忍びよる『死』
「ギャアァァアァァ」
大きな竜の轟が響き渡る。
そしてはるか先の上空から翼を羽ばたかせる音が聞こえくる。だんだんと羽音は大きくなっており、物凄い速さでこちらに向かって来るようだった。
竜は縄張り意識が強いため、こちらでの異変に気付いたのだろう…
邪竜が近付くにつれて大量の生物がなすすべもなく息絶えていく。
邪竜がいる事を知らない人間がこれを見たら、何が起きているか理解できない光景だ…
『死』がただただ近付くだけで、結界を貼るキュアリスは一層気を抜けない状態になってくる。
俺も自らの空間操作を使い、自らに結界を施す。俺の力では自分自身に行うのが限界だ。
結界を張っていても『死』の感覚は感じてしまう…
常に喉元に刃物を当てられたようなヒリヒリした感じの気味の悪さ…
重力が2倍にでもなったように体が動かし辛くなる倦怠感…
結界を張っても『死』は常に隣にあって、隙あらば命を奪おうとしている感覚にさらされる。
「やるか…獣心解放」
レオはそう言って上半身をライオンの姿に替える。
「アル、いくよ」
ヴァルゴも影魔法の準備をしている。
「スカル!!やっぱりアメ玉返して…」
先程スカルにあげたアメ玉で最後の様だった。キュアリスのアメは早くも尽きたようだった。
「キュアリス、お菓子!!」
俺は右手を使い空間から沢山のお菓子の入った袋を取り出す。
ニパァとキュアリスは笑顔になった。
「100%元気、もうやりきるしかないぞい!!」
キュアリスは凄く元気になった。
そうして少し準備を整える間に邪竜はおよそ100m圏内…
俺達のいる場所から邪竜の姿がはっきりと目視できる。
4つん這いで全長10メートル程で黒い体に鋭く緑色に光る瞳、鋭い銀色の爪は血にまみれている。
-この邪竜が20m圏内に入り、キュアリスが殺された時点で俺達は全滅の可能性が出てくる。
気を抜けない…つまり
今回の勝利条件は相手の危険度をしっかりと見定め、全員無傷でシリウス王国に戻る事…
うち1体でも狩る事が出来れば、大勝利だ。
危険度が分かれば、部隊編成や装備などの作戦が立てやすくなる。
「引き裂け」
俺はアマテラスで空間を切り裂き、そこにライオンの姿になりパワーアップしたレオが入る。
邪竜の近くから急に現れたレオが、邪竜の翼目掛けて突っ込む。
レオは魔力による効果を無効化する力を持つ為、ある程度『死』に対しての態勢を持つ。
だからいつも相手の出方を伺う先方として重宝される男だ。
空を飛ぶ竜が空を飛べなくなるだけでこちらが一気に有利になる。
そして飛べなくなれば、結界を張っているキュアリスの安全性が上がる。
だから邪竜やドラゴンを討伐する際は、必ず翼から狙う。
だが邪竜も翼が狙われている事に気付きかわそうとする。
「空間を裂け、アマテラス」
「影魔法・ハイドラ」
俺とヴァルゴの2人のコンビネーションがさく裂する。
ヴァルゴの影で出来た蛇が空間から次々と伸びていき、邪竜をとらえてを動けなくする。
邪竜はまるで空中で金縛りにあったかのようにピクリとも動けなくなる。
インキュバスには難なくかわされたが、このコンビネーションは分かっていても本来かわすことなど出来ないはずなのだ…
邪竜が空中で動けない間に、レオが邪竜の左翼に穴を開ける。
その瞬間、邪竜は飛ぶことが出来ず地面に落下しかける。
しかし何とか右翼を動かし、地面への落下を回避する。一旦ゆっくりと地面に着地した。
「ギャオアァァァァ・ギィィィィ」
地面に這いつくばりながら、邪竜の大きな咆哮が当たり一帯に轟いた…まるで何かを呼ぶように…
その後フラフラながらも右翼を使って空を飛び、その場から邪竜は逃げようとする。だが再びヴァルゴの地面を這うハイドラが邪竜を捉え、その力のせいで動けない。
邪竜は体が動けない為、炎のブレスをこちらに目掛けて吹いた。
標的は自分たちの中で一番弱そうな…キュアリス…
-普通のドラゴンのブレスより熱そうだ…呪いも含んでいるのか…
「パナいの…」
