勇者の人生相談
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プロローグは18時、19時、20時、21時、22時と順次公開していきます。
何卒よろしくお願いいたします。
俺はバーに魔王を倒した仲間2人と飲みに来ていた。
「人生相談があるんだ…」
ウィスキーのロックを飲み干して俺は口を開いた。酔わなければ言えなかったことだ。カウンターのテーブルに両肘をつき、両指をクロスさせて重大そうな雰囲気をかもし出す。
俺は酔いも回ってか、深紅の瞳から少し涙がこぼれそうだった。本当に辛い相談なのだ。
「は?」
両隣の2人は酔って楽しそうにしていたが、急に俺に落とされた爆弾によって真顔になった。
「はっ、魔王スペルビアを倒した勇者アルタイル様の悩み事とか解決出来る気がしねーな!!ガッハッハ。」
右隣の赤髪でライオンのような鋭い目付きの荒々しそうな男・レオは、大ジョッキのビールを一気に飲み干そうとする。ビールが彼の喉を通るたびに両腕の大きな筋肉はピクピクと動いていた。
俺は何故こいつを呼んだかと言うと、夜の店での女遊びに慣れているからだ。
-でも会ってみると俺の悩みに役に立たなそうかも…人選ミスか…?
「レオ…アルが悩んでいるのにからかわないの。アルが相談するって事は案外私達にも解決できるかもよぉ。」
左に座る長い茶髪のおっとりとしていそうな女性・ヴァルゴは、カラフルな色のカクテルを一口含みながら顔を赤らめて言った。
その青い瞳のタレ目からは俺を舐めまわすように見ていた。
彼女は分析が得意なのだ。筋肉の動き・しぐさから先手を打つタイプの賢い蛇の様な抜け目ない女性…
幽霊の様に俺の方にスッと体を傾けて、俺の耳元に顔を近づけ、色気を含ませながら耳元でささやく…
「ねぇ、悩みってなぁに?ふふふ」
彼女に耳元で囁かれれば、たいていの男性は動揺する。
普段なら俺も動揺するだろうが、俺は悩みで頭が一杯一杯で動じる事は無かった。
この通り男の扱いに慣れている。俺からして恋愛マスターに見える為、今日の悩み相談に適役だ。
俺の何もない反応にヴァルゴは少しムッとしたようだった。
しかし俺が今にも泣きそうな悲し気な表情をしている事に気付いたのか真剣な目つきになる。
2人とも驚いている。まさか魔王を倒して、富と名声を持つ俺が悩む事はないと思っていたのだろう。
だって大体の悩みってお金で解決できるから…
その後少し沈黙の時間が流れたが、城門の様に硬い口は開かれた。
「もしかすると…婚約者のベガが浮気をしているかもしれない…」
俺のその言葉に2人は動揺した。それと同時に
-パリンッ
短い白髪と髭の初老のバーのマスターが動揺して手を滑らせ、乾燥した布で拭いていたグラスが床に落ちた。
「おいおい、マジかよ…」
悩みを打ち明けられた2人は言葉に詰まり、二人ともお酒を口に含んだ。だがレオのビールは既に空っぽの為、彼は新しくビールを頼んだ。
「ヴァルゴ…こういうのは恋愛だけは百戦錬磨のお前の専門分野だろ?」
レオは右手で頭を掻きながら、まるで自分は専門外と言った表情でヴァルゴに悩みを押し付けようとした。
「魔王まで倒した勇者の婚約者を寝取ろうとするなんて余程の胆力がなきゃ無理よ…」
「よほどのイケメンなのか、よほど強いかじゃないとまずそんな事出来ないわねぇ。」
「強い」と言う言葉を聞いてレオの両腕の筋肉がピクリと動いた。
ヴァルゴは俺の口から予想外の悩みが出た事に動揺していたようだ…言葉に詰まっている…
-イケメンなら、私が寝取ってしまえば楽しめそうねぇ…
とでも思っていそうなヴァルゴの目付きとニヤリとした表情だった。
バーのマスターはレオの前に大ジョッキのビールを置き、彼はそれを一気に喉に押し込む。
「で、どうよ?相手は…強いのか?強いなら俺もそいつと戦いてぇ!!」
レオの言葉にヴァルゴも期待で目を輝かせる。
-最初から戦うのか?浮気されたらまずは話し合いだろ…
そう浮気をされたら裁判するのが世の中の決まり事だ…だが今回は話合い出来るのか?
強いかは分からない…
だが相手の事を大変言いづらい…言っても2人は理解してくれるのだろうか?
と俺は再び口を閉じた。
俺も多分イケメンの部類に入る……と思いたい。通り掛けの女性に可愛い!と言われるので、少し幼い顔立ちだが…
金髪に深紅の瞳…背は174センチでよくジュニアアイドルグループのセンターの隣にいそうと言われる顔立ちだ…
沈黙した時間が流れていた。
俺が少しの間、口を閉じた事でレオは相手が俺より強い、ヴァルゴは俺よりイケメンだという可能性を頭に浮かべている。
2人とも目つきが獲物を狩る目つきに変わりつつあった。なんかすごく口元緩んでいる…
そんな2人の表情を見て、俺の悩みを理解して解決出来るからこその表情なのだと俺は確信した…
そうこのとき勘違いしていた…
「本当に何を言っているか分からないと思うんだけれど…」
重たい俺の口から発せられた言葉…それは2人が分からないかもしれないとの一言。それに2人はワクワクしながらゴクリと固唾を飲む。
世界を支配する魔王を倒す時の方が悩みは無く俺は強かった…と思う。
そんな俺をここまで精神的に弱らせる存在…
「俺の婚約者ベガを寝取っているのが、明らかに『俺』なんだよ…」
「は?言っている事が全く分からんぞ。」
重たい空気の中発せられた言葉は、本当に2人とも何を言っているか分からないという表情だった。
さっきまでの自信ある表情はアホ面に変わっていた。
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