浮気相手は加害者のクセに要求が多い
「インキュバスのクセに大きな口を叩くじゃん…」
俺はそう言いつつも警戒していた。レオが難なく無力化される実力を持つ相手…
レオは力と速さならば魔王さえ苦戦していた為、メンバーで最強と言える人間だ。
「レオ、もう一度獣心化出来るか?」
「おう」
部屋にレオの咆哮が木霊し、再びライオンの姿になる。
「させんよ。」
インキュバスは乖離剣アマテラスで空間を切り裂いて、そこにツクヨミで弾丸を放つ。
レオの獣心化は解除され、彼は石になったかのように身動きが取れなくなる。
「勇者のクセに仲間に頼らなければインキュバスにも勝てないのか?」
-アマテラスと空間操作能力を使いこなしている…
俺に見えていたインキュバスの姿が一瞬にして消えた。
その瞬間ベガの目の前に現れ、右手に持つアマテラスで斬りつけようとする。
「影魔法・ハイドラ」
ヴァルゴの影が生き物のように動き始める。影は自分の意思を持っているかの如く、立体的な無数の蛇のように分岐していった。
ベガとヴァルゴの周りを大量の影の蛇たちが覆った。
無数の蛇は影をインキュバスの方目掛けて伸ばした。
インキュバスはその影に触れないようにかわす。まるで効果を知っているかの様に…
だが伸びた影の一本がインキュバスの持つアマテラスの影に触れた。その瞬間、インキュバスの持つアマテラスはその場に固定され動かなくなる。
「チッ」
インキュバスは舌打ちをして、アマテラスをあっさりと諦める。
-普通の人間なら、奪われたモノを取り返そうとするんだけどな…
ハイドラは影に触れた瞬間、触れたモノがヴァルゴの所有物となる。
つまりアマテラスは現在、ヴァルゴが自由自在に操る事が出来る。
「ウノ・バレット」
俺はツクヨミの弾丸を自らに向けて放った。
弾丸が当たった瞬間、俺の時間の流れる速さも倍になる。つまり1秒間に俺は2秒分の倍速で行動が出来るようになる。これがウノ・バレットの能力だ。
しかしデメリットは時間が倍に流れる分、寿命も倍消費してしまう事だ…
インキュバスはアマテラスが奪われて少しヴァルゴや俺から距離を置いた。
先程までのうすら笑いは消えて、俺が本気になった時に見せるような鋭い目付きの表情になる。
「シエント・バレット」
インキュバスは自らにツクヨミの弾丸を放った。
その瞬間、インキュバスの数は3体となる。シエント・バレットは自らの時間を消費し、全く同じ分身を作る奥義だ。
だが俺には2体までしか分身を作る事は出来ない。つまり実力は俺以上であることが判明する。
-何故こいつは俺以上にツクヨミの力を発揮しているんだ?アマテラスもそうだ…
俺は自らの屋敷が壊れるのを危惧していた。だが俺だけでなくて、仲間と共に本気を出さなければ勝てない敵だと悟った。
「ヴァルゴ!!」
俺は目配せで彼女に合図を送る。相手には初見ではかわせない連携技を放つつもりだった。
「空間を裂け、アマテラス」
「影魔法・ハイドラ」
彼女の魔法の発動と共にアマテラスで目の前の空間を何回も斬る。
その瞬間、インキュバスの左右と背後の何もなかった空間から、急にハイドラの影が忍び寄る。
だがインキュバスはそれを知っていたかの様に、3体とも難なくそれをかわす。
「まずはそこの糞ビッチからやってやるよ。」
2体のインキュバスはそう宣言し、お互いにツクヨミの弾丸を撃ち合い自らを強化する。
そして目にも見えない速さで、ベガに右手の長く鋭い爪で攻撃を仕掛ける。
この時俺は間に合わないと悟る。
「アマテラス…」
俺は空間を切り裂き、ベガの全方位の空間を全て別の空間に繋げる。インキュバス2体の攻撃は当然どこかに消えた。
「隙だらけだぜ、勇者様?」
