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セージギフト  作者: 将募人間
1/6

成功する復讐

僕は、この屋敷で一番綺麗な人だ。

クマとのお揃いコーデで、壊れた屋敷を歩く。

─────────────────────────

ガラガラと建物が崩れ、黒い煙が空を埋め尽くす。

燃え上がる炎は、使用人達を巻き込んで大きくなっていく。

なんで、こんなことになったん······?

ぎゅっと抱き締めるのは、少し耳が焦げたクマのぬいぐるみ。

自分の髪や服だって、ところどころ焦げてしまっている。

お揃いコーデって、こういうことなんやろか。

「か、あさんっ」

寂しい。

人は沢山いる。

でも、みんな静か過ぎた。

炎の音が耳から離れない。

誰か、ちょっとでもいいから喋ってよ。

こんなことになるなら、今日はもっと遅くまで起きときゃ良かった。

どんなに我儘な理由でもいい。

どんなに怒られたっていい。

隣に人の暖かさが消えてしまうことが、どんなに不安なのか、僕は初めて知った。


「お前が探しているのは、この女か?」

急に炎の中から、誰かが現れた。

真っ黒なローブを身にまとった変な奴。

顔はフードで隠れてて、怪しい格好だ。

そして、そんな奴が抱えていたのは、母さんだった。

「母さん! ······ねぇ、返事してよ」

握りしめた手は、まだほんのり暖かった。

それが、周りの炎のせいじゃないと思いたかった。

だけど奴は、人の心を持ってなかった。

こちとら母親と感動の再開してんだ。

それを一番最悪な形で中断させるとか、僕には許せなかった。

だけど、それが許せないはずなのに、僕はなにも出来ないでいた。

奴が母さんの身体を真っ二つに斬った時、僕は感覚がおかしくなったようだ。

裸足に突き刺さる小石の痛みや、爪に入り込んだ土の不快さが、風に吹き飛ばされたかのよう。

「なにしてんの······?」

激昂することも、泣くことも。

全てが無駄に思えた。

そんなことしたって、母さんは戻ってこない。

だから、ただ疑問を口にした。

「お前の母親に止めを刺した。それだけだ」

「僕の母さんはそんなに悪い事をしたん?」

「いいや、悪いのはお前だ」

そう言うと、僕の右眼を奴は潰した。

痛み?

そんなものは無かった。

あったのは、母親を殺したアイツに対する怒り。


その時から、僕は奴──厄災神に復讐する(厄災神をぶっ殺す)ことを誓った。


─────────────────────────


「そこのお嬢ちゃん、俺らと遊ばない?」

「そうそう、お金なら沢山あるんだわ。だからさ──」

「結構です」

「え?」

「アンタらのような阿呆と遊び呆ける暇はありません」

商店街の道のど真ん中。

そこで、またナンパされた。

一体、一日何回されればいいんや。

ここで突っ立ってるのもめんどくなってきたな。

「では、サヨウナラ」

「ちょ、待てやオイ」

ガシッと腕を掴まれた。

わいせつ行為で逮捕されろ、この変態。

仕方ないし、正当防衛(武力行使)といこう。

もう片方の手で男の胸ぐらを掴んで、そのまま地面にぶつける。

「ぐあァァァぁッ」

「うるさい」

もう一人の男を見ると、ソイツは僕を睨んでいた。

もしかして、殺気だけで僕を大人しくさせられるとでも思ってるんやろか。

いるんだよね、こういうガキ大将系男子(阿呆)

