マドレーヌ13歳、晩秋。~事前承認は大切です~
「お養父様。近く、学院警らの方達に差し入れをしたいのですが馬車を使用できる日はありますか?」
談話室にて。
マドレーヌは夜会への参加を取りやめた養両親に珍しくおねだりをする。表情の固い養父と笑顔を貼り付けた養母。いつもより口数は少なく、張り詰めた弦のようなピリついた緊張感を孕んでいる。
「ああ。いつでも許可するから存分に使いなさい」
「ありがとうございます。お養母様、しばらく学院に着ていく服を一緒に選んでいただきたいの」
「まあ嬉しい。とびっきりおしゃれをしましょうね」
表面上は和やかに進行する親子の会話に、普段の温かみはなかった。
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「お義兄さま。しばらく周りが煩くなるかもしれませんので先に謝っておきますね」
「…わかった。無茶はするなよ」
見ようによっては貴族らしい感情の籠らない笑顔を向けられて、ダルドワーズは義妹の身に何か非常に不愉快極まりない出来事が起きたと察した。
「はい。では、お疲れのところ失礼致しました。おやすみなさいませ」
頭のてっぺんから指の先まで、一寸の隙もない優美な一礼に淡々と紡がれるご令嬢に相応しい言葉遣い。成長を喜ぶ気分には到底なれないのは、それが彼女の強い怒りのサインだからに他ならない。
「ケルノン!ケルノン!!やばいぞあれ相当」
「落ち着けダル!今から説明するから」
極上の笑顔とともにマドレーヌが発した“お願い”はすぐさまケルノンからウーブリー、マーサの両人に伝わった。つまり帰宅が遅くなったダルドワーズ以外、邸内のすべての人間がマドレーヌの身に起こった事態を共有している。
「という訳で。一つひとつの仕掛けは稚拙だが、その割に手際が良いとお感じになったらしい。で、背後関係アリと踏んでいらっしゃる。それがあの不機嫌の理由だ」
「喧嘩の仁義に反してるな。そりゃあ怒るはずだ」
「…うん?そこ納得するところ?」
「子供の社会を大人が土足で荒らしてんだ。ブチギレて当然」
「あ、そうなんだ」
野生児らしい理屈で納得するあたり、もしかしたらこの兄妹は本当に根っこの部分が相当に似ているのかもしれない。ケルノンの頭の片隅に危険信号が点る。
「マディの本命が黒幕だとすりゃあ、なるほど今は雑魚の追い込み漁ってところか。ケルノン、忙しくなるぞ」




