわす。

バチンッと響きの良い音がなった。

その勢いで、クソ犯罪者は吹っ飛んだ。

おかしい。

いつもなら、倍返しされて僕が吹っ飛ぶのに。

マジで歳か?

「もう寿命か?」

思わずそう言った。

だって、そうとしか思えなかったんだもん。

そしたら、ゲンコツを食らった。

「まだまだ長生きするわ!」

痛い。

暴力反対! ──そういう意味を込めて、キッと睨んだ。

······全然伝わんなかったけど。

「お前が“ただいま”なんて言うから、熱でも出したのかと思ったぞ」

「僕の認識酷くない?」

「自分の認識と他人の認識は違うものだ」

なんだよ、カッコつけやがって。

七十歳過ぎたジジイだぞ、コイツ。

まぁいいや。

「······それで、そこの嬢さんは誰だ?」

カッコつけが、創造神を睨みつけてそう言った。

少し、警戒しているように見える。

「はじめまして、私は──」

すると、創造神がソファーから立ち上がった。

そして、営業スマイルで挨拶をする。

でも、言葉が喉で詰まったのか、なかなか続きを言おうとしない。

すると急に、ぐぃッと腕を掴まれて、引っ張られる。

「私の偽名、考えるの忘れてたわ」

顔をこれでもかと近づけて、創造神はそう告げる。

小声だったけど、よく聞こえた。

まるで、世界から音が無くなってしまったみたい。

「名前? それなら僕が考えるよ」

「いいの? ありがとね」

そう言ってニコニコ笑う創造神の後ろには、あのうるせぇクソジジイがいるけど、何故か瞬き一つしない。

固まっているのか、全然動かなかった。

「もしかして、時間止めてんの?」

おそるおそるそう聞いてみた。

そしたら、元気なYESの声が返ってくる。

「ならなんで、小声で喋ったん?」

「まずはムード作りからでしょ?」

ごめん、創造神。

全くわからん。

「じゃあ、よろしくね──」

また創造神が静かになった。

──あ、そういえば。

「名前、言ってなかったけ?」

「言ってないよ」

言ってなかったみたい。

というか、よくここまで気づかなかったね。

「僕はノヴァ」

「ノヴァ、ね」

創造神は顎に手を当てて、ふむと考える仕草を見せた。

なにかおかしい事でもあったのだろうか。

「······まぁ別に、関係ないよね」

そう呟いてから考えるのを辞めて、創造神はニコニコ笑う。

こういうのが何かの伏線なんだ──っていうのを、昔読んだ漫画にかいてあった気がする。

まあ、別に今は気にすることじゃあない。

「名前······考えてくれた?」

「モチのロン!」

「よし! ──解除──」

急に時間が動き出した。

ホントになんでもありだ。

「あー、じいじ······」

「なんだ」

真っ直ぐにジジイを見て、僕は思う。

コイツ、老けたな──と。

だけどそれを口にはしないところが、僕の成長というものだ。

「この女はシンス。僕と賢者の学園に行く者だよ」

「またその話か。お前は行かせんと言ったであろうが」

「だからぁー、“行く”っつったら行くの!」

口喧嘩が始まりそうになった時、肩に手を置かれた。

置いたのは、創造神──じゃなくて、シンス。

「ノヴァのお爺さ──お父さん?」

「保護者だ」

「──保護者様、安心してください。ノヴァの事は、私が責任を持って護ります」

「今日初めて会った少女に、この阿呆は任せられんな」

そう、ジジイは言ったはずだった。

でも、シンスにはそう聞こえていなかったのだろうか。

任せてくださいと言うように、ニッコリと笑う。

すると、ジジイが雰囲気を変えて問いかけた。

「そもそも、お前は何者だ?人間とは思えないが」

僕とシンスはびっくりして、目を見開いた。

まさか、シンスが神だとバレるなんて。

──バレたわけじゃないけど。

「分かるの?」

「長年生きた勘だろうな」

「面白い人間。貴方が恐らく初めて、私が人外だと分かった人」

シンスが面白そうにクスリと笑う。

今日だけで、何パターンの笑顔を見たんだろ。

自分の髪をいじりながら、シンスは宝石を何個か創り出した。

「あげる。コレを売ればかなりの金になるだろうし、一生楽して過ごせるんじゃない?」

──だから、ノヴァを学園に連れて行かせろ。

そうシンスは言った。

だが──

「断らさせてもらう。儂は、金には困っとらんのだ」

「マジで? こんなオンボロに住んでんのに?」

誰がオンボロに住んでるって?