俺の背後にはもう一体のインキュバスがいつの間にかいた。鋭い爪で俺のお腹を貫く。その腕を素早く抜いた。
「アルタイル!!」
ヴァルゴは胴体を貫かれた俺を見て悲鳴を上げた。
「うぐぅ………」
俺は致命傷を受けて膝ごと地面に倒れ込む。
「ベガ、回復を…アルが死んじゃう…」
ヴァルゴは泣きそうな雰囲気だった。
「く……」
何故か俺を攻撃したインキュバスのお腹にも小さな傷が出来る。
「勇者アルタイル…お前は弱い…」
俺を貫いたインキュバスは怪我した俺を見て小さな声で呟く。
「魔王を倒せた?だから何だ?愛する人間を守れなければ強さなど意味はない!!」
インキュバスは自分に言い聞かせるかのように、大きな声で言った。
「これで終わりにしようか…」
いつの間にかインキュバスの1人はヴァルゴを拘束していた。もう一人がベガに鋭い爪で貫こうとしていた時だった。
「うがぁぁぁぁぁ」
レオが空間を切り裂いてインキュバスの分身の一体の胴体を切り裂く。
レオは魔力によるものを無効にする能力を持っている。だから俺のアマテラスによる空間も、一定の時間があれば無効化させることが出来る。
分身体も魔力によるものだ。つまりレオは天敵だと言える。
「空間を壊すとはな…レオ…お前はいつも強かったな…」
インキュバスは懐かしそうにレオに話しかけた。
「俺は強い人間と戦って後悔なく死ぬ。だから俺はここで死ぬ!!」
レオは更に大きな魔力を放つ。そして雄たけびを上げた。
「獣神化」
レオはライオンにタカの翼、複数の獣が合わさった異形の形になる。
「ディエス・バレット」
インキュバスはツクヨミから銃弾を放つ…
「レオ、ごめんな。それはまだ使う時じゃないよ…」
レオに弾丸を当てながらインキュバスは悲し気に微笑む。
-2体のインキュバスの動きが止まった…今しかない…
その瞬間2人のインキュバスの心臓からアマテラスの刃が現れる。
俺は地面に倒れ込みながらも、アマテラスの力で空間を切り裂き、インキュバスの手放したアマテラスを左手で奪っていた。
右のアマテラスで空間を裂き、左手でのアマテラスでその空間からインキュバスを攻撃した。
相手もまさか自分のアマテラスに貫かれるとは思わなかっただろう。
空間を操り、一刺しで2体の相手の胴体を刃が貫けるようにした。つまり空間は別だが、相手は団子状に一直線で刺された事になる。
インキュバスは予想外といったように目を見開いていた。分身体は何もすることなく消えた。
インキュバスの角や翼がボロボロと崩れていく。
「これは浄化の…そうか…あいつの…」
アマテラスは殺した生き物の力を宿す。つまり魔物にとって、この刀は即死の武器である。
インキュバスは右手で自らの胴体を貫いたアマテラスの刃を折る。
「ここまでありがとうな。アマテラス…」
最後の力を振り絞りその刃で空間を切り裂く。その瞬間空間の中は俺とインキュバスだけになった。
「最後に頼み事だが、いつかベガに愛していたと伝えてくれないか?」
ボロボロと崩れていくインキュバスはそう言う。
「お前の頼みを尊重するとでも…」
俺は魔物相手に欠ける義理などない為断る。ましてや婚約者を寝取った相手の言う事など絶対に聞かない。
「そうか…やっぱり……だな…」
最後の言葉は聞き取れないまま、彼の体はボロボロと崩れていく。
だが彼は何かをやり遂げたような満足そうな顔だった。
自分の偽物が消える瞬間だった。アルは何か妙な違和感を感じつつもそれを見守る。
「ぐぅぅ」
俺はこん棒で頭を強打されたかの様に、強烈な痛みを感じてその場に倒れてしまった。
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