覚悟と決意の弾丸 ~フェイタル・バレット~
重要なネタバレを含みますので、まだ話を読まれていない方はここを読む事はおすすめしません。
『カースド・バレット』
「はぁはぁはぁ…」
カースドは苦しそうにしていた…
俺はいつの間にか城の庭から、どこか知らない場所にいた…
「ゴフッ」
彼は口から大量の血を吐いた…さらには彼の左の翼はボロボロだった。
「『消滅』に対して、俺の翼1枚で済んだなら上出来だな…」
カースドは苦しそうにしながらも、アルドラを出し抜いた事で満足そうだった。
「どうして俺を助けたんだ?あのまま…」
-殺せよ!!
と言いたかった…
カースドは苦しそうに俺に近付いて、俺の胸倉をつかんだ。
「うぬぼれるな!!俺だってお前を助けたかったわけじゃない…」
「ベガを…仲間達を助けたかったんだ!!ベガ達にはただ幸せになって欲しかった。」
カースドの目から涙がこぼれる。
「俺が何の為に自らを『呪って』まで過去にやって来たと思っている…すべてはベガ達を救う為だ!!」
「お前の為じゃない!!」
カーズドは俺の自惚れに対して激昂していた。
「お前なんて助けたくなかった…でも俺にはもう命が残っていない…俺では無理なんだ…」
「ゴフッ」
カースドは口から血を吐く…彼の体は終わりが近いようだ…
「俺はお前が今思っているように未来から来た。ベガ達を助ける為に…」
こうして彼の口から、彼の辿って来た運命が語られた。
邪竜の討伐に行った後、プロキオン王が殺されていた。
失意のまま王位を継承する事になった。
カースドは王を失った虚無感からベガと話さなくなり、一緒に寝る事が無くなった為インキュバスになる事は防げた…
だがサキュバス・クイーンは他の男と寝て魔力を吸い取りながら、国を滅ぼす淫魔を増やしていった。
クイーンは今回と同様に邪竜達を召喚し、シリウス王国を滅ぼそうとした。
仲間たちと共に邪竜達を倒した。だが皆死んだ。
その後クイーンにたどり着いたが、本物のベガは人質にされ攻撃出来なかった。
攻撃を迷う中、沢山の人が殺されていった。
スカルが本物のベガを殺し、カースドは失意の中クイーンを殺した。
ベガを殺したスカルをカースドは殺し、すべてを失い自らの無力さを憎み、自らを呪った。
『呪い』によりこの世の者ではなくなったカースドは、因果の壁を越えて過去に戻る決意をした。
『ベガ達を助ける為に…』
それがカースドのこれまでの生き様だった…
-カースドの助けがあったから、王は死ななかった…
過去に戻ってカースドが気付いた事があった…
インキュバスとなったアルタイルは俺の身代わりになり、サキュバス・クイーンのドレインによる、俺の弱体化を防ぎ続けていた。
また隙があれば自らもドレインを行ってクイーンの弱体化を計っていた…
つまり俺の力を吸い力を蓄えていたクイーンから、魔力を吸い取ることで彼女の計画を大幅に遅らせた。
竜に呪いをかけたのはサキュバス・クイーンだった…俺から吸い取った魔力で竜を『呪い』邪竜を作っていた。
これによりペテルギウス山脈の邪竜の転化を最小限に抑えられた。
インキュバスとなった『俺』も因果の壁を越えてクイーンの野望を阻止しようとしていたのだった。
俺達に全てをつなぐため…
「俺もクイーンの計画を少しでも遅らせる為に、お前がベガだと思っている奴を寝取った。」
「お前の身代わりになりつつも、自らの『呪い』を使い、少しずつクイーンを『呪』っていた。」
「万全のお前ならクイーンの野望を阻止できると思っていたからだ…」
-つまりは俺はこいつらに寝取られる事で、ドレインされず弱体化しなくて済んだのか…
カースドはそれを言い終わると再び血を吐いた…もう限界のようだった。
「王を助け、ベガを助けたつもりだったけど、俺にはまだ足りなかった…」
カースドは悔しそうに言う。
「俺では力不足だった。命もここまでだ…だから悔しいが、ベガ達を助けられるのは、もうお前しかいないんだ…」
カースドは一呼吸置いて言った。
-確かに自らを呪って過去に行けば可能性はある…だが、勝ち目はあるのか?