キュアリスは杖をただ振って、空間をねじ曲げる。
その瞬間、邪竜の方を目掛けてブレスが直撃する。
攻撃を反射ではなく、空間を捻じ曲げてそのまま返したのだ…
魔法攻撃ではキュアリスは基本的には倒せない…何故ならすべてを相手に返してしまうから…
「チョコうまし…ドラゴンは焼けばおいしいのかのう…」
キュアリスは俺が渡した袋からチョコレートを出してどんどん食べる。そのついでに杖を一振りする。
キュアリスの空間操作で俺とスカルは既に邪竜の上に乗っていた。
俺とスカルは顔を合わせる。
「スカル、久々にやるか」
「トレス・バレット」
俺はスカルノ右手に向かってツクヨミで時間を止める弾丸を放つ。
トレス・バレットは対象の時間を固定するバレットだ。怪我の状態の保存や能力の保存に役に立つ力だ。
ただしスカルだけはこの力が例外的に作用する。
そこにスカルがいつも通り『死』を与えようとする。
「『消滅』せよ!!」
その瞬間邪竜の体が胴体から消滅していく。声すらなく…ただただ最初からなかったかのように…
死とは時間が流れるから生じる事象なのだ…つまり時間が止まった状態で死が与えられ続けるという事は、存在の否定になる。
かつては死を振りまき人間からバケモノと恐れられたスカルだが…
俺達と出会う事で、世界には存在してはならない『死』を振りまく者も消滅させることが出来る世界の天秤になる事が出来た。
-一体だけなら何とかなったな…
俺達は無事に邪竜の一体を討伐出来そうだった。むしろこの勢いで他の邪竜を倒してしまえそうだった。
その時、物凄いプレッシャーが俺達を襲った…逆らえない圧倒的な『何か』がやってくるのを肌で感じていた。
やってくるのではない…ただそこにいたのを俺達が今気づいたような感覚だった…
いつの間にか隣にいた感覚…『死』のプレッシャーを具現化したような存在だ…
「なんじゃ?このプレッシャーは?」
キュアリスが結界維持の為に食べるチョコレートの量が多くなっているようだ。つまり…
-俺達が今まで出会った事のないレベルの巨大な邪竜がいるってことか?
邪竜の振りまく『死』なのかと錯覚するくらいの重々しい感覚…
だがこれはまた違ったプレッシャーだった…
ならば早くこの邪竜を片付けて撤退しようと皆が思う。
「『消滅』しろ!!」
スカルが危険が迫るまでに邪竜を消滅させようとする。
彼の右手に『死』の魔力を込める力が強くなる…
しかし
「そこで止めておけ!!さもなくば…」
いつの間にか俺達の目の前には20メートル程の城くらいの大きさの白銀の巨竜がいた…
『神々しさ』と『絶望』
生きてても良いかと不安になるくらいの、美しすぎる者に対しての申し訳なさ…
そして勝てないと確信するほどの絶望感…
邪竜とは違う『死』の力が結界さえも浸食しているようだった。
「逃げるぞよ!!」
俺が指示する前にキュアリスが叫ぶ!!
もはや生きる事が最優先事項になっていた。
俺はアマテラスで空間を裂き、レオとスカルをキュアリスの移動圏内に移動させる。
-あとは俺だけだ…
「させんよ…」
白銀の巨竜は右爪を縦に振った。その瞬間、俺の移動の為の空間が掻き消えた。
更に時間がゆっくりと進む感覚…死ぬ直前の感覚に近い気がした。
いつの間にか特殊な攻撃を受けているようだった…
-頭の回転が早くなっているのに、体がそれに動かない…
世界の動きが早く進んでいるように感じる。いや俺の動きがゆっくりになっている…
-俺に出来る事は…
「アマテラス…」
空間を切り裂き
「ウノ・バレット」
ツクヨミによる弾丸をキュアリスに放つ。
最小限で今の俺に出来る最速の行動だった。
「い……け……」
少しずつ動かなくなる俺は必死に口を動かした。
頭の良いキュアリスは俺の意図に気付いてくれたのか、空間魔法を発動させた。
俺を残してパーティの全員はこの場から逃げる事に成功した。
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