雨の日の書 〜 自由と献立 〜
く〜る く〜る と、性格を表わしているのか
先端が少し斜めになっている 長方形の墨を
硯に優しく押し当て ゆっくりと回しながら磨る
外は雨。
ざあざあ ざあざあ 降る雨の
ちいさな ちいさな 水滴が
しとしと しとしと 雨音と共に
庭を覆う しっとりと輝く 黄緑色の苔へと 吸い込まれていく
ざあざあと、止め処なく 鳴り続ける音
うるさい。そんなハズなのに いつもより 静かに感じる。
なんて不思議。
たくさんの 小さな可愛い 妖怪たちが
空から舞い降りながら 色んな雑音を回収して 苔へと運び込む。
そんな想像。
シーン と、静かな空間で
ピンッ と、背筋を伸ばし
う~ん と、何という言葉を書くかを考えながら
墨を磨る。
目の前にある 無垢な半紙
そこに 好きな言葉を 描く
命令されるのは 好きではない。
でも、いざ、何でも良いと、自由を与えられると
結構、難しかったりなんかして。
毎日の献立。
自分1人の食事なら、本当に自由にできるけど。
あなたに任せる。と、与えられた自由は、少し不自由。
くるくる くるくる 優しく 大きく 円を描く
くるくる くるくる 心に 今の気持ちを訊きながら
くるくる くるくる 撫でるように 丸を描く度
透明な水と 漆黒の墨が 混ざり合う
だんだん だんだん 色が 濃くなり
どんどん どんどん 粘りが 強くなると
しっとり ふわっと 香りが 立って
透明な空気と 心鎮める香が 混ざり合う
くるくる くるくる 目まぐるしく過ぎる日々
どんどん どんどん 否応なしに年を重ね
あれあれ どれどれ あ~、アレな。うん、ソレや。
果たして 私とあなたは 混ざり合ってるのだろうか?
漸く磨り終えた 濃い墨に、
水を少しずつ足し 適当な濃さに調整。
濃すぎず 薄すぎず “ 適当に ”
適当……これも自由と同じで……難しい。
料理の材料 適量と記載あり。
そこを知りたいのに、あなたの好きにすれば良いと
自由を与えられる。 むっちゃ困る。
おろした筆に 適当に出来上がった 墨汁を浸す
目の前の真っ白な半紙 その上に 思い描くのは……
「じゃじゃん! 今日の晩ご飯のメニューを書きました!
さて、何と書いてあるでしょ〜〜か?」
「焼きそば!」
「ぶぶー! 答えはコレ! お好み焼き!!」
私たちは まだまだ 擦り合わせが必要な模様。
雨降って地固まる前の 雨模様。
しっとり 落ち着くのは、いつになることやら。
まだ 当分は、わいわいがやがや 賑やかな時間。