誓い
「奥義って、全消滅の事か?」
全てを無に帰す技…俺が未来でアルドラに使われた技…
「そうか…アルタイルはアポカリプスを知っているか…何百年と使っていない技なのだがな…」
アルドラは何かを悟った様に呟く。
「儂は未来でも貴様に負けたのだな…」
少しがっかりしたように、アルドラは呟く…
「いや…今と違う未来では…俺は助けがなければ消滅していた…」
俺はあの真っ白な光景を思い出す。カースドに助けられなければ俺は今ここにはいない。
だがあの世界ではシリウス王国は既に滅ぼされただろう…
「そんな未来にならない様に、俺は今ここに来た。出来ればあの技は喰らいたくはないな…」
俺はアルドラに言う。
『消滅』とは『時を止めた死』である。だから喰らえば時を戻さない限りは、存在そのものが消滅してしまう。
『消滅』を止めるには時間を流して『死』に耐えるか、『浄化』により『消滅』そのものを中和すれば良い。
「では勇者アルタイルよ…もしも我が奥義を止められれば、貴様の望みを一つ聴こう。儂に無理な望みだろうと可能な限りは応えよう。」
アルドラから魅力的な提案がされる。だがあまりにリスクが高すぎる。
「望みを一つ…お前がそこまでする意味が分からない。」
「竜はプライドが高い一族じゃ。だから負けっぱなしでは気が済まん。」
何百年と生きている竜は、子供っぽいワガママを言う。
「でも消滅したら、俺死ぬし…」
-断りたい。死なないって約束したし…
「もちろん貴様の一部が残っていれば再生は出来る。だから一回だけ…ね?」
アルドラは本気で子供っぽくお願いする。
「再生出来るなら…だが体力の消費を抑える為にシリウス王国の一件が終わってからにしたいのだが…」
「なら特別サービスじゃ…お主の体をここに来る前の、体力が元通りの新品と取り換えてやろう。」
-どこまで勝負したいんだ…しかも新品って…
まるで商品扱いだった。
「なら…一瞬だけだ…本気で行くぞ…」
「感謝する、勇者アルタイルよ…」
俺はアマテラスを両手に持つ。それを自らの体に突き刺す。
『時』『空間』の両方の力を使い、アマテラスの中に眠る、かつてこの剣で殺したモノの力を少しの間だけ自分の体内に具現化する。
『神降』
俺の体に真っ赤なアザの様な紋様が浮かび上がる。それはまるで呪いの火のような紋様…
アマテラスは神剣であるとともに、殺したモノの呪いを貯め続ける妖刀。
だからこの呪いを受け止める事で、俺はその一瞬の間この刀に眠る全ての能力を具現化することが出来る。
しかしそれと同時に俺は焼け焦がされるような、地獄の痛みに耐えねばならない。
「アルドラ…来い。」
「おぬしに出会えたことに感謝する。」
アルドラは笑い、
『全消滅』
真っ白な光が辺り一面を覆う。それはかつて一瞬で全てを無に帰した攻撃。
以前は一瞬で俺は死んだ…だが『神降』をした俺は一時的に神に近い力を得ている。
-あぁ…ゆっくりと時間が動く。
俺の持つ力、アマテラスの持つ力を全て一瞬に注ぎ込む『神降』。時間は止まった様に見える。
-この一瞬で全てを片付ける。
アポカリプスによる『消滅』の光を、俺は『浄化』の力を使い振り払って行く。
一回アマテラスで斬るごとに『消滅』の光は斬られ、真っ白な空間は元通りの空間となる。
それでもアポカリプスの消滅の光は物凄い速さで俺に向かって迫って来る。
-流石、アルドラの奥義と言ったところか…
時が止まったレベルの空間に対しても干渉してくる『消滅』の光。
俺は『神降』の呪いの痛みに耐えながら、この力が切れるまでに全てを消し去らなければならない。
一太刀、二太刀とどんどんとアマテラスでアポカリプスを浄化していく。
無我夢中で白い消滅の光を浄化していく。
-ここまで半分…すこしキツイか…
一瞬に全てを賭けても、アポカリプスの浸食は止めきれない。強大な力に対して諦めてしまいたいと言う弱い気持ちにもなって来る。
-あと半分なのに…どんどんアポカリプスの『消滅』の光が迫って来る。
俺の最大限の力を用いても、少し押されている。
「けっ、情けねぇな…これでベガ姐さんを守れるのかよ…」
どこかで聞いた事のある声が聞こえた…あぁ…そうだな
-俺はベガを守るってお前に誓ったな…
失ったモノは元に戻らない…それでも人は前に進まなければならない…
-仲間を守る…人を守る。
人は失って初めて気付く事がある。俺の願いは
「争いのない世界を作り、人と魔物でも手を取り合って笑顔で溢れる世界を作る。」
俺は『神降』の呪いの痛みにも耐えながら、最後の力を振り絞りアポカリプスに相対する。
白い光の先に懐かしい人影が見えた気がした。
「がんばれよ…仲間も付いてる。」
-ありがとう…デネブ…
「うおぉぉぉぉぉ…」
一太刀、二太刀と俺はアマテラスを素早く振って消滅の光を打ち消していく。
アポカリプスの光もあと一閃となる。
「ラストォォォォ」
その一閃を打ち消そうとした時だった。
俺の『神降』の力は切れ、アザは消え去った…
-俺の時間切れか…
消滅の光は容赦なく時の戻った俺に迫る。
-俺の負けか…
俺は全てを賭けてもあと一歩及ばなかった…
「カースド・バレット」
その最後の光は消されていた。そしていつの間にか俺の前には、インキュバスの姿をした男が立っていた。
「……アルタイルか?」
俺はカースドによって助けられたようだった。消滅を避けることが出来た。
「お前が心配でここに来てみれば、この様か…」
俺はカースドがいる事にビックリしていた。アルドラも何が起きたか分からずにビックリしている。
「お前…その姿は…」
状況の理解が追い付かない。カースドがインキュバスになる理由はもうないはずだ…彼がそのまま俺達と一緒に戦ってくれれば、全ては解決したのでは?
