マドレーヌ13歳、晩秋。~どうしてあなたが?~
総てを飲み込む濁流のように押し寄せた数多の情報が、あるべき場所へと収まっていく。
見たものは、写真のようにアルバムに。
聴いたものは、曲のようにセットリストに。
すっかり整理された頭の中。洪水が引いていくように、洗い流された跡に残ったのは、まっさらな感情と――白い光。
「…マーサさん?」
眩しさに目を開けると、よく知った優しい瞳にかち合った。
「お目覚めになられましたか。お加減はいかがでございますか?」
「とても清々しい気分です」
そうとう眠っていたらしく、うぅんと伸びをすると肩や首がポキポキ鳴る。少しばかり頭が重いことを除けば、心地良い空腹感があるだけだ。
「ただいま朝食をお持ち致します。また、旦那様が今週は学院をお休みになるようにと」
「はい、お願いしますね。そうだ。あとでケルノンさんに来てくださるよう伝えてください」
*****
「それで。聞きたいこととは?」
翌週の放課後。
気遣ってくれる学友を見送ったマドレーヌは、約束通り、学院街の一角にあるパブリック・ハウスに急いだ。ここは寮生活を送る学院生向けに酒類も提供している店で、まだ空高く太陽が昇るこの時間ではグラス磨きに熱心な店主を除き、マドレーヌ達以外の人影はない。それでもと念を押したのか、奥まった席に彼は居た。
「たくさん考えたんですけど、ちっともわからなくて。そういうモヤモヤがあると眠ってもすっきりしないでしょう?」
新調したばかりのワンピースのフレア袖をひらひら動かしてみても、テーブルを挟んで向かい側に座る待ち合わせ相手は一向にこちらを見ようともしない。
「そうだね」
それどころか、まだ昼間だというのにウイスキーを呷っている。赤みを帯びた照明のせいか、それとも投げやりな言動のせいか、粗野で野暮ったい雰囲気にまみれ、長い睫が影を落とす頬は先週よりも少しこけてみえた。
「じゃあ。どうしてあんなことをしたのか、教えてくれませんか?スュトラッチ先生」
頬杖をついてじっと覗き込むと、菫色の瞳を幽かに震わせ。グラスに残った酒をひと息に飲むとフルン・スュトラッチは少しの間、苦しげに眉を寄せ、瞼を閉じた。そうして再び開いた瞳は覚悟を決めたように力強くマドレーヌを射貫く。
「そうだ。あの茶番は全部ぼくg」
「あ。そーゆーのは興味ないので大丈夫です」