「『ベガ達を助ける為』に、『ベガに幸せになって貰う為』に、お前は自らに『呪い』を課し過去に行く覚悟はあるか?」
「ベガの隣に立つのが別のアルタイルでも、ベガを助ける為に自らを『呪』えるか?」
『呪い』…この世の者ではなくなる証…
この『呪い』によって自分と違う存在になり、この世の理から外れれば、因果の壁を越えて時を遡る事が出来る…
インキュバスとなった自分、自らを呪ったカースドがしてきたように…
-ベガ達には幸せになって欲しい…
俺に迷いはなかった。ベガ達が助けられるから…そして本物の彼女が幸せになるなら…
「当たり前だ…俺はベガ達を助ける為ならなんだってやる!!」
もう仲間を失いたくない…そしてベガには幸せなまま、人生を送って欲しい。
「例えベガの隣にいるのが『俺』じゃなくても…」
俺がバケモノになったとしても
「俺は最愛のベガに『幸せ』でいて欲しい!!」
俺はベガの為になら死ねる。例え自らが呪いで汚されようと…
「彼女が仲間達が笑顔でいてくれれば、俺はそれで構わない!」
「全てをやり直し、みんなを救えるなら俺がどうなろうと構わない!!」
空っぽだった俺に、最後の希望の灯が燈った。
「だからベガ達を助ける為なら、『呪い』でも受けてやるし、バケモノにでもなってやる!!」
カースドは俺の言葉を聞き大粒の涙を流しながら言った。
「ならば『俺』の最後の願いだ。俺の代わりにベガ達を助けてくれ…」
「お前の願いをここで終わらせはしない…だから俺に全て任せてくれ!!」
-お前の願い…いや『俺』たちの願い…
俺がカースドに言うと、カースドは涙をこらえて笑ってくれた。
「今日は死ぬには良い日だ…俺の意思を継ぐ勇者『アルタイル』に全てを任せられる…」
俺はふとインキュバスの言葉を思い出す…
「今日は勇者アルタイルの死ぬ日だ!」
-あいつは最初から自分が死ぬつもりで?
彼はツクヨミを左手に構えて俺に向ける。
「俺が今からお前を『呪う』。本当にお前は『呪い』を受けても後悔はしないな?」
「当たり前だ!!」
俺は真剣な眼差しでカースドを見つめる。
カースドも俺である為、その言葉に偽りが無いと悟った。
カースドはツクヨミを俺に向ける。
だがカースドは何かを思いついたかの様に、ツクヨミを入れているホルスターの中を探る。
そして一つの弾丸を取り出す…
「この弾丸ならもしかして…」
俺に聞こえない位の小さな声で呟く。
「呪われた俺には使えなくなった、弾丸『フェイタル・バレット』」
「これをお前に撃ち込む。覚悟は良いな?」
ツクヨミに彼はフェイタル・バレットを詰める。
本来は弾は必要ないツクヨミだが、弾を装填することも出来る。
俺は膝をつき頭をカースドに向ける。
両手を組み、まるで神に祈るポーズをする。
次こそはベガを助ける誓いを立てて
カチッ
リボルバーが動く音がした。
カースドはツクヨミの引き金に人差し指をかける。
「最後にベガを助けられたら言って欲しい…」
「『幸せになってくれ』って…」
俺はこの時、最初のインキュバスが俺に最後に言った事を思い出す。
「いつかベガに『愛してた』って伝えてくれないか?」
その姿が今カースドと重なっていた…
-ベガを助ける為に…『俺』は
彼の言った『愛してた』の意味がやっと分かった。
俺も彼女を『愛している』。
目の前にいる『俺』カースドもベガを愛している。
だが彼はもう彼女を愛せない…だから『幸せになってくれ』と言ったのだ…
インキュバスとなったアルタイルも彼女を愛していたからこそ、「『愛していた』と伝えてくれ」と言ったのだ。
それぞれ異なる『俺』だが、それでも全員の願いはただ一つ
俺が人を捨ててまでの願い…
『ベガ達を助けたい!!そしてベガには幸せになって欲しい。』
俺は最後にカースドに口を開く。
「分かった。俺が必ずベガに伝える。お前の言葉、いや今までの『俺』の言葉を伝える。」
「ベガ達の事はこの『俺』勇者アルタイルに任せろ!!次こそ必ず助けてみせる。」
そう言うとカースドは笑った。
「俺も勇者アルタイルだ。バァカ!!」
「じゃあお別れの時だ。ベガ達を必ず助けてくれ!!」
<カチッ>
カースドは俺の頭にツクヨミを当てた。
「『フェイタル・バレット』」
<ドォォォン>
大きな銃声が木霊した。
ツクヨミの引き金がカースドによって引かれ、俺の頭は弾丸で撃ち抜かれた。
「じゃあな、後は任せたぞ『俺』!!」
そう言ってカースドは幸せそうに眠りに就く…深い深い眠りに…
薄れゆく意識の中、俺は最後までカースドを看取っていた。




