喪失
-ベガは死んだ。城の従者達は魔物になった者は俺が殺した。街の人は…
街中にたどり着いた。
人々を襲うサキュバスやインキュバスの群れ…他にも色々な魔物が攻め込んで来ていた。
邪竜の『死』の力によってなすすべなく倒れる人々…
それでも決死に人を守ろうとする勇敢な人々の姿…
でもそんな勇敢な人間から死んでいく。それでもそのおかげで助かる命もあった。
今、シリウスの城下街では魔物による虐殺という地獄絵図が広がっていた…
「アルタイル、ようやく来たか?だが現状かなりヤバい…」
そこには『獣神解放』し、上半身がライオン、鷹の翼を生やし、しっぽは蛇となっているレオの姿があった。
レオの奥義であり、自らの命と魔力を燃やして戦う最終形態…
レオの周囲すべてを無効化し、魔力は使わず力だけでの勝負に持ち込む能力…
つまり邪竜と言えど、『死』や魔力での攻撃は出来ず、レオとは力勝負するしかなくなる。
肉弾戦で必死に戦っているレオがいた。
この場面では邪竜にとって魔物は敵であるが、淫魔達にとっては邪竜は人間を殺す味方の様なモノだった。
淫魔達はひたすらレオに攻撃を仕掛け続ける。
一対多数だがレオは応戦していた。
邪竜の力を無効化し、逃げようとする人間を一人でも庇い、守りながら戦う。
レオは今パープルアイズと呼ばれる邪竜と戦っている。グリーン・アイズと呼ばれた邪竜は既に倒されて死んでいた。
「アルタイル!!もう一体が、西側に逃げた。追ってくれ。」
辛そうだが、俺に一人でやれるとレオは目配せして俺を先に行かせてくれる。
「分かった。レオも無理するなよ…」
-無理するなよ…?違う…あいつはもうギリギリの状態で戦っている…多くの人の命を助ける為に…死を覚悟して…
分かってはいる。街の人を助けなければ…分かっているんだ…
俺は西側の邪竜の方にアマテラスで空間を切り裂き移動した。
西側のクリア・アイズの元にたどり着いた。
ヴァルゴとキュアリスが共闘していた。
ヴァルゴの影魔法でサキュバス・インキュバス達と邪竜を拘束し、生きている街の人達を逃がす…
キュアリスの結界のおかげで街の人は邪竜による『死』を回避出来ていた。
-キュアリスがお菓子を食べていない…そこまで余裕がないんだ…
彼女はその場から動けない程集中していた。それをヴァルゴが影魔法で援護していた。
影魔法によりキュアリスを攻撃しようとする魔物を拘束していく。
この状況でキュアリスの結界が解かれれば多くは『死』ぬ。
つまり俺は早く邪竜を倒さなければならない。
「助けてぇ…」
瓦礫によって足を挟まれて動けなくなった女性がヴァルゴに助けを求める。
「今行きます。」
そこに近付いていくヴァルゴ。
だが物陰の魔物がそれに気付く。
「危ない。」
助けに行くヴァルゴの隙を狙ったかの様に、影に隠れていた魔物がヴァルゴを攻撃する。
だが俺はそれを防ぐ。
「これ以上、人を死なせはしない…」
俺が決意を固めた時だった。
「大丈夫ですか?」
ヴァルゴは助けを求めた人の手を取った。その人は笑顔で「ありがとう」と言った。
無事人が助けられて安心した俺は、ホッとした。
気を取り直し剣を構えて邪竜に斬りかかろうとした。
その時だった…
「アル…」
悲し気にヴァルゴが俺を呼んだ…それに俺は応え、ヴァルゴの方を見た…
ヴァルゴは心臓辺りにナイフを刺されていた。
「イヒヒヒヒヒヒ」
サキュバスだった…瓦礫で動けないフリをしてヴァルゴを狙っていたようだった…
その瞬間、影魔法でのヴァルゴの拘束が緩くなる。
「え……」
邪竜と淫魔たちが影による拘束から解かれた。
一瞬にしてキュアリスとヴァルゴの元に攻撃を仕掛ける。
-させはしない…
俺は必死にキュアリスを守る。
アマテラスで斬って、ツクヨミで撃って…一心不乱に戦った。
もう何も失いたくなかった。
「ごめんなぁ、アルよ…はよ逃げてくれ…もう…」
キュアリスがそう呟いた。
余裕が無いようだった。彼女はか弱いながらも俺を突き飛ばして距離を離した。
その瞬間、魔物達が彼女に向かおう特攻する。
だが何もない空間にキュアリスは呑み込まれていった。魔物も同じように呆気なく…
それがキュアリスの最後だった。
『魔力暴走』…クールタイムを設けずに連続して大きな魔法を使用すると、体の魔力が暴走してしまう現象だ…
魔力維持を必要とする魔法は総じて集中力を要する。
キュアリスはその集中力を途切れさせないよう、魔法使用中にお菓子を食べるのだ。
複数の魔法を同時詠唱する彼女が、魔力を暴走させない為に…
ブラックホールの様に大きな黒い球体が、物凄い引力を放つ。
キュアリス目掛けて攻撃しようとしていた、邪竜と淫魔達は簡単に吸い込まれて消えていった…
その後その黒い球体は容赦なく他のモノも吸い込み始めていた。
建物のがれきや死体、そしてまだ生きている人…
苦しそうに心臓を抑えるヴァルゴも吸い込まれていく。
「ヴァルゴ!!」
俺は黒い球体に吸い込まれるヴァルゴを助けようと手を伸ばし彼女に駆け寄ろうとした。
だがその場で急に動けなくなる。
-何が起きた?
俺の陰にはヴァルゴのハイドラによる蛇が付いていた。
他にもまだ生きている人々の影にもハイドラの蛇が付き、黒い球体に呑み込まれないようにその場に固定していた。
「バイバイ」
ヴァルゴは最後に俺に微笑んだ。
沢山の人を助けようとしたヴァルゴも黒い球体に呑み込まれていった。
その周辺の魔物を吸い込みつくし、吸い込むモノが無くなると黒い球体は消えた。
そして俺は大切な物を何もかも失っていった。




