遺言
「アルドラを一人でなんて無理よ。」
ヴァルゴは俺の1人でアルドラ達と対峙すると聞いて取り乱す。
「大丈夫だ。ヴァルゴ…俺を信じてくれ。」
俺は弱々しくも微笑みながらヴァルゴに言う。勿論俺に自信はない。出来るかどうかも分からない。
それでもヴァルゴ達には笑ってこれからも人生を送って欲しかった。
俺はカースドに近寄っていく。カースドは相変わらず先程の街の一件、スカルの一件で放心しているようだった…
「後の事は頼んで良いか?シリウスの事や…ベガの事も…」
俺はカースドの耳元で囁く。
カースドは俺を見る。何故?と言う顔をして…
「俺は勇者としてみんなの為に、何が出来るかを考えていたんだ…」
魔王を倒した後、世界は平和になった。だがそれでも魔物はいるし、分かり合えない者達は争いを続けている。
魔王を倒して、俺は勇者と言う名の平和の象徴となった。でもそれではダメだった。
「勇者として魔王を倒してからも、平和が続くとは限らない。」
俺達が一時的に世界を平和にしても、またいずれ争いは生まれるだろう。そしてそれに伴い、新しい魔王も生まれるだろう。
「平和なんてほんの小さな出来事で崩れ去ってしまう。結局分かり合えないから争いも生まれる。」
戦争や弱い者をいじめる事も同じようなモノだ。加害者は必ず己を正義だと思っている。
魔物にとっても、人間を支配することは魔王スペルビアの敵討ち…つまり彼らにとっての正義を遂行するようなものだ。
復讐は悪だとは限らない。被害者が前に進むなら、それは善悪をつけられないだろう。
「平和な時間なんてほんの一瞬かもしれない。それでも俺は俺の知っている人、応援してくれる人が笑顔で暮らせるような世界を作りたい。」
ベガも…仲間も笑って人生を終わらせて欲しい。
「だからその為に俺は命を賭ける。」
俺はカースドに斬り落とされた右腕の方に歩いていく。そして左手でツクヨミを拾う。
「セプティマ・バレット」
俺は斬り落とされた右腕を回復させた。
「だからさ…ヴァルゴ…アルタイル…俺がいなくなったとしても、世界を…みんなを…そして愛するベガが笑っていられるように見守ってくれないか?」
俺は2人に微笑みながら言う。俺の手は少し震えていた。
これは俺が2人に直接言える遺言…本当はプロキオン王に託す筈だった言葉…
-かっこつけてみたけれど、やっぱり死ぬのは怖いな…あの時、あれだけ死にたがっていたのにな…
「嫌よ…私は…あなたがいなくなったら何の為に生きれば良いの?こんな汚れた世界なんて、あなたがいなければ無価値も同然よ…」
ヴァルゴは泣いていた。だから…
「影魔法…ハイドラ」
影で出来た竜が俺の方に近付いて来る。俺を拘束するつもりだろう。
-夕闇が迫って来ている…夜になれば俺は負ける。
「空間を裂け…アマテラス。」
俺はそれを難なくかわす。しかし夕方である為、蛇の時の影魔法より射程が長くなっている。
「私は貴方を必ず止めてやる。貴方が笑っていられない世界なんて、私にとって無価値だもの…」
俺は初めてヴァルゴと相対した時を思い出していた。
俺はまだ力を使いこなせなかった…彼女に戦い方を教わりながら、俺は強くなっていった。
ヴァルゴはカノープス帝国に雇われて、プロキオン王を暗殺するように依頼を受けていた。
俺はプロキオン王を守る為、彼女と戦った。
-俺はヴァルゴと向き合わなければならない。そうでなければ、彼女はずっと苦しんでしまうから。
「止められるものなら止めてみろ。俺はお前を倒してでも先に進む。」
俺はアマテラスとツクヨミをしまい、素手になる。ヴァルゴも俺に相対して既になる。
「貴方が徒手空拳で私に勝てるとでも?」
俺は武器をもっての戦闘ならば、ヴァルゴより強い…自覚はある。
それでも暗殺部隊であったヴァルゴはナイフを中心に戦う為、素手での戦闘に長けている。
-お前と初めて戦った日を思い出すなぁ…俺は剣を…お前はナイフをもって…
お互いに正面から正々堂々と向かい合う。俺の右腕のでジャブをはなつ。
ヴァルゴはそれを避け、俺の右腕を掴み、それを外側にひねる事で俺の態勢を崩そうとする。
俺は重心を外側に傾け、体制が崩れたかのようにみせ、ヴァルゴの左足を引っ掛ける。