「あぁ?これか?クイーンを呪うにはこうしなきゃならねぇだろ?」
確かにカースドはクイーンを呪う目的があった…それでも自らが魔物にならない選択肢もあった筈だ…
「アルタイルよ…これはどういうことだ…?」
アルドラも状況を理解できていないようだ…そもそも俺ですら状況を理解できていないのだ…
第三者のアルドラが理解できる訳がない。
「詳しい事は後だ。アルドラ、願いを一つ聞いてくれるんだよな?」
カースドはアルドラに対して言う。
-えっ、その願い俺の…
俺は何も言えない…むしろもう俺には力が残っていなかったから、動けない。
「邪竜を借りるぜ。」
カースドは恐れる事なく邪竜の方に向かって歩く。
「ちょっと待て、その子達は関係ない…」
アルドラは焦っているようだったが…
カースドはグリーンアイズと呼ばれる邪竜の前に立つ。
「少し痛むが我慢してくれよ!!」
カースドはインキュバスの鋭い右爪をグリーンアイズの心臓に突き刺す。
「ギィィィィィィ」
グリーンアイズは苦しそうな声を出す。アルドラはその声を聴き、怒りを顕わにする。
「動くな、アルドラ。この力はまだ調節出来ない。」
グリーンアイズの体から、邪竜の邪気が消えていく。みるみる内に、邪竜は黒い体から白銀の体に戻っていく。
「なんと…呪いが…邪竜の呪いが解けておる…」
アルドラは涙を流していた。アルドラでさえ元に戻せなかった呪い…
-そうか…呪いにより邪竜になったならば、呪いを消すのは呪いを持つ者だけ…
グリーンアイズはアルドラのような、白銀の美しい体に戻った。
「あぁ…やっぱドレインで呪いを吸い出すのはきつすぎるな…」
カースドは苦しそうな顔をしながらも、クリアアイズの方に向かって歩く。
「ドレイン」
カースドはインキュバスになった力で獲得した『ドレイン』を使い、邪竜から呪いを吸い出しているようだった…
クリアアイズもアルドラのような白銀の美しい体に戻る。
「ハァハァ…次でラストか…」
カースドはフラフラになりながらも、パープルアイズの元に近付いていく。
「ドレイン」
パープルアイズも邪竜としての呪いは吸い取られ、元の白銀の体に戻った。
「ありがとう勇者よ…感謝の言葉しか出ぬ…」
アルドラは涙していた。呪いを受けていないアルドラでは、いくら時を戻そうとも邪竜の呪いは解けなかった…
だが呪いを受けたカースドであれば、呪いは何とか出来た。だからカースドは考えた末に、自らインキュバスになったのかもしれない…
「では勇者よ…お主らの力を元通りに戻してやろう。」
アルドラは何かをしたのだろう。一瞬の間に俺の疲労と『神降』での痛みは消え去った。
恐らくは先程消費した時間も戻った筈だ。
だがカースドから『死』の力があふれ出している事に気付く。彼はその場から動けずに苦しそうにしていた。
「アルドラ…何とかならないか?」
俺はアルドラに聞く。
「儂に出来る事は『死』を少しの間、打ち消すのみじゃ…」
「いや…このままで良い。俺にはまだやらないとならない事がある。あと少しだ。」
カースドは近くの岩にもたれかかり苦しそうにしながらも、アルドラ達の提案を拒否する。
「あと少しでサキュバス・クイーンはプロキオン王を殺しに城に向かうだろう。」
苦しそうにしながらも、カースドは俺に向かって言う。
「だから先にシリウス国に戻れ。後は頼むぞ、勇者アルタイルよ!!」




