俺にしか言えない事
あれから一か月、俺はベガを星の良く見える丘に連れ出して2人きりで天体観測をしていた。
ベガのやせ細った体も少しずつではあるが元に戻り、日常生活を送れるようになっていた。
「で…なぁに?私に言いたいことって?」
ベガは上目遣いで俺に話しかける。
-ついにこの時が来てしまった。
「ベガ…お前に話したい大切な話があるんだ。」
俺は覚悟を決めてベガの目を真っすぐ見る。
ベガの綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
ベガはにっこりと微笑んだ。
「今から話す事は、何を言っているか分からないと思うかもしれない。」
「それでも何も言わずに聴いて欲しい。」
ベガは不思議そうな顔をするが、俺の真剣な目を見て彼女も真剣な表情で俺の話を聞こうとする。
「はい。」
「まず『ベガ、お前を愛していた。』」
これはインキュバスとなった勇者アルタイルの言葉…
一番最初にクイーンの野望を阻止する為に、自ら魔物となりクイーンから力を奪い続けた勇者の言葉。
「そして『ベガ、幸せになってくれ。』」
これはカースドの言葉。俺が最初に挫けた時に過去に送り出してくれた勇者の言葉。
心が挫けてしまった俺を最後まで守り抜いてくれた。自らの死と引き換えに俺にチャンスを与えてくれた勇者の言葉…
俺がこの言葉を伝えた時、ベガは泣き出してしまった。
それもそのはずだ。だってこの言葉は今から別れを切り出そうとする人間の言葉に聞こえてしまう。
「いや……ここから先は聞きたくない。」
ベガは俺から顔を背けて、その場から去ろうとしてしまう。
「違う。そうじゃない。」
俺はベガの肩を掴み、その場に引きとどめた。
そして俺はベガを抱きしめながら、口付けをして彼女を安心させようとする。
「ベガ…ごめん。でもそういう意味で言っている言葉じゃないんだ。」
俺は再び真剣な眼差しでベガを見る。
「この言葉はお前を助けようとした勇者が残してくれた大切な言葉なんだ。だから最後まで聞いて欲しい。」
ベガが泣き止むのを待ち、俺は彼女の瞳を見る。
「『ベガ、愛している』」
これは自らを呪い続け、クイーンに呪いを移し、魔王すらその呪われた体に封印した勇者の言葉。
彼の呪い無しには俺は彼女を助けられなかったかもしれない。
そしてすべてが終わってから、一番会いたい筈の人間に会わずに過去に旅立った勇者の言葉。
その言葉を言って、今度は逆に俺が彼らの事を思い出して泣き始めてしまった。
「ごめん、ベガ。俺がお前を助けたけれど、彼らの力が無ければきっとお前を助けられなかった。」
「お前を助けようとした勇者は皆お前を愛していた。彼らの力があったからこそ、俺はお前を助けられた。」
「これまでの言葉は、お前を愛していた勇者達の言葉だ。どうか忘れないで欲しい。」
彼らを思い出すと涙が溢れてしまう。どうしても彼らの歩みたかった未来を想像して胸が締め付けられてしまう。
ベガも何故か泣いていた。そして何かを悟った様に俺を抱きしめ返してくれた。
俺はか細いベガを抱きしめて少しの間声を上げて泣いた。
流れ星が流れた。
俺の涙はいつの間にか止まっていた。
そしてここからが俺が言うべき言葉。俺しか言えない言葉。
「ベガ。最後に俺が言うべき大切な話がある。」
俺は頬に残った涙を拭い、ベガに笑いかける。ベガは俺に微笑み返してくれた。
「ベガ色々あったけれど、『これから生涯を掛けてお前を守る。そしてお前を愛し続けて、幸せにする。だから俺と結婚して下さい!!』」
インキュバスとなった勇者は愛していたと言った。
カースドはベガに幸せになって欲しいと言った。
彼らはいなくなってしまったが、これからも俺の心に残り続ける。
これからを生きるのは『俺』だ。だからこれからもベガを愛し続ける。
そしてベガに幸せになって貰うんじゃなくて、これから俺が彼女を幸せにするんだ!!
彼女の未来は俺が責任をもって引き受ける。
だから勇者アルタイル…安心して眠って欲しい。
この言葉はベガだけに伝える言葉じゃない。俺を助け、ベガを助けてくれた勇者達にも向ける言葉なのだ。
少しの間、まるで時が止まったかの様に静かになった。
それは短い時間でも俺にとっては永遠に感じてしまう時間だった。
ベガが俺の唇を奪った。そして笑顔でうなづいた。
「私も貴方を幸せにしてみせます。」
病める時も健やかなる時も、辛い事苦しい事も乗り越えて生涯を彼女に捧げる。
最後の最後までお互いが笑い合って暮らせる様に俺は残った全ての力を使おうと思う。
俺達が結ばれるのを祝福するかの様に流星が夜空を駆け巡っていた。
「沢山ある願いを流れ星が叶えてくれますように。」
これからも俺は彼女の為に…人々の為に命を燃やし続ける。
最後は悲しい別れじゃなく、笑って次の旅立ちへと向かえるように俺は星に願う。
いつか夜空に浮かぶ星になれるように…