結構酷いこと言うじゃねぇかあのクソ神。

「正体を言えば、YESって言ってくれる?」

「ふっ、どうだろうな」

あのジジイの顔は、【大体見当はついてますよ顔】だ。

今日の晩御飯を言うように。

サラリと普通のことを言うかのように。

「私、創造神なの」

そう言ったシンスの顔はどこか、影があった。

「やはり、神の一柱か」

それより暗い顔をしていたのは、ジジイ。

元々座り込んでいたのに、更に体をソファーに預け始めた。

「それで、どうする?」

「先ほどの言葉が、神の名のもとの命令ならば、従うしかないな」

「そう······」

ニヤニヤと笑みを浮かべるシンス。

顎に手を当て、何やら考え事をし始めた。

「契約を誓おう」

「へぇ、どんな?」

黙りこくっていたジジイが、急にそんなことを言い出した。

「絶対にコイツを死なせないと、誓ってくれ」

急に僕を引っ張ってきて、腕の中におさめた。

ちょっとキツイ。

「それはいいけど、それなら私の願いも一つぐらい聞いて欲しいね」

「儂が叶えられる程度の願いならな」

「いいね。そんなに強気な人は見たことない」

シンスが、営業スマイルを切り捨てて、真面目な表情になった。

そして、ジジイの手を握って、告げる。

「私のことを家族のように思って欲しい」

「それだけか?」

呆れたようにポカーンと口を開けるジジイ。

シンスは、ジジイの言葉に頷いて。

「ノヴァは、ちゃんと私が護るから」

そう言うと、シンスは僕を引っ張った。

そして、そのまま家から飛び出す。

「手紙、送るからぁー!」

そう叫ぶと、リビングから「風邪ひくなよ」という声が返ってきた。

もう、暫くここには帰らないかもしれない。

なんなら、もう一生帰んないかもしんないけど。

今は、とてもワクワクしてる。

寂しさもあるっちゃあるけど、興奮がそれを感じさせない。

「行こう、ノヴァ!」

「うん!」

シンスと僕は、森を走り抜けた。

体の動くままに。


─────────────────────────


私は創造神として、最強だった。

だから、学園からの手紙を見て、少し寂しくなった。

最強な私と隣に居てくれる誰かは、きっと居ないんだろうと思って。

「私のことを全部知って······受け入れてくれるなんて、ありえないか」

そう呟きながら、ふらりふらりと気の向くままに世界を歩く。

森が風に流される音。

気づけば、いつの間にかド田舎の真ん中に私はいた。

そしてそこで、見つけたのだ。

私が持っている手紙と同じ物を持つ、少年を。

見た目は少女。

肩までの長さの瑠璃色(ラピスラズリ)の髪をなびかせて。

キラリと光る金色の瞳(アンバー)

もしかしたら──なんて淡い希望を抱いてしまった。

「あ〜あ、早く賢者のなんちゃらに行きたいのにぃ」

「だったら、少年。私と行かないか?」

「え?」

こういう時は、勢いが大事だと他の神が言っていた気がする。

上手くいけば、私は独りぼっちにならなくてすむ。

そんな私の思いが通じたのか、少年は快く了承してくれそうだった。

その代わり、その少年の復讐を成功させる約束をしたけれど。

でもそんなことは、私にとっちゃ朝飯前。

嬉しかった。

私が創造神だと分かって、受け入れてくれる人がいて。

だから、私を救ってくれた少年は、私が絶対護る。

そう、心に決めたのだ。

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