マドレーヌ13歳、晩秋。~謎は解けた!~
「あ。そーゆーの興味ないので大丈夫です」
手のひらを向けて制すると、フルン・スュトラッチは今度こそ大きく目を見開いた。ついでに口もポカンと開いた。
「あの茶番が先生付きの秘書官の独断専行なのは確認がとれました。わたしが聞きたいのは、なんの利益があって、先生があの馬鹿げた行為を黙認したのかってことでして」
サスペンスドラマのラストに良くある長〜い身の上話や一人よがり語りを延々と聞く趣味は、マドレーヌにはない。
「りえき…?」
「だって、秘書官がしたことでも先生に対する評価は下がりますでしょう?先生の社会的地位から考えればコスパが悪すぎるじゃないですか」
「コスパ…」
犯罪行為を経済学の観点から語り出した10代の美少女に、いい歳をした金髪美男子は目を瞬かせる。
「消去法でいくと、弱みでも握られてたか、色恋か。単なる愉快犯説も考えたんですけど、あれじゃあ内容がお粗末すぎてドキドキしないし」
「ええっと。その中だと、いちおう、色恋?になるのかなぁ…??」
こてんと首を傾げながらピシッと指を2本立てるマドレーヌに気圧されるように、フルン・スュトラッチはきょときょと視線を彷徨わせながら答えた。まさに、絶賛色恋真っ只中の相手に。
「あー、そうなんですね。すっきりしました。これでよく眠れそうです。ありがとうございます」
そうと知る由もない当人はあっけらかんとしたもので、温くなったコーヒーをこくこく飲んでいる。色恋の相手を訊ねる素振りは全くない。けれど、怒ったり不快そうな様子もない。
「…その、コメルシーさんにおかれましては、ぼくに、怒って、は、おられませんの、でしょうか?」
カタコトの王国語しか出てこない。
今日のマドレーヌは編み込んだ髪をカチューシャのようにアレンジしているせいか大人びて見え、淡い紫色に濃紺を重ねた細身のワンピースともよく合っている。急に酔いが回ったか、ぼんやりとした頭でそう思ってしまったことが恥ずかしく感ぜられた。
「なんで先生に怒るんです??」
「だって…あのとき凄く怒ってたし…」
「ああ。あの時はいい大人が王立学院の覇権争いに躍起になってると思ってたからです。でも、何か彼なりの道理があるようなので」
「そういう、ものですか?」
「そういうものなのです」
目を細めて和やかに微笑むさまにホッと胸を撫で下ろすと、頭の片隅に置いてあった違和感が徐に主張し始める。
「さっき“確認がとれた”と?」
「義兄が直接、聞き出したそうです」
真面目な秘書官が今朝になって急に休みを取ったことが思い出され、酒の力で高揚していた体からサァっと血の気が引いていく。秘書官とは、あまり親しく言葉を交わしたことはないが、よく気の付く性格で。今回のことも、思惑は様々あれども自身が仕える者の為にも仕掛けたことだと勘づいていた。
「まさか…」
「はい。西の時と同じ方法で」
マドレーヌの義兄にあたるダルドワーズ・コメルシーといえば、数年前、蛮族の首長の元へ単身乗り込んで諍いを収めた男だ。王立学院に連れ立った時は悪鬼の如き形相で周囲を睨め付けたとも聞いており、義妹を大切していることは明白だ。物静かで荒事に無縁の秘書官なぞ――。
「火酒を」
「は?」
「だいぶ飲まされたのでしょうから、明日もお仕事休まれるかもしれません。ご不便をおかけしますがご容赦を」
どうやら命の心配だけは、要らないようだ。