ヴァルゴは俺の右腕を離し、足を引っ掛けられると同時にバク転して後ろに逃げる。
その後彼女は数回、バク転を繰り返して俺から距離を離す。
「出会った時より強くなったじゃない…」
ヴァルゴは俺に微笑む。
「俺はまだ弱い…それを最近嫌と言うほど味わったさ…」
俺は最近になってから嫌と言うほど無力感を味わった。
「弱さを知ったから…自分と向き合えたから…俺は今やるべき事を見つけた。」
そして俺はヴァルゴに向かていく。
今度はヴァルゴからの先制攻撃だった。彼女は影魔法で作ったナイフを持っている。
-このナイフ…昔騙されたな…
影のナイフで俺の心臓目掛けて攻撃しようとする。
-だがこれはブラフ…
本当は彼女自身の影が俺を捉えようと伸びているのだ。この影に捕まった時点で、俺は動けなくなる。
俺は昔、彼女のナイフを意識しすぎたせいで足元の影が伸びているのを意識できなかった。
その結果俺は『負けた』。
俺は数回バク転をして彼女のナイフと下から伸びてくる影をかわす。それでも影は俺の方に伸びて来る。
彼女も成長している。影の伸びる速さは思った以上に速かった。
俺はヴァルゴの影に捕まった。
「これで貴方はアルドラの元には行かせない。考えを改めるまで…」
ヴァルゴはホッと安心したように俺に言う。
状況を見れば彼女の勝ちだからだ。
夜の闇が迫る。影による拘束は闇に比例して強くなる。
「それでも俺は行くよ…ヴァルゴ…」
俺はヴァルゴのハイドラによる拘束を無理やりに突き進んで彼女の方に向かう。
「止めなさい。それ以上は貴方の体が傷つく。」
ヴァルゴは俺に忠告する。
「俺がどれだけ傷ついても、他の人が笑っていられるなら…」
無理に影の拘束の中を進む為、俺の体中から血が流れ始める。
「ヴァルゴ…俺の強さは自分の為じゃない…他の人が幸せに過ごせる為にあるんだ…」
俺はヴァルゴの目の前に立った。
「お前もそうだろ?お前も他人の幸せの為に、これまで戦って来た。例え自分が傷ついても…」
-他の人が幸せに生きる為に…彼女は色んな人を殺してきた。その度に彼女自身も傷ついて来た。
俺も生きる為に魔物を殺して来た。これからも生きる為に生き物を殺し続ける。
それが生きると言う『罪』。
罪を背負いながらも幸せになれるようにお互いを思って生きている。
だから多くの人が幸せに暮らせるように、俺達自身がより多くの罪を背負うことが贖罪でありやるべき事なのだ。
「俺の事を恨んでくれても良い。だから皆の為に行かせて欲しい。」
俺はヴァルゴの目を見てはっきりと言った。
彼女は俺の目を見て、大粒の涙を流す。
多分、俺もヴァルゴも同じだ。他の人の幸せの為に、多くの罪を背負う人間だ。
「嫌よ…嫌。私が生きる理由を失いたくないから…私も貴方に着いて行く。」
ヴァルゴは俺に抱きつく。
「万一、俺が失敗した時にお前が邪竜を止める切り札なんだよ…分かってくれ。」
「貴方が失敗したら、私は絶望して全てを滅ぼしてしまうかもしれないわ…」
ヴァルゴの抱きしめる力が強くなる。
-さっきの魔力、多分ヴァルゴは…
-いや…これは気にすべきことではないだろう…
「なら意地でも生きて帰らないとな…」
俺は生きなければならない。死ぬ覚悟で…いや違う…
-明日を生きる為に、限界を超えなければならない。
みんなの笑顔をこれからも見守り続ける為に生きなければならない。
「生きて戻ってくると約束するなら、行かせてあげる。」
生きて帰るにはアルドラ達を…
-アルドラを倒す…いや…違う。
俺はヴァルゴと約束すれば死ねなくなる。それでも…
「必ず生きて帰る。そしてこれからも皆を守り続ける。だから」
ヴァルゴは少し離れ、俺の両肩に手を当てる。
「なら行かせてあげる。もし死んだら、貴方を地獄の底まで追いかけるから…」
「信じてくれ。」
俺は先程までと違い笑顔でヴァルゴに微笑んだ。
彼女と話して、俺はある考えが浮かんだ。それは無謀かもしれないがやる価値がある。
-そう…生きる為に…
「じゃあ2人とも、俺が戻るまでシリウス王国の事を任せて良いか?」
ヴァルゴは微笑みながらうなづいた。
「待ってるから。」