小学校の頃にただ暴れ回ってただけで相手が怯んでたからって、いつまでも変わらない調子に乗ってる阿呆。

「何?ジロジロ見て」

「てんめェ······」

駄目だ。

こんな阿呆共に付き合ってらんない。

めんどかったから、男に拳銃を突きつけた。

「僕をフルボッコにしたいんやったら、コイツで頭吹っ飛ばすぞ」

「ヒィっ!?」

怯える男の股間に銃口を向けて、引き金(トリガー)を引く。

ピューっと水が飛び出し、股間を濡らした。

馬鹿だね、コイツ。

コレ、拳銃じゃなくて玩具なのに。

「お漏らしするような男なんかと遊びたい女なんかおらんやろ」

そう言って、僕は歩き出した。

でも伝え損ねたことがあったから、振り返って阿呆共に告げた。

「僕は男や」

今度こそ、もうコイツらに用はなかった。

商店街を抜けて、都会から飛び出して。

誰も近寄らない森に、グイグイと突っ込んで。

森の開けた場所へと出れば、そこにはポツンと一軒家。

「おい、クソじいじ! 昼飯はまだ?」

ドアを力任せに開ける。

そして、そう言い放つと、死にかけの爺さんが此方にやって来た。

「阿呆が! お前は恩人にクソをつけるのか!」

「だっておかえりいっつも言わんやん」

おかえりの言葉もないとか、クソやろ。

というか、恩人?

僕を誘拐した犯罪者、の間違いじゃなくて?

「お前もただいま言っとらんだろうが」

「おかえり言ってくれたら言う」

「阿呆が」

あーもう駄目だ。

このままじゃ昼飯食べられんくなる。

いつもなら、この犯罪者が押し負けるけど、今日は僕が折れなあかんのやろか。

そう思ったら───

「フンッ、まぁいい。それより······お前に手紙だ」

いつも通り、犯罪者が折れた。

それより、なんだって?

「僕に手紙? 殺害予告とかじゃなくて?」

「ああ、差出人は天狗。賢者の学園(セージギフト)とやらからだ」

「へぇー、面白そうやん」

封筒をビリビリ破って、手紙を読む。

『次の新月の夜、トライデント山脈まで来られたし』

「──は? これだけ?」

どれだけ手紙書くの面倒なんや。

ホントに必要なとこだけ持ってきたって感じの文章。

「ワシから一つ言っておく。お前は行くな」

「なんで?」

「怪しすぎるだろうが! 少しは警戒しろ!」

うるさい。

やっぱ年寄りって耳が遠いから、普段の生活でもクソ大声出すんだよな。

鼓膜破れるわ。

「クソじいじ、お前は関係ない」

「お前のようなクソ餓鬼の、仮の親なんだぞ。わざわざ我が子を死に行かせるようなことはせん」

「いやだね! 絶対死ぬもんか」

靴を適当に履いて、家を飛び出す。

踵が靴を踏んづけているせいか、走りにくい。

倒れかけながら家を振り返って見ると、玄関で溜め息をついてる犯罪者が見えた。

やっぱ頭の硬い大人は嫌いだね。

頑固過ぎて話通じないから。

度々顔にかかる髪をはらいながら、僕は走り出す。


僕は、男だと思われたことが無かった。

なんでやねん。

容姿が女に似てるとかで。

ふざけんじゃねぇよ。

ちょーっと髪が長いだけなのに。

こんなにバッサバサの睫毛、目に入って痛いのに。

これのどこがいいんだ。

女と間違われてナンパされるんだぞ。

瑠璃色(ラピスラズリ)の髪なのがいけないんかな。

目立つし。

それと、金色の瞳(アンバー)なのもいけないのかも。

「はぁ〜〜っ」

溜め息をついて、辺りを見渡した。

ここはド田舎だ。

コンビニは、駐車場ナッシングコンビニ(全然駐車場がなくて狭いコンビニ)とかじゃないし、クソうるさい車の音も聞こえない。

ただ、美男美女が少ないのが駄目だ。

テレビに映った女優とか俳優とかと比べたら、僕なんて普通だろ。

それなのに、ここにいたらナンパされるのがルーティンになっちまう。

ふざけんな。

「あ〜あ、早く賢者のなんちゃらに行きたいのにぃ」

「だったら、少年。私と行かないか?」

「え?」

いつの間にか、目の前に誰かがいた。

頭に被ったフードのせいで顔は分かんないけど、多分コイツは女だ。

声で分かる。

──それより、なんだって?

