正常に狂っている
自分でも狂っているのは分かっている。
己の快楽のために手段を選ぶことなく、人を裏切る自分にも嫌気がする。
でも、仕方ない。仕方ないだろ?
俺の、脳はさ、すでにやられちまってんだよ。めちゃめちゃにさ。ぐちゃぐちゃにさ。もう取り返しのつかないところまで来てんだよ。
「そうやって、逃げるんだ。」
「うるせぇ!」
存在するはずのない声の主に向かって俺は怒鳴る。
「まぁ、君はいつもそうだよね。」
存在するはずのない声の主に向かって俺はガラス製のコップを投げつける。
「君にはお似合いの人生だよ。」
化物が俺を取り囲んでいる。何かを食べ続けている豚の母さん。俺をひたすらに殴り続ける熊の父さん。成績の悪い俺を笑い続ける馬の兄さん。俺を仲間外れにするゴキブリども。
俺はそいつらに殴りかかる。殴る。感触はない。これは幻覚。そんなことは分かっている。
だから、だから。
「やめろ!やめてくれ!!俺の目の前から消え失せろ!」
振り下ろしたこぶしは空を切る。化物が消えることはない。
俺は体を丸め、耳を塞ぐ。
大量の虫が俺の体を這いずり回る。ひたすらに体を掻きむしる。
ああああああああああ、くそが、くそったれが。
俺は頭を地面に打ちつける。打って、打って、打ち続ける。
怖い、早く、早く、終わってくれ。
怒りはいつの間にか恐怖へと変わっていた。終わらない地獄に救いを求める。笑い声が聞こえる。みんな俺を笑っている。泣いている。俺はひたすらに泣いている。
「ごめんなさい。もうしません。ごめんなさい。だから、もうやめてください。僕を苦しめないでください。ごめんなさい。ごめんなさい。」
ただひたすらに謝り続ける。謝る。謝り続ける。
目の前には幼少期の俺が立っていた。何も言わずただ、じっと俺を見つめている。その目には何の感情もこもっておらず、ただじっと見つめている。
「ごめん。ごめん。ごめん。助けて。助けて。」
俺は目の前の少年に懇願する。少年は何も言わず俺を見つめている。
「あはは、おい、何とか言えよ。あはははははは。」
何もおかしいことなんてないのに笑っている。なんで俺は笑っている?
ああ、俺はこのまま死ぬのか。嫌だ、死にたくない。死にたくない。
痛い。痛い。痛い。寒い。寒い。寒い。
誰か、だれか…
* * *
目を開けると、自分の部屋のベッドの上だった。
原型のとどめていない家具、こぼれた度数の高い缶チューハイ、割れたコップ。自分の暴れた跡はしっかりと残っていた。
いつも通り、変わらない風景だ。
俺は床に散らばったガラス片を踏みながら、机へと向かい、引き出しを開ける。
そして、いつものものを取り出し、自分の体に使用する。
快楽の後には地獄が待っているのは知っている。狂っているのはわかっている。それでも俺は。
「お前だけが俺の救いだ。」
一時の快楽の海へと漕ぎ出した。