「今、僕のこと“少年”って言った?」

「え?あ、うん······」

初めてだ。

初めて男だって言われた。

嬉し過ぎる。

「なんで!? なんで分かったん?」

「なにが?」

「なんで僕が男だって、分かったん?」

すると女は、急に黙りこくった。

まぁ、いっか──とか独り言を呟いて、フードをパサリとおろすと、女はニヤリと笑みを浮かべて。

「そりゃ、私は神だから」

そう言ったのだ。

アメジストのように透明感のある紫色の瞳を輝かせて。

薄っすらと紫味がかかった銀髪を風になびかせながら。


「神?」

「そう、神」

阿呆神(アホがみ)?」

「いや、創造神!!」

なんかコイツは、創造神らしい。

なんか強そう。

最強キャラっぽいのにこんなド田舎にいていいんか、創造神。

「創造神ってことは、強い?」

「当たり前よ。私はこの世界を創ったんだし」

そう言うと、花束を創って僕に差し出した。

どこからか取り出したとかそんなんじゃなくて、生み出したって感じ。

「おお〜〜」

「信じてくれた? まだ信じないのなら、もっとやってやるわ」

なんかやる気出したぞ。

別にもう信じるんだけど。

でも、創造神はやる気満々。

「ちょっと掴まってて」

「はい?」

急に腕に捕まらなきゃいけなくなった。

いやなんで?

仕方なく腕に捕まった。

すると、甘い香りが鼻腔を満たす。

「じゃ、いくよ」

「え、ちょ、えっ?」

急に周りが眩しくなって、足がふわりと浮かぶ。

創造神が何をしたのか、大体わかった。

そりゃ、目の前に地球があって、周りが宇宙空間だったら、少しは想像つくだろ。

創造神と僕は、瞬間移動(テレポート)したんだと。

「流石創造神や······」

「まだまだこれからよ?」

コイツ、聞く耳を持ってない。

もういいんだっての。

じゅーぶん君の凄さは伝わった!

だから、これ以上のことって、絶叫するに間違いなしのことに決まってる。

「どんっ」

直後、地球はぶっ壊れた。

いや、そんな無邪気な言葉と共に大量の隕石創り出して、地球にぶつけるとか頭イカれてる。

地球消滅ッ(地球死んじまった)

実に呆気ない最期。

創造神の力を見せつける為だけに消えるなんて。

「ほぉ〜れっ」

だが、創造神のそんな言葉で、地球は元通りとなった。

もう、なんも言えん。

言えることと言えば、「流石創造神!(わーすごーい!)」ぐらい。

「あ、もうええんやけど」

「そう? もっと見て欲しいのに」

「疑ったりしてないし、最初から」

そう言うと、創造神は満足気に笑った。

やり過ぎだろ──なんて、言えないね。

人間にとっちゃ大事件なんだけど、創造神にとっちゃ暇つぶし程度の事なんだろう。

「じゃ、戻ろっか」

「おけ〜」

足が久しぶりに地面と再開しているのを肌で感じながら(カッコよく言ってみただけ)、辺りを見渡す。

テレポートする前と変わんない景色。

思わないやろうな。

地球が消滅した(死んだ)とか。

「んで、君が創造神なのは分かったけど、······それでなんやったっけ?」

「私と賢者の学園(セージギフト)に行かないか、だよ」

「そう、それ。創造神もこの手紙持ってるん?」

一文しか書かれてない、面倒くさがりが書いたであろうこの手紙を見せながら、創造神を見つめる。

「持ってるよ、それ」

ニヤリと笑う創造神。

そう言って創造神が見せたのは、僕のと同じの手紙。

「分かった?だからさ、一緒に行こう? 賢者の学園(セージギフト)とやらに」

「いいん?」

「いいよ。それにこれは私の願いなんだから、私の願いを叶えてくれたら、君の願いも一つだけ叶えてあげる」

私の願いって、僕と一緒に学園に行くことやろ?

それなら、コイツと行くだけで、僕の願いが叶う?

YESと頷かない訳が無い。

「うん、分かった。一緒に行こう」

「そう言うと思った! なら、君の願いを聞かせて」

願い?

そんなの、あの日から決まってる。

アイツに────

「厄災神······アイツに復讐したい。それを、絶対成功させて」

「復讐は自分でしたいのね」

「そう、自分でする。それを失敗させないようにして欲しい」

創造神は、余裕の笑みを浮かべていた。

そんなこと、朝飯前だと言わんばかりに。

「いいだろう、必ず君の願いは創造神が絶対に叶えてやる」

「頼もしいね」

その日、僕の願いは必ず叶えられると約束された。

世界最強の神──創造神が、成功させてやると言ったのだから。

───そしてその願いは、実現される───

